4話「ひび割れた核と、離せない手」
「ちょっとだけ待って!」
そう言いながら駆け出した瞬間、我ながらひどい返事だな、とアウリィは思った。
待てる状況じゃないのは本当にその通りだった。坑道の壁のひびから噴き出した青白い水は、ただ濡れるだけの水じゃない。冷たさが皮膚を刺すのではなく、もっと内側――息とか、音とか、そういうものを奪ってくる感じがする。
煙はまだ薄く残っている。
黒炉会の気配も消えていない。
ガンツが何か怒鳴っている。
セルマが退避を指示している。
ニクスはたぶん本気で怒っている。
全部わかっている。
わかっていても、球体の中から届いた「いやだ」を置いていけなかった。
それは理屈じゃない。
たまにあるのだ。長い旅の中で、こっちが勝手に拾ってしまう声が。誰も聞いていないか、聞いてもただの風や雑音として流してしまうものを、自分だけが変に鮮明に受け取ってしまうときが。
そういうとき、ろくなことにならない場合も多い。
でも、見捨てるほうが後味が悪い。
アウリィは水を蹴って、壁に半ば埋まった球体へ飛びついた。
「う、わっ、冷た……!」
触れた瞬間、指先が痺れる。
金属の表面は凍っているわけではないのに、芯まで冷えが走る。青白い光が手のひらを透かして、薄く骨が見える気がした。
「アウリィ、離れろ!」
ニクスの声。
離れたほうがいい。たぶんその判断は正しい。
でも今、球体の内側は明らかに乱れていた。圧が暴れて、何かが軋んでいる。ここで放るともっとまずい、という感覚がある。
「ガンツ!」
アウリィは振り返らず叫ぶ。
「これ、どこを切ればいい!?」
「切るな! 今の状態で雑に外したら壁ごと逝く!」
「じゃあどうするの!」
「知らねえから困ってんだろうが!」
ごもっともだ。
セルマが煙の向こうから怒鳴る。
「全員退避! 通路が保たん!」
「アウリィ!」
今度は本当にすぐ近くで、ニクスの声。
次の瞬間、肩を強く引かれた。
「わっ」
体勢が崩れ、そのまま後ろへ持っていかれる。ニクスの腕が腰のあたりに回っていて、ほとんど引き剥がすみたいな勢いだった。足元の青白い水がはね、二人とも膝まで濡れる。
「ちょ、痛い!」
「知るか!」
「もっと優しく――」
「今それ言うか!?」
ものすごく怒っている。しかも正論だ。アウリィは半歩ぶんだけ反省した。
だがその瞬間、球体が一段強く脈打った。
ぱき、と高い音。
表面のひびが広がる。
中から、青白い光の糸みたいなものが溢れ出した。水とも蒸気とも違う。細い、繊細な、けれど明らかに“何か”の意思を感じるもの。
ルネが小さく悲鳴をあげる。
「灯りが、泣いてる」
その言い方に、アウリィの胸がまた痛む。
泣いている。
うん、たしかにそんな感じだった。
「ニクス」
「だめだ」
「まだ何も言ってない」
「言う前にわかる」
「ちょっとだけ戻って」
「ほらみろ!」
本気で嫌そうな顔で怒鳴られた。
でも手は離していない。アウリィを庇う位置も崩していない。こういうところが、ずるいと思う。
セルマが走ってきた。肩で煙を割り、まず球体を一瞥し、それから二人を見る。
「生きてるな」
「たぶん」
「お前のたぶんは信用ならん」
「ひどいなあ」
「いまひどい目に遭ってる最中だ」
もっともである。
ガンツも合流した。ひび割れた球体を見るなり、顔をしかめる。
「まずいぞ、これ。内圧が外に漏れ始めてる。壁の向こうの配管も巻き込んで共鳴してる」
「止められる?」
セルマ。
「今すぐは無理だ。だが暴走の芯を落ち着かせりゃ――」
ガンツはそこでアウリィを見た。
