未知。機械仕掛けの歯車。スチーム。
*
殺人の伝播は止まらない。
まるで網目のようだ。殺人犯同士の横のつながりが見えることはあっても、肝心の操作している人間の姿が見えない。どうも一対一で直接、影響を与えているっぽいのに。
しつけのされたヒモ。優男。
細身で上背がある。
弱そうな声の持ち主。
いいや柔らかい声をしていた。
そういう断片は伝わってくるけれども、どこのだれかは分からない。
糸を辿っていけばいずれ巣の真ん中に辿り着くと考えていたが、そういう構造になってはいないらしい。白雪が中心に居座ったまま端の方まで影響を与えていたのとちがって、その人は居る位置が固定されていない。
中心には、なにもない。
中心がないのかもしれない。
その人が起こし、ソルシエールが鎮める。
差し引きゼロ。若干の損失。
意味がない。
『ねえ、人は殺さないほうがいいよ』
もう、何人目だろう。ソルシエールは声をかける。
いいかげん、この作業にも飽きていた。
人が人を殺そうとする。
ソルシエールはそれを止める。
すると、ある人は激昂する。泣く。喚く。金切り声をあげる。攻撃してくる。
よくよく話を聞くと、憎悪が増幅されている。魔法なんてない。だれかが、魔法を使わずに、殺意を煽っている。
そろそろパターンの構築ができそうだ。妬む者、嫉むものに恨むもの。そのうちのほとんどをあの機能しているかわからない腐敗した警察に引き渡し、泣いて諦めたように見えた人間はそれぞれ家まで送り届けた。もしかしたらまた後で問題を起こすかもしれないが、もうソルシエールの視界の中ではないので知ったことではない。出会ったすべての人間にソルシエールが責任を持つことなんてできないし、したくない。
なんて自分は親切なんだろう、ソルシエールは思う。
けれど、そんなソルシエールの前に、怪物は一向に姿を見せない。
本当に、恥ずかしがり屋なのだろう。
あるいは、ソルシエールが殺人の完遂を邪魔しているから、姿を表さないのかもしれない。
それにそう。
売春宿の子供たち。
彼らの行く末はどうなるのだろう。ソルシエールは子供も女性も望む人間をあの環境から連れ出して、中央に渡している。ここの警察に捕まるよりは幸せな結末を迎えるはずだ。そう思う。たぶん。
ソルシエールはため息をついた。
本当に自分の親切が信じられない。いつか、存在しない天国にも行くかもしれない。
でもあの妙な少年、プエルを説得する方法はいまだ、見つからない。




