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その配信は【閲覧注意】~ダンジョン死亡配信録~  作者: にとはるいち
第二部

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第62話 彼女の美しさ

 第四層、外縁。


 安全寄りとはいえ、人の流れが少し薄くなるエリアだ。

 模倣者を探すには、ちょうどいい。


 私は配信ドローンを飛ばしながら、通路を進んでいた。


<コメント>

・今日は誰かいる?

・また模倣者探し?

・配信の頻度高くて助かる

・バトル展開ほしい

・ゲンゾー来たりしてな


「まさか」


 口ではそう言いながら、内心では少しだけ警戒していた。


 ――映像が綺麗すぎる男。

 雰囲気だけを抽出した、アリサ。


 そんなことを考えていた、その時。


 前方から、静かな足音が聞こえた。


 コツ、コツ、と。

 石畳を叩く、規則正しい音。


 現れたのは、一人の探索者だった。


 シルクハット。

 ロングコート。

 整えられた髭。


 年齢は四十代前後だろうか。

 ダンジョンには不釣り合いなほど、上品な出で立ち。


 右手には、細身のステッキ。

 指揮棒のような、無駄のない一本。


「……」


 私は、足を止めた。


 向こうも、こちらに気づく。


 一瞬だけ、目が合い――

 そいつは、穏やかに微笑んだ。


「これは、これは」


 低く、落ち着いた声。


「噂のヤヤコ君ですね」

「……あんたが、ゲンゾー?」


 彼は軽く頭を下げた。


「ええ。私がゲンゾーです」


<コメント>

・きた

・本物だ

・雰囲気やば

・ダンディすぎる

・何だこの格好


「私をご存じとは、光栄です」

「こんな場所で会うとは思わなかった」

「こちらも同じです」


 ゲンゾーは、ゆっくりと周囲を見渡した。


「今日は、随分と静かですね。魔物の湧きも抑えめだ」

「だから来てる」


 私は短く答える。


「安全第一、でしょ?」


 その言葉に、ゲンゾーは少しだけ目を細めた。


「……ええ。否定はしません」


 彼はステッキを軽く床に立てる。


「危険を避けるのは、生き残るための知恵ですから」

「アリサは、そんなこと言わなかった」


 空気が、わずかに張り詰める。


 ゲンゾーは、すぐには返さなかった。

 一拍置いて、穏やかに言う。


「アリサ女史は、特別でした」

「逃げなかっただけ」

「違います」


 きっぱりと否定された。


「彼女は、『見せる覚悟』があった」


 私は、思わず鼻で笑った。


「便利な言葉だね。覚悟」

「便利ではありません」


 ゲンゾーの声は、変わらない。

 だが、そこには芯があった。


「私は、彼女の美しさを伝えたいだけです」

「美しさ?」

「はい」


 ゲンゾーは、ドローンのレンズを見る。


「混沌の中でも、秩序を保ち、恐怖の中でなお冷静だった姿」

「……」

「だから私は、無駄な血も、無謀な危険も、排除する」


 なるほど。


 やっぱり、そうだ。


「それ、アリサじゃない」


 私の言葉に、彼は微笑んだままだった。


「そうかもしれません」


 否定しない。


「ですが、彼女の『精神』だと私は思っています」


<コメント>

・議論始まった

・どっちも譲らん

・静かな火花

・アリサ論、深いな

・バトル展開来るか?


「ねえ、ゲンゾー」


 私は、一歩近づく。


「深層、行ったことある?」


 一瞬。

 本当に、一瞬だけ。


 彼の視線が、わずかに揺れた。


「……必要があれば」

「行ってないんだ」


 確信した。


 ゲンゾーは、答えなかった。

 代わりに、静かに口を開く。


「私は、生きて伝えることを選んでいます」

「私は、死ぬかもしれない場所に行くよ」


 視線を、まっすぐ合わせる。


「アリサだったら、そうする」


 沈黙。


 数秒後、ゲンゾーは深く息を吐いた。


「……君は、危うい」

「よく言われる」

「だが」


 彼は、ほんの少しだけ笑みを崩した。


「君の配信には、確かに『濁り』がある」

「褒めてる?」

「ええ」


 そう言って、ステッキを軽く掲げる。


 ――その時。


 奥の通路から、ガサガサと、複数の足音。


 低い唸り声。

 生臭い気配。


<コメント>

・音した

・魔物?

・来たぞ

・多くね?

・鳴き声聞こえる



 通路の向こうから現れたのは、ゴブリンの群れだった。


 ゴブリン――


 緑色の肌を持つ、人型の魔物。

 人間の半分くらいの大きさだけど、そこそこの知能があり、武器を扱う。


 数は、二十を超えている。


「……思ったより、湧きが多いですね」


 ゲンゾーは冷静に言う。


「安全寄り、なんでしょ?」

「ダンジョンは、時々こういう冗談を言います」


 私はハンマーを構えた。


「どうすんの?」

「私の判断では――」


 ゲンゾーは、一歩下がる。


「ここは引くのが合理的です」


 ああ、やっぱり。


「私は、行くよ」


 そう言って、前に出る。


 ゴブリンたちが、こちらに気づき、駆け出す。


<コメント>

・ヤヤコ突っ込む気だ

・ゲンゾーどうすんの

・共闘来る?

・逃げるのか?

・ゴブリン多くね


「君は――」


 ゲンゾーの声が、背中にかかる。


「本当に、彼女と同じ道を選ぶのですね」

「違う」


 私は振り返らずに言った。


「あいつに、負けたくないだけ」


 ゴブリンの先頭が、跳びかかってくる。


 私は踏み込み、ハンマーを振り抜いた。


 その瞬間。


 背後で、ステッキが床を叩く、澄んだ音がした。


 ――その姿は、まるで「指揮」だった。


 魔法陣が、静かに展開する。


 ゲンゾーは、逃げていなかった。


<コメント>

・おお

・共闘!?

・来た!

・これは熱い

・まさかの展開

・撮れ高じゃん

・協力プレイか


 価値観は、違う。

 覚悟の形も、違う。


 それでも今は、同じ敵が目の前にいる。


 議論の続きは、この群れを越えてからみたいだ……。

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