「……お前、さっき触って何か感じたんだよな」
アウリィはうなずく。
「痛いのと、怖いのと、いやだって感じ」
「雑だな」
ニクスが言う。
「感覚の話だからね」
「雑でもいい。意思が残ってるなら、完全な機械じゃねえ」
ガンツは歯を噛み、決めるように言った。
「アウリィ、お前にしかできねえことがあるかもしれん」
ニクスが即座に反応する。
「待て」
「俺だって待ちてえよ! だがこのままじゃ崩れる!」
セルマが短く問う。
「できるのか」
アウリィは球体を見る。ひびの奥で、青白い光が震えている。呼吸の仕方も忘れた何かが、無理やり生き延びようとしているみたいだ。
精霊術で、触れられるかもしれない。
ただし相性はまだ万全じゃない。
しかもこの狭い坑道、水圧、崩落しかけの壁。繊細にやる必要がある。
失敗したら、自分だけでは済まない。
そこまで考えて、アウリィはふっと息を吐く。
怖い、とは思った。
でも、できないとも思わなかった。
「やる」
ニクスが目を剥く。
「即答するな!」
「迷ってる時間、なさそうだし」
「そういう問題じゃない!」
「でも、やるしかないよ」
セルマはニクスではなくアウリィを見る。
「必要な時間は」
「……少し。できれば静かにしてほしい」
「それは無理だな」
周囲でまた、きし、と不穏な音が鳴る。
「でも、邪魔はさせない」
その声に、アウリィは少しだけ安心した。
セルマはそういう人だ。できないことをできるとは言わない。その代わり、引き受けると決めたことは外さない。
ニクスが何か言いたげに歯を食いしばる。けれどセルマの視線を受けて、飲み込んだらしい。代わりに一歩前へ出た。
「俺がつく」
「ニクス」
「止めてもつく」
セルマは一拍だけ黙り、それからうなずいた。
「……離れるな」
「最初からそのつもりだ」
アウリィは少しだけ目を瞬いた。
そういう言い方をされると、胸の奥が変にあたたかくなる。困る。旅人にとって、そういうものは足を重くする。
だから軽く笑って誤魔化す。
「頼もしいね」
「あとで説教する」
「今のうちに聞いとく?」
「あとでまとめてだ」
「長そう」
「長くする」
本気だな、とアウリィは思った。
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球体の前に膝をつく。
青白い水が裾を濡らす。真紅のマントの裾が、薄暗い坑道の中でやけに鮮やかだった。
アウリィは槍を呼び出す。
ミスリルの穂先が、ひび割れた核の光を映して淡く光る。
大きな術に使うときほど派手な準備はいらない。必要なのは、相手にちゃんと触れること。雑音を避けて、怯えたものに「こっちだよ」と教えること。
精霊たちへ意識を向ける。
この世界の精霊は遠い。
でも、遠いまま無視するほど冷たくもない。
恐る恐るこちらを見ている。港の喧騒の外れから、旅人をうかがっている子どもみたいに。
「お願い」
小さく、でもはっきり言う。
「ちょっとだけ、手を貸して」
風が、ほんの少しだけ頬を撫でる。
水面がさざめく。
壁の隙間の冷気が、わずかに和らぐ。
返事としては不十分かもしれない。
でも、ないよりずっといい。
槍の石突を床へつけ、穂先を球体へ向ける。
触れるぎりぎり手前で止める。
「聞こえる?」
返るのは、最初は痛みばかりだった。
きしむ。冷たい。重い。回れ。保て。沈め。従え。
古い命令の断片。
人の手で刻まれた役目。
そして、その奥で、小さく縮こまっているもの。
怖い。
暗い。
ずっと。
ひとり。
いやだ。
「うん」
アウリィは目を閉じたまま答える。
「わかった」
