表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その配信は【閲覧注意】~ダンジョン死亡配信録~  作者: にとはるいち
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/91

第67話 ヤヤコの特訓①

 翌日、私はダンジョン第二層の一角に足を運んだ。

 ここには、探索者がスキルを磨くためのスクールがある。


 受付前の通路には、既に何人かの探索者がいた。

 装備を外してストレッチしている者、黙って壁に寄りかかっている者。

 全体的に、口数が少ない。


 配信向けの軽さはない。

 ここは「見せる場所」じゃなく、「磨く場所」だ。 


 アリサも通っていた、あのスクール。


 アリサが、どんな顔でここに立っていたのか。

 正直、想像できない。

 前に出る女だった。止まる場所じゃない。


 それでも、ここに来ていた。

 その事実が、少しだけ重かった。


 受講生として登録すると、担当のトレーナーが一人付いた。


 筋肉質な男性トレーナーだった。


「アンタは……!」


 皮肉にも、アリサが特訓していた時のトレーナーと同じ人物だった。


「君が新しい受講生か。私のことを知っているのか?」

「アリサを特訓してた人、でしょ?」

「……その通りだ」


 アリサの名前を出した途端。トレーナーの表情が少し暗くなった。


「彼女の結末は私も後から知った。残念でならない……だが」


 トレーナーは、そこで言葉を切った。

 私をじっと見据える。


「君は、彼女とは違う」

「比較されるのは慣れてるよ」

「比較はしない。私はただ、『止める役』だ」


 止める、という言葉が引っかかった。

 探索者の世界で、それはあまり褒め言葉じゃない。

 前に出る者を、止める。

 つまり――一番嫌われやすい役割だ。


「……止める?」

「君の戦い方は、動画で見たことがある」

「そうなんだ。なら、話が早いね」

「あれは、長くはもたないぞ」

「……正直、自覚はある」

「だからこそ、私の仕事がある」


 そう言って、彼は私の右肩に目を向けた。


「まだ完全じゃないな」

「動く分には問題ないよ」

「問題は、『動けるから動く』ところだ」


 ぐうの音も出ない。


「今日は、計測だ」

「え?」

「まず測る。君がどこで死ぬかを」

「死にたくないんだけど」


 物騒な言い方だが、声は淡々としていた。


 第二層の模擬区画。

 実戦用に調整された魔物が配置されている場所だ。


「制限時間は三十分」

「長いね」

「だからこそだ」


 トレーナーは端末を操作しながら続ける。


「条件は単純だ。魔物を倒さなくていい」

「……?」

「魔素を三割以上残したまま、生き残れ」


 思わず眉をひそめた。


「倒さなくていいの?」

「むしろ倒すな」


 彼は、はっきり言った。


「戦闘イコール前進、という癖を切る」

「……配信者向きじゃない」

「だからだ」


 開始の合図。


 魔物が、三方向から現れる。

 数は少ない。倒そうと思えば、すぐだ。


 でも――


 私は、一歩、止まった。


 魔素残量。

 退路。

 時間。


 今まで、あまり考えなかったこと。


「行ける、けど……行かない」


 倒すなら、今だ。

 そう思った瞬間、アリサの名前が頭をよぎった。


 ――前に出るな。

 ――戻れ。

 珍しく、そんな声が自分の中から聞こえた。


 足を引く。

 距離を取る。

 最低限の牽制だけ入れる。


「そうだ」


 背後で、トレーナーの声。


「それでいい」


 三十分後。


 私は、魔物をほとんど倒さないまま、区画を出た。

 汗はかいているが、息は切れていない。


 達成感は、ない。

 勝った感じもしない。

 ただ、「終わった」という感覚だけが残っていた。


「つまらない顔だな」

「……うん」


 正直に答えた。


「これ、配信したら炎上するかも」

「だが、生き延びた」

「……それは、そう」


 トレーナーは、腕を組む。


「アリサはな」

「……」

「止まらなかった。止められなかった」


 一瞬だけ、声が低くなる。


「私は、止めるべきだった」


 沈黙。


 その言葉は、後悔というより、

 事実を確認するような響きだった。


「君は違う」

「何が?」

「止まれる」


 彼は、私をまっすぐ見た。


「それは、才能だ」

「……才能って、そういうの?」


 少し笑ってしまった。


「英雄譚にはならない。なる必要はない」


 きっぱりと言った。


「君は、帰ってくる探索者になれ」


 胸の奥が、少しだけ軽くなった。


 アリサと同じ場所。

 同じトレーナー。


 でも――


「……私は、私のやり方で行く」


 そう呟くと、トレーナーは小さく頷いた。


「それでいい」


 特訓は、まだ始まったばかりだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