表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その配信は【閲覧注意】~ダンジョン死亡配信録~  作者: にとはるいち
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/91

第84話 ハナ

 カチリ、と鍵が回る音がした。


 深夜。


 こんな時間に施錠を解くなんて、普通じゃない。

 私はベッドから降り、扉を見つめる。


 ゆっくりと、扉が開いた。


 赤。


 最初に視界へ飛び込んできたのは、深い赤色のローブだった。


 以前、別室で見たのと同じ。


 全身を包み込む布。

 そして、顔を隠す深いフード。


 教祖。


 あの少女。


 彼女は、ひとりだった。

 護衛も、幹部もいない。

 廊下の気配もない。


 完全に、単独。


 部屋の中に入り、扉を閉める。


「……こんばんは、ヤヤコさん」


 柔らかい声。


 私は警戒を解かないまま立っている。


「ひとりで来たの?」

「そうよ」


 あっさり頷く。


 本当に、ひとりらしい。


 彼女は部屋の中央まで歩いてくると、机の椅子にちょこんと腰かけた。

 見た目はただの少女だ。


「まずは……ごめんなさい」


 いきなりの謝罪に、私は瞬きをする。


「こんなところに閉じ込めてしまって」


 フードの奥で、わずかに視線が揺れた気がした。


「私は反対したんだけど、幹部たちが先走ってしまったみたいなの」


 ……へえ。


 私は腕を組む。


「じゃあ、逃がしてくれるの?」


 わざと、少し挑発的に言う。


 教祖は、少しだけ首を傾げた。


「うん。条件付きで」

「条件?」

「こっそり逃がしてあげる」


 さらっと、とんでもないことを言う。

 この子、自分が何者かわかってるよね?


「……その条件って?」


 私は警戒したまま尋ねる。罠の可能性もある。


 教祖は、少し間を置いた。

 そして、静かに言う。


「ダンジョンの外の世界について、聞かせて」


 一瞬、言葉の意味が理解できなかった。


「……外?」

「うん。ダンジョンの外」


 あまりにも真っ直ぐな声。


 私は眉をひそめる。


「外に行けばいいじゃん」


 思ったまま言った。


「教団のトップなんでしょ? 外出禁止とかないでしょ」


 でも、教祖はゆっくりと首を横に振った。


「行けないの」


 その声は、さっきまでより少しだけ重い。


「私は、このダンジョンから出られない」


 はっきりと言い切った。嘘をついている感じは、ない。


 私は椅子を引き、向かいに座る。


「……どういうこと?」

「その話も、ちゃんとするね」


 教祖は、背筋を伸ばした。

 まるで改めて、場を整えるみたいに。


「でもその前に」


 小さく息を吸う。


「ちゃんと挨拶させて」


 フードの奥から、まっすぐ私を見た。


「私の名前は、ハナ」


 教祖ではなく、ひとりの少女としての名。


「改めて、よろしくね。ヤヤコさん」


 そう言って。


 彼女は両手を上げ、フードの縁をつかんだ。


 ゆっくりと、後ろへ下ろす。

 さらりと、長い髪がこぼれる。


 そして。


 私は、言葉を失った。


 頭の上。


 額のあたりから。


 二本の、角。


 小さすぎず、大きすぎず。


 確かにそこにある、赤い角。


「……え?」


 間抜けな声が出た。


 ハナは、少し困ったように笑った。


「私、魔物と人間のハーフなの」


 ――思考が止まる。


 魔物。

 人間。

 その、ハーフ?


 教団の象徴。

 信仰の対象。

 ダンジョンの中心にいる少女。


 その正体が。


 半分、魔物。


「……は?」


 もう一度、声が漏れた。

 頭が追いつかない。


 ハナは、どこか寂しそうに言う。


「だから、外に出られないの」


 部屋の空気が、一気に重くなる。


 ……これは。


 思っていたより、ずっと面倒な話かもしれない。


 私は、知らないうちに拳を握りしめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