後ろで、誰かが息を呑むのが聞こえた。たぶんニクスだ。外から見れば、一人で球体に話しかけているようにしか見えないだろう。
でも本当に、声はある。
言葉ではなくても、感情は伝わる。
「ボクはアウリィ」
名乗る意味があるのかはわからない。けれど、知らない相手に手を伸ばすなら、まず自分から名乗るのが筋だと思う。
「キミを引っぱる。痛いかもしれない。でも、このままよりはいいと思う」
青白い光が揺れる。
拒絶ではない。
迷いだ。
「信じて、って言うのは勝手かな」
その言葉を口にした瞬間、ふっと昔の何かが引っかかった。
誰かにそう言ったことがある気がした。
あるいは、言われたことがあるのかもしれない。
けれど、その顔も場所も思い出せない。
摩耗した記憶の縁で、何か赤い色だけが残って消えた。
「……まあ、いいや」
いま大事なのはそこじゃない。
アウリィは槍を少し進める。
穂先がひび割れた核に触れる。
きぃん。
昨夜、海底機関の青白い環を掠めたときと同じ、澄んだ音。
その瞬間、冷たい奔流が腕を駆け上がった。息が止まる。視界が青く染まる。
暗い海底。
沈んだ塔。
鎖のように絡む配管。
回り続ける環。
人の声。
命令。
もっと深く。もっと安定を。もっと出力を。
無理やり押し込められた光。
逃げたい。
でも逃げ道がない。
「っ、アウリィ!」
現実の声。ニクスだ。
腕を掴まれる。熱い。引き戻す力。
アウリィは歯を食いしばる。
「まだ、だいじょうぶ……!」
「どこがだ!」
「ちょっと痺れてるだけ!」
「それを大丈夫とは言わない!」
「ボクは言う!」
叫び返しながら、意識を繋ぎ止める。
槍を通して、ひび割れた核の中心にある“本体”へ触れる。
小さい。
弱っている。
でも、完全に壊れてはいない。
「出て」
囁く。
「そんなところで、命令の残骸に潰されなくていい」
青白い光が、どくん、と脈打つ。
拒む壁が一枚、少しだけ軋んだのがわかる。
いける。
「いま!」
アウリィは足元の水へ意識を流す。水の精霊たちは怯えていたが、核の中のものには同情している気配があった。そこを繋ぐ。やわらかく、逃げ道を作るみたいに。
「流れて。ほどいて。持ち上げて」
青白い水が逆巻いた。
坑道全体が鳴る。
壁の中の配管が悲鳴を上げる。
セルマが怒鳴る。
「持ちこたえろ!」
誰に向けたのかはわからない。たぶん全員にだ。
黒炉会の連中も、さすがにこの異様さには踏み込めないらしい。通路の向こうで人影が揺れたが、近づいては来ない。
核のひびが、さらに広がる。
そこから、青白い光の塊がするりと抜けた。
水の中を泳ぐ火みたいな、不思議なものだった。形は定まらず、魚のひれにも花びらにも見える。小さい。両手で包めそうなほどの、弱い光。
抜けた瞬間、壁に埋まっていた金属殻が音を立てて沈黙した。
青白い水の勢いが少し弱まる。
「……できた」
アウリィが息を吐いた、そのとき。
通路の向こうから、銃声。
乾いた音が坑道に響く。
咄嗟にニクスがアウリィを引き寄せた。弾丸がさっきまで彼女の頭のあったあたりをかすめ、壁に火花を散らす。
「危な――」
言い終わる前に、セルマの発砲。続いてガンツの怒鳴り声。黒炉会がしびれを切らして撃ってきたのだ。
「やっぱりそうなるかあ!」
アウリィは半分呆れ、半分感心する。悪役らしい流れだなあ、とちょっと思った。言ったら怒られるので口には出さない。
ニクスは本気で怒っていた。
「何笑ってる!」
「笑ってないよ!」
「目が楽しそうだ!」
「少しだけ!」
「認めるな!」
その叫びと同時に、通路の奥でヴァンの声がした。
