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その配信は【閲覧注意】~ダンジョン死亡配信録~  作者: にとはるいち
第二部

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第68話 ヤヤコの特訓②

 スクールでの特訓が始まってから、二週間が経った。


<コメント>

・絵面地味やな

・今日も訓練か

・ヤヤコ頑張ってるな

・飽きてきた

・いつまで特訓するの?

・深層行けよ

・特訓も大事だろ


 許可をもらって訓練中も配信をさせてもらうことになった。

 だけど、視聴者の反応は微妙だ。


 地味な絵面が続いてるから、仕方がない。

 ……まあ、分かるけど。


「今日は回避訓練」


 カメラに向かってそう言いながら、私は軽く肩を回した。


<コメント>

・また回避か

・殴らないヤヤコ

・逃げヤヤコ

・ほんと地味

・アリサの頃と全然違うな


 胸の奥が、ちくりとする。


 比較されるのは慣れている、と思っていたけど――完全に平気というわけでもないらしい。


「よそ見するな」


 トレーナーの低い声。


 次の瞬間、視界の端から衝撃が来た。


「っ!」


 魔物の爪が、紙一重で頬をかすめる。

 反射的に一歩下がり、重心を落とす。


「今の、当たってたらアウトだ」

「分かってる……!」


 魔素の利用を抑え、最低限の動きだけで距離を取る。

 攻撃しない。追わない。深追いしない。


 それでも、神経はすり減る。


<コメント>

・今の危な

・普通に上手くなってない?

・当たってないのが逆にすごい

・倒せよ!

・でも安定感あるな


 トレーナーが、ちらりと端末を見た。


「視聴者は派手さを求める」

「……知ってる」

「だが、君が今やっているのは『深層用』だ」


 私は、少しだけ息を整える。


「私、深層に向いてると思う?」

「いいや」

「即答だね」

「当たり前だ」


 トレーナーは即座に言った。


「君は今、『死なない型』を作っている途中だ」

「……」

「それが完成する前に深層に行けば、必ず無理をする」


 図星だった。


 ゲンゾーとの共闘。

 あのときの自分を思い出す。


 勝てた。

 でも、紙一重だった。


「強くなりたいんでしょ?」

「……なりたい」

「なら、急ぐな」


 魔物が、再び動く。


 私は一歩、横にずれた。

 二週間前より、身体が自然に動く。


<コメント>

・避け方きれい

・なんか余裕出てきてない?

・これ、後で効いてくるやつだろ

・派手さないけど好き

・俺はこの路線ありだと思う


 好反応のコメント。

 少しだけ、救われた気がした。


 トレーナーが言う。


「アリサはな、強くなるのが早すぎた」

「……」

「君は、遅い」

「それ、フォロー?」

「最高の褒め言葉だ」


 私は、小さく笑った。


 強さが欲しい。

 でも――もう、「取りこぼす強さ」はいらない。


 私は、深く息を吸う。


「もう一回、お願いします」

「いいだろう」


 複数種類の魔物が配置される。


 地味で、長くて、退屈な特訓。


 でもこの二週間で、はっきり分かったことがある。


 私は、前に出るためじゃなく――

 帰ってくるために、強くなる。


 その覚悟だけは、もう揺れていなかった。


◆◆◆


 さらに数日。


 配信の画面は、相変わらず地味だった。


 回避。

 間合い管理。

 魔素配分。

 体力温存。


 倒すより、()()()()()()を優先する動き。


<コメント>

・ほんと殴らねえな

・でも被弾ゼロ続いてない?

・最初の頃と別人だぞ

・地味だけど、変わってきてるのは分かる

・これ深層用だわ


 魔物の攻撃が止まる。


「終了だ」


 トレーナーの声が響いた。


 私は、膝に手をついて息を整える。

 肩で呼吸はしているけど――倒れない。


 二週間前なら、ここで立っていられなかった。


「……どうだ」

「正直?」

「正直でいい」


 私は、少し考えてから答えた。


「強くなった、って感じはしない」

「ほう」

「……でも」


 言葉を選びながら、続ける。


「前より、『無茶しなくていい』って分かる」


 トレーナーは、静かにうなずいた。


「それでいい」

「いいの?」

「それが、生き残る探索者の感覚だ」


 彼は、腕を組む。


「アリサは、限界を超えるのが早すぎた」

「……」

「君は、限界を知るのが先に来た」


 それは、はっきりとした違いだった。


<コメント>

・先生の言葉重い

・アリサの話やめてくれ刺さる

・でもヤヤコは生きてる

・それが答えかもな

・探索者は生き残ったもん勝ちだろ


「今日で、スクールで教えられることは一通り終わりだ」

「え」


 少しだけ、意外だった。


「早くない?」

「基礎は揃った」

「じゃあ、あとは?」

「自分で潜れ」


 トレーナーは、はっきり言った。


「実戦でしか、もう伸びない」

「……」


 私は、拳を軽く握る。


 怖さはある。

 でも――以前とは違う。


「行くなら、第四層以降だな」

「深層は?」

「君が望むなら」


 即答だった。


「だが焦るな。君は、ちゃんと前に進んでいる」


 私は、小さく息を吐いた。


「……ありがとう」

「礼を言われるほどのことはしていない」


 そう言ってから、トレーナーは少しだけ言葉を足す。


「それに」

「?」

「君はもう、『誰かの後を追う段階』じゃない」


 胸の奥が、わずかに揺れた。


「それってさ……いや、なんでもない」


<コメント>

・おお!?

・後継者否定きた

・これが一番デカい

・ヤヤコはヤヤコか

・良い終わり方


 配信を切り、装備をまとめる。


 帰り道。

 通路の天井を見上げながら、考える。


 私は、アリサのようにはなれないかもしれない。

 なろうとして、たどり着ける場所でもない。


 でも。


「……死なずに、前に行く」


 それなら、できる。


 強さは、派手じゃなくていい。

 称号も、後継者も、今はいらない。


 必要なのは――

 次に進むための、確かな足場。


 私は、上層へ続く通路を見据えた。


 ここから先は、実戦だ。


 特訓は終わった。

 物語は、また動き出す。

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