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ローマン -Between Contracts-  作者: ヤス


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chap.5 闇の銀行

仕事と顔合わせを終えたローマンとアヤは、屋敷を後にし、車を走らせた。

昼下がりの街道を進み、やがて一つの駐車場に車を停める。


二人が車を降りた先は――銀行だった。


一般客と何ら変わらない様子で、二人は店内へと入る。

窓口に差し込まれた受付カードにペンを走らせ、「A・S」と記入し、それを受付の眼鏡をかけた中年女性へと差し出した。


記入されたコードの意味を察した女性は、無言でカードを受け取ると、奥の控室へと向かう。


待合室で待機してから五分後、一人の銀行員が二人の前へと現れた。


「大変お待たせいたしました。こちらへご案内いたします」


銀行員に先導される形で、二人は奥の個室へと進む。

個室に入ると、白い手袋をした別の銀行員がすでに待機していた。


「とりあえず、この二枚を換金してほしい」


アヤは、仕事の報酬として受け取った金貨二枚を、静かに机の上へ置いた。


「かしこまりました」


銀行員は冷静な態度のまま、白い手袋で金貨を受け取る。


「こちらが換金額となります」


そう告げると、机の上に200万円が静かに置かれた。


「これが、アンタの報酬よ」


「どうも」


ローマンは短くそう言い、200万円をバッグに入れた。


殺し屋たちや裏社会の人間は、基本的に報酬を金貨でやり取りしている。

現金や銀行振込、ネット決済といった手段は、法的機関に足取りを追われるリスクがあるためだ。


そのため、取引は匿名性の高い金貨を介して行われる。

一枚あたり百万円の価値を持つその金貨によって、裏社会の経済は回っている。


そして報酬として得た金貨は、暗殺協会の管理が及ぶ金融機関でのみ、現金へと換金される仕組みになっている。


このように専用の金融網によって循環が管理されているため、法的機関による資金追跡《マネートレース》は極めて困難となっている。


ローマンとアヤが訪れた銀行もまた、暗殺協会の管理下にある金融機関の一つである。

もちろん外見上は一般の銀行と何ら変わらず、通常の店舗として開放されている。徹底した偽装と情報の秘匿により、裏社会の人間以外はもちろん、警察や法的機関ですらその実態を見抜くことはできない。


「200万もあれば、数か月は生活できるでしょ?」


「仕事でニューヨークにいた時と比べれば、金貨二枚で数か月生活できるのはまだ良心的だよな」


換金を終えた二人が銀行を後にしようとした、その瞬間――


「強盗だ!この鞄に金をありったけ詰めろ!」


マスクで顔を隠した男が、ナイフを突きつけて行員を脅していた。


「……ここで銀行強盗って、マジなの……」


「すげぇな。真っ黒な銀行で強盗するとはな……」


徹底した秘匿性の裏側には、こうした“想定外”に巻き込まれる弊害もあった。


「なぁ……この場合ってどうなる? これで協会の尻尾を掴まれたりするのか?」


「徹底した情報秘匿だから、そう簡単にボロは出ないはずだけど……」


周囲に聞かれないよう、ローマンとアヤは小声でやり取りする。


「これで警察に目を付けられるのは、ちょっと面倒だな……」


「ローマン、ここは私が行く。あんたは“サント=マリオ・ファミリー”に狙われてるし、保護プログラムの契約上もあるから、あんまり目立つのはまずいでしょ?」


「保護官が暴れていいのかよ?」


「大丈夫よ。ここは暗殺協会の管轄下。情報はいくらでも揉み消せる」


アヤは淡々と続ける。


「それに、今ここで彼を無力化しておかないと、逆に彼自身が“暗殺協会に消される”可能性がある」


アヤは手を上げ、静かに強盗へと歩み寄る。


「なんだ、お前!」


「早いうちに降参しといたほうが、あなたのためでもあるんだよなぁ~」


「は? 関係ない奴は引っ込んでろ!」


焦りと恐怖で余裕を失った強盗は、ナイフをアヤへと突きつけ、激しく威嚇する。


「まあ、関係なくはないかな~」


「ごちゃごちゃうるせぇぞ、女!」


ナイフを握ったまま、強盗は一直線にアヤへと突進した。


「……ッ!」


直後――ナイフを躱すと同時に、アヤはその腕を掴み、空いた手刀を強盗の顔面へ叩き込む。


わずか1.2秒の出来事だった。


「あんまりここで暴れたら、あなたにとっていろいろ面倒になっちゃうのよね……」


強烈な手刀を受け、強盗は意識を失い、ナイフを手放した。

あまりに一瞬の制圧に、静まり返っていた店内が次の瞬間、ざわめきに変わる。

そして――拍手と歓声がアヤへと向けられた。


「ありがとう!」


「カッコいい!!」


「すごいぞ!!」


この銀行に隠された“もう一つの顔”を知らない一般客や行員たちから、純粋な称賛の声が飛び交う。


「いやいや、どうもどうも!」


笑顔で称賛の声に応えるアヤ。


(お前が一番目立ってどうすんだよ……)


注目の的になったアヤを見て、ローマンは内心でツッコむ。


直後――ブブッ。

ローマンのスマホに通知が入る。


『こっちは適当にでっち上げて警察対応するから、先に帰っていいわよ』


アヤからのチャットだった。


(この混乱に乗じて帰るか)


ローマンは人混みに紛れるようにして銀行を後にし、アヤを残したまま車へ向かう。

そしてそのまま、先に自宅へと戻った。

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