「面倒だなあ、本当に!」
「そっちが言う!?」
アウリィは叫び返した。
けれど今は撃ち合っている場合ではない。坑道は崩れかけ、核は抜け、青白い光の塊はアウリィの槍の周囲を不安げに漂っている。このまま放置すれば、また何かに巻き込まれる。
「セルマ!」
「聞いてる、走れ!」
「いい返事!」
「褒めるな!」
怒られながらも、セルマの判断は早かった。黒炉会を完全に制圧するより、まず撤退。正しい。ガンツはすでに工具袋を引っ掴んで後退している。ルネも低く身を屈めている。えらい。
アウリィは槍を引き、青白い光を伴うように走ろうとした。
だがその瞬間、光の塊がびくりと震え、坑道の下へ伸びる円形の穴――古い梯子口のほうへ引かれる。
「え」
「なんだ!?」
ニクスが見る。
「下、行きたがってる」
「ふざけるな、この状況で!」
「ボクじゃなくてあっちが!」
たしかに、青白い光は逃げるだけなら通路の出口に向かうはずだ。なのに下へ行こうとしている。そこに何かある。たぶん、本体の大部分。あるいは、まだ繋がったままのどこか。
ガンツが顔をしかめる。
「核だけじゃ足りねえのか……!」
セルマは舌打ちした。
「最短で戻る。続きは上で――」
その判断を遮るように、下から低い振動が響いた。
どん。
昨夜、海の下で聞いたのと同じ音。
全員が凍りつく。
どん、どん。
今度はもっと近い。梯子口の下から、脈が打ち返してくるみたいな音だ。
ルネが青ざめる。
「来る」
ニクスが悪態をついた。
「最悪だ……!」
アウリィは梯子口を見る。
暗い。深い。冷たい空気が吹き上がってくる。青白い光はその縁で揺れ、迷っている。帰るべき場所が下にあるのだ、とでも言いたげに。
ここで逃げれば、たぶん一度は助かる。
でも、下の何かがまた上がってくる。
港で昨夜起きたことが、もっと悪い形で繰り返されるかもしれない。
そして何より、この光は下へ戻りたがっている。
戻ることで終わるのか、戻ることで始まるのかはまだわからない。
アウリィは、ほんの一瞬だけ目を閉じた。
こういうとき、自分が旅人であることを思い出す。
本来なら、深く踏み込みすぎないほうがいい。
世界ごとに少し関わって、見て、知って、笑って、去る。
一つの場所に情を移しすぎない。
そう決めている。
決めているのに。
「……だめだなあ」
自分で呟く。
「何がだ!」
ニクスが怒鳴る。
「気になっちゃった」
「最悪の答えだ!」
「そうかも!」
アウリィは目を開けた。
「でも、ここで終わらせたい」
その声は、自分でも思ったより静かだった。
セルマがじっと見る。
ニクスは息を荒くしている。今にも「却下だ」と言いそうだ。いや、実際言った。
「却下だ」
「うん」
「聞け」
「でも、下に原因があるなら」
「だからって今降りるのは自殺だ!」
「そうだね」
「認めるな!」
「でも、だからこそ今しかないとも思う」
ニクスは言葉に詰まった。怒っている。心配している。どっちも本当だ。アウリィはそれがわかるから、少しだけ胸が痛い。
その痛みをなるべく軽くするように、わざと明るく笑う。
「大丈夫。ちゃんと戻るよ」
「その台詞が一番信用できない!」
「ひどい」
「ひどくない!」
セルマが短く息を吐いた。
「……全員で下る。短時間だ。原因が見えなければ即退避」
ニクスが振り向く。
「隊長!」
「ここで引いても追われるだけだ。なら根を見ろ」
ガンツが低くうなる。
「まったく、胃が痛え」
「生きて帰ってから痛がれ」
「はいはい」
ルネが小さく手を挙げた。
「わたしも」
「却下」
セルマとニクスの声が重なる。
