第78話 彼ら
目を凝らすと、霧の中から三つの黒い影が現れた。
その影は、ゆっくりと降りてくる。
そして、次第に輪郭があらわになる。
間違いない。人だ。
三人の人間が、上空から少しずつ下降してきている。
<コメント>
・人?
・探索者か!?
・なんで飛んでるの
・固有スキルか
・飛べるのいいなあ
・こいつらドラゴン倒したの!?
・ヤバくね?
地表と距離が近づくと、さらに輪郭をはっきりとさせた。
三人とも、灰色のローブを羽織っており、顔はフードに隠れている。
探索者だと思われる。
落下せずに飛んでいられるのは、彼らのうちの固有スキルだろうか?
それぞれ、固有武器を持っているのが見えてきた。
一人は槍。
もう一人は巨大な盾。
残る一人は、水晶玉のようだ。
持っているというより、両手の間に浮かんでいるという表現が正しい。
念のため、ハンマーを構える。
三人との距離が縮まる。
すると、槍の使い手と目が合った。
「大丈夫ですか!」
女の声だった。
槍持ちの女は、上空からこちらを見て、心配そうな様子で声をかけてきた。
その声で、残る二人も私の存在に気付いた様子を見せた。
「……」
私はハンマーを構えたまま、黙ったままでいた。
三人はさらに高度を落とし、ついに着地した。
「まさか下に人がいるなんて……! お怪我はありませんか!?」
そう言って、槍の探索者がこちらに近づいてきた。
他の二人は、顔を見合わせている。
<コメント>
・敵じゃない?
・心配してくれてる
・いいやつか!?
・まだ油断できない
・戦ったら勝てるか?
「……怪我とかは、ないけど」
少し警戒しながら答えた。
とはいえ、今のところ敵意はなさそうに見えたので、ハンマーを握る手を少し緩める。
「それは良かったです……! おや、あなたは上層から来た探索者ですか?」
「……まあ、そうだよ」
「上層から来た」という表現に少し引っかかった。
他のどこから来るというんだろう?
「アンタたちも、探索者?」
ドラゴンの死体を一瞬見て、私は尋ねる。
「えっと、まあ……探索者ですね」
槍の女は少し答えに困った感じで言った。
すると、水晶を浮かべた探索者が、フードをめくって顔を出した。
「私から説明しましょう」
金髪で、ピアスをつけた男だった。私より少しだけ年上だろうか。
「私の名前は、アーロンといいます。ここ六層に本部を置く、ダンジョン教団の幹部の一人です」
「な……、ダンジョン教団!?」
ダンジョン教団。
都市伝説のように扱われてきた、謎の組織。
まさかその組織のメンバーといきなり会うことになるなんて。
<コメント>
・ダンジョン教団!?
・マジ!?
・こんなところにいるのか
・都市伝説だと思ってた
・しかも幹部って
・怪しすぎるでしょ
・教団ってマジなの
「アーロン様、そこまで言ってしまってよろしいのでしょうか?」
盾を持った探索者が言った。
「大丈夫ですよ。我々の秘密主義は、完全である必要はありません」
アーロンは、そう言いながら水晶玉を消失させた。魔素の光が散らばる。
それにならって、他の二人も武装を解除した。
「ふうん……敵じゃなさそうでよかったよ」
警戒心はまだ少し残るものの、私もハンマーを消す。
空中でドラゴンと戦えるような連中とやり合いたくはないから、よかった。
「ええ、我々もヤヤコさんと敵対したくはありません」
平然とした顔でアーロンは言う。
「私を知ってるの?」
「もちろん、有名配信者ですから」
一拍おいて、さらに続ける。
「それに、今日ここに来ることも分かっていましたよ?」
「何それ?」
「予言です」
にっこりと笑顔を見せる。
「いや、予言って……」
急に、怪しげなことを言い出した。
私はスピリチュアルなものはあんまり信じてない。
でも、「予言」というのがこいつの固有スキルだったりするのだろうか?
ローブに、水晶玉。
「占い師」という言葉が浮かんだ。
ん、待てよ?
そもそも私の動向は、配信を通じて筒抜けじゃないか……!
「六層へ向かう」と宣言してたところを、配信で観てたに違いない!
「いやいやアーロンさん、配信観てて知っただけなんじゃないの?」
私はニヤニヤと笑いながら言い返した。
「おっと、バレてしまいましたか……!」
私に看破されても、アーロンは平然として笑うだけだった。
和やかな表情のはずなのに、どうにもこいつからは胡散臭い雰囲気がぬぐえない。
<コメント>
・なんだよそれ笑
・配信で知ってただけかい
・怪しすぎる
・これが教団ジョークってやつ?
・予言とかいうやつ信用できない
「このドラゴンさ、アンタらが倒したの……?」
私は、ドラゴンの死体を見ながら尋ねた。
「ええ、厄介な相手でした」
「『厄介』で済ませられるなんて、なかなか手練れだね」
ドラゴンは、ダンジョンにおいてボス扱いされる魔物だ。
三人がかりとはいえ、見たところ無傷で打ち勝つなんて、かなりの実力者と思われる。
「ヤヤコさん、せっかくですから、我々の本部へご案内しましょうか?」
「本部……?」
アーロンは手を叩いて言った。
本部。
こいつらの活動拠点。
正直、めちゃくちゃ興味がある。
配信としても、きっと撮れ高になるのは間違いない。
「あの丘の向こうに、教会があります。そこを活動拠点としています」
「……ふうん。せっかくだから、案内してもらおうかな」
<コメント>
・マジか!?
・おおおお
・いきなり本部かよ
・着いて行って大丈夫なの??
・洗脳されるぞ!!
こうして、私はダンジョン教団のメンバーたちと一緒に、彼らの本部へ向かうことになった。




