第四十七話 渇望
シンが典膳の前に、静かに、しかし地を這うような獰猛さで躍り出る。
大気中に揺ら揺らと漂う白と朱の霊気が、渦を巻いてシンの肉体へと吸い込まれていく。
それは原初の灰牙が、かつての牙を取り戻そうとするかのような、不気味な脈動だった。
「……初めて見たよ。あんたが色を創るなんていうところをさ」
沈黙を切り裂いたのは、朱禰だった。
シンの言葉によって、ようやく死の呪縛から生気を取り戻した須藤家の女王。
「……始祖様か何だか知らないけどさ。言ってることとやってることが、酷く矛盾してるよ……今のあんた、誰よりも死を願っているじゃないかっ!!」
朱禰の瞳は、苛烈に、そして射貫くように典膳を見据えていた。
熱を帯びたその言葉が、凍りついた空気をぴきりと割る。
典膳の無機質な表情が、一瞬、微かに動いた。
冷徹を極めたはずの声が、わずかな愉悦――或いは、自嘲の喜び。
「矛盾か……確かにそうかもしれぬな……死を、願っているか。私が」
典膳はゆっくりと自らの白皙の手を見つめ、唐突に、その肩を小さく揺らした。
「……くくくっ……くはは、はははははっ!!」
典膳の色のない声が、狂喜となって夜の静寂に響き渡る。
それは笑い声というよりも、数千年の孤独が限界に達して弾けたような、空虚で、あまりに痛々しい叫びだった。
「その通りであるなあ!私は不死に、この世界に、心底退屈している!飽き果てているのだ!!」
色のない瞳が、感情の激流に晒される。
「だからこそ、お前たちに……この矮小で不完全な種子に、少しばかりの期待をしたのかもしれぬ……愚かなる同胞でありながら、私の血の端くれを継ぐ、お前らという存在になぁっ!!」
典膳の光なき灰色の瞳が、ぎらついた猛獣のような色――渇望に焼き付くような色へと変質する。
「この渇きがわかるか?……永劫という名の牢獄に閉じ込められた、この渇きがっ!!」
沙苗は、思わず息を呑んだ。
目の前にいる男は、世界を支配する絶対者などではない。
ただ、永遠という果てしない時間の砂漠で、たった一滴の終わりの水を求めて彷徨い続ける、哀れな亡霊だ。
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『輪廻の瑕疵』は、毎日18:00に更新予定です。
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