↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ローマン -Between Contracts-  作者: ヤス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/17

chap.10 誘拐された少女たち

――繁華街。

小さなショルダーバッグを肩にかけ、蒼はただひたすら夜の街を走っていた。


(お父さんなんか……嫌い)


涙を拭かないまま、少女は雑踏の中を駆け抜ける。

そのときだった。


「わっ!」


「きゃっ!」


角を曲がった瞬間、誰かとぶつかる。


「いったたた……」


尻もちをついた蒼が顔を上げると、そこにいたのは――


「もしかして、蒼ちゃん?」


「……桜お姉ちゃん……」


「Lento」で働いていた桜だった。


「父さんが今日夜勤で弁当を忘れたから届けようとしたんだけど、どうしたの?」


「.......」


「蒼っ!」


少女の沈黙を裂くように、久慈良が息を切らして割って入る。


「あっ、久慈良さん!」


「久慈良……」


「お父さんには俺がきつく叱っておく。だから、家に帰ろう!」


「ヤダ!お父さんは私より仕事のほうが大事なんだ!」


「そんなことはない。仕事より、お前の方が大事だ、お嬢……」


「そんなの嘘だ!」


久慈良の言葉すら届かないまま、蒼は暗い路地へと駆け出した。


「蒼ちゃん、待って!」


駆け出した蒼の後を追うように、桜も路地へ走り込む。


「お嬢っ!」


久慈良も荒い息のまま、暗い路地へ飛び込んだ。


――その瞬間。

視界の奥に見えたのは、蒼と桜の二人が、何者かに強引に車へ押し込まれている光景だった。


男と女、二人組。

ヘルメットで顔は隠れている。

暗闇と逆光で輪郭も曖昧だ。


「なんだ……お前ら!!」


地面を蹴り、二人の間合いへ一気に詰める久慈良。だがその瞬間、女の手元から何かが滑るように落とされた。


――安全ピンの抜かれたM84スタングレネード。


(グレネード……!!)


「くっ!!」


暗闇の中、久慈良は即座に判断する。

次の瞬間、近くの窓へと飛び込み、ガラスを突き破って建物内へ転がり込んだ。


両手で頭を覆い、低く身を伏せる久慈良。

直後、スタングレネードが炸裂した。

眩い閃光と、耳を裂くような爆音、漆黒の路地は一瞬で白く塗り潰される。


「スタングレネードかよ!」


視界と聴覚が戻りかけた頃、久慈良はすぐに周囲を確認する。

しかし――そこにあったはずの車は、すでに消えていた。


「クソッ……!」


舌打ちが漏れる。

爆音と閃光は路地の外へも漏れ、繁華街を歩く一般人の視線が一斉にこちらへ向き始めていた。

久慈良はスマートフォンを取り出し、盈や構成員へ連絡を入れようと指を動かした。

だが――その動きが途中で止まる。


―――報告は、連れ戻してからだな。

それよりもさっき一緒にいたあの女子高生は、確かアヤの店の……


久慈良は指先をわずかに動かし、連絡先を切り替えた。

盈ではなく、アヤとローマンへ通話ボタンを押す。


「もしもし、久慈良。どうしたの?こんな時間に」


「アヤ、詳しい事情は後で必ず説明する。あんたのところにいるローマンを貸してほしい!」


「なによ、いきなり……」


「会長の娘が殺し屋に攫われた。あと、あんたのバイトも一緒だ」


「……どういうこと」


「すまない。俺の責任だ」


一瞬の沈黙。


「ウチのバイトが事件に巻き込まれたなら、ローマンはそっちに回す」


「助かる!」


「私は私で動く」


「分かった」


「敵の特徴は? 車は? どこに向かってる?」


「敵は黒いライダースーツにヘルメット。男女の二人組だ。車は黒のバン。位置は――蒼のバッグに発信

機を仕込んでいる」


久慈良は、視界に入った情報を数秒で整理し、そのままアヤへ送るように報告した。


「OK、分かった。近くの協会が管理してる施設に手配しておいた。防弾仕様の車もすぐ出せるよう申請済みだ」


「分かった。すぐ向かう」


通話を切り、久慈良はスマートフォンをしまう。



桜と対象である蒼を連れ去った無影とカンは、黒いバンを走らせていた。当然ながら、二人は周囲に悟られないよう中国語でやり取りをする。


「〈出てきたのがローマンじゃなくて久慈良で助かったわ〉」


「〈あっけなかったな〉」


「〈報酬が入るなら、それでいい〉」


ハンドルを握る無影は、淡々と車を走らせる。


「〈で、なんで関係ない女まで連れてきた?〉」


「〈その場の判断だ。現場を見られた以上、放置はできない〉」


「〈合理的ではあるわね〉」


無影(ウーイン)はバックミラー越しに、後部座席の二人を一瞥した。

結束バンドで手足を拘束され、麻袋を被せられた蒼と桜は、突然の非日常に恐怖で身を震わせていた。


「〈この女はどうする? 殺して山にでも捨てるか?〉」


「〈おいおい、それはさすがにないだろ、無影〉」


無影(ウーイン)の冷淡な判断を、カンが軽く制した。


「〈あの女子高生は、もう少し“楽しんでから”だ〉」


「〈相変わらずクズね〉」


黒いバンが山道へ差し掛かった、その瞬間――ドンッ!!