ルネが頬を膨らませる。
「なんで!」
「足場が悪い」
「危ない」
「知ってる!」
「知ってる奴ほど危ない」
また同じやりとりだ。けれど今回は、ルネも引かなかった。
「でも灯り、わたしにもついてくる」
たしかにそうだった。青白い光は、アウリィだけでなくルネのそばへも寄る。鈴の音を聞いていたのは彼女だ。繋がりがあるのだろう。
セルマは迷ったあと、低く言った。
「私のそばを離れるな。いいな」
「うん!」
「返事だけはいい」
「アウリィと同じこと言った」
「似るな」
「似てないよ?」
「少し似てる」
ニクスが即答したので、アウリィはちょっとむっとした。
「ボクはもう少しちゃんとしてる」
「今それを自分で言うのか」
「言うよ」
「言える神経がすごい」
「褒められた」
「褒めてない!」
そんなやりとりの最中にも、下からの脈動は近づいてくる。
時間がない。
セルマが先に梯子へ足をかけた。ガンツ、ルネ、アウリィ、ニクス。最後尾を誰が取るかで一瞬揉めたが、結局ニクスが無言で引き受けた。黒炉会への警戒もあるのだろう。
梯子は古く、冷たかった。
下へ行くほど、空気が湿る。
海の匂いが濃くなる。
それに混じって、古い金属と、どこか焦げたような匂い。
下層は、想像していたより広かった。
円形の空間。
中央に巨大な縦軸。
その周囲を取り囲むように、何重もの環が傾いて止まっている。
壊れた調圧塔の心臓部か、あるいは潮力炉の残骸か。天井は高く、その途中まで海水が満ちていて、上部の穴から薄い昼光がかすかに落ちていた。
そして、中央。
昨夜、海から現れたものとよく似た構造体が、半ば沈んだまま眠っていた。
「……うわあ」
アウリィは思わず声を漏らす。
「またそういう感想!」
ニクスが後ろで言う。
「だってすごい」
「今はそこじゃない!」
「そこでもあるよ!」
本当に、すごかった。
巨大な環の中心に、青白い炉心がある。
その周囲に、幾つもの核――さっきの球体と似たものが、花の蕾みたいに配置されていた。多くは壊れている。沈黙している。けれど一つだけ、中央の炉心と細い光で繋がっている場所が空いていた。
青白い光の塊が、そこへ向かってふわりと漂う。
「あれが帰る場所か」
ガンツが呟く。
セルマは短く言う。
「入れたら終わるのか?」
「終わるといいね」
アウリィが答えると、ニクスが即座に返す。
「願望でまとめるな」
「でも本音だよ」
「知ってる」
青白い塊は、空いた場所の前でふるふる震えている。
怖いのだろう。
戻ればまた閉じ込められるかもしれないと、わかっているのかもしれない。
アウリィは一歩進む。
「大丈夫」
また言ってしまう。自分でも、ずるい言葉だと思う。本当に大丈夫かどうかなんて、わからないのだから。
でも、今はそれしか言えない。
「今度は、閉じ込めさせない」
青白い光が、ゆっくりアウリィのほうを向く。
その瞬間、脈動が止まった。
一拍の静寂。
次いで、空間のあちこちで赤い灯りが点る。
「……あ」
ルネが言った。
「起きた」
そして奥の闇から、ヴァンの呑気な声が響いた。
「へえ。先に着いてくれて助かったよ」
最悪のタイミングである。
ニクスが振り返る。
「お前……!」
闇の向こう、別の通路から黒炉会の連中が現れる。ヴァンの手には、奇妙な装置が握られていた。黒い金属の枠に、赤い炉石がはめ込まれている。嫌な熱を持つ道具だ。
ヴァンは笑っていた。
「その核を戻してくれれば、起動は完成する。ありがとう、旅人さん」
アウリィは、すっと目を細めた。
今度は、少しだけ笑えなかった。