横から強い衝撃が車体を揺らした。


「――っ!?」


カンが横へ視線を向ける。

並走していたのは、久慈良とローマンを乗せた車だった。


「〈久慈良……それに、“死神”だと!?〉」


バックミラー越しにローマンの姿を捉えた瞬間、無影の表情がわずかに変わる。

ローマンは無言のままハンドルを大きく切った。

激しい衝撃と共に、車体同士がぶつかり合う。


「〈カン!!〉」


「〈分かってる!〉」


カンは後部座席からSIG MCX VIRTUSを引っ張り出した。

.300 AAC Blackout弾入りのマガジンを叩き込み、チャージングハンドルを引く。


「〈飛んで火に入る夏の虫ってのは、まさにこのことだな!〉」


次の瞬間、並走するローマンたちへ向け、銃弾の雨が叩き込まれた。


「ローマン!!」


「しっかり掴まってろ!!」


ローマンはハンドルを荒々しく切りながらも、寸分の狂いもない操作で銃弾の雨を躱していく。

.300 AAC Blackout弾が車体を掠め、火花が散る。


「お返しだ……!」


久慈良は窓から半身を乗り出し、MP7を構えた。


狙うのは前部座席のみ。

後部座席には、蒼と桜がいる為、誤射は許されない。


「――ッ!!」


トリガーを引いた瞬間、MP7特有の甲高い連射音が夜道へ響き渡る。

AP SX弾が一直線に黒いバンへ叩き込まれた。


フロントガラスへ無数の亀裂が走る。


「〈チッ!!〉」


無影は咄嗟にハンドルを切る。

車体が大きく蛇行した。

黒いバンは山道を外れ、そのまま無人の工場へ突っ込んだ。


「無影(ウーイン)!」


「〈大丈夫だ。カン、このガキだけでも連れて逃げるぞ!〉」


無影(ウーイン)は素早くトランクを開け、蒼を抱え上げる。

一方カンは、予備マガジンを差したチェストリグを羽織り、SIG MCX VIRTUSを構えながらローマンたちへ警戒の視線を向けた。


無影たちが入った工場に侵入したローマンと久慈良は車を止めて、車から出る。


「ローマン。あれ」


久慈良が指さした方向に黒いバンと麻袋被さり、横になっている桜を発見する。


『桜を発見した。蒼を奪還するから後を任せる』


蒼だけ連れさったと判断したローマンは、スマホを開いてチャットでアヤに報告する。

麻袋を被された桜は、気を失っていた。


「ローマン! こっちだ!」


「ああ」


久慈良はMP7のマガジンを交換しながら、蒼を抱えた無影とカンの後を追う。


「〈カン、その子を連れて先に行け! 私が奴らを足止めする〉」


「〈無影(ウーイン)、やれるのか? 奴らは暗殺ランク5位と2位の上位ランカーだぞ?〉」


「〈だからこそよ。あいつらを殺して、20位からおさらばしたいの〉」


「〈強欲な女だな〉」


「〈強欲で結構よ〉」


無影は不意に笑みを浮かべると、抱えていた蒼をカンへと預けた。

ローマンと久慈良が階段を上り切った瞬間、一発の銃弾がローマンの頬を掠めるように通り抜けた。


「はぁい、“死神”」


「同業者か……」


「アンタを殺して、私は上位ランカーへ昇る」


「そうかい」


ローマンは袖に仕込んでいた小型ナイフを静かに取り出す。


「ローマン、分かっていると思うが……」


「分かってる。活動停止中は殺し厳禁だろ?」


久慈良からの確認に、ローマンは素直に答える。


「そのナイフは、“手加減する”ってことか……?」


「アヤの奴に殺されるからな。骨の二、三本で勘弁してやるよ」


「優しいのね……」


「アンタが殺しに来なければ、女子供には紳士的に接する主義なんでな」


ローマンは小型ナイフを指先でくるくると回し、そのまま逆手に構えた。


「久慈良、お前は蒼を追え。この女は俺が食い止める」


「分かった。ローマン、任せたぞ!」


「行かせないわよ!」


久慈良がMP7を握り締めたまま駆け出したその瞬間、無影は太腿のホルスターからNP42を抜き放ち、躊躇なく久慈良へ照準を定める。


だが直後――横合いから繰り出されたローマンの長い脚が、NP42ごと無影の腕を蹴り上げた。

乾いた銃声。


放たれた弾丸は大きく軌道を逸れ、コンクリート壁へ突き刺さる。


「行けぇ! 久慈良!」


久慈良はローマンへ一瞥すら返さず、そのまま工場の奥へと駆け抜けていく。


「まあ、久慈良よりも……アンタを殺した方が、よっぽど価値があるけどね」


無影はNP42を片手で構えながら、指先にはめていた指輪を軽く弾く。

次の瞬間、リング内部から仕込まれていた小型の刃が飛び出した。


銃と隠し刃――二つの殺意を同時に向けながら、無影は静かにローマンへ構える。















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。