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その配信は【閲覧注意】~ダンジョン死亡配信録~  作者: にとはるいち
第二部

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第58話 苛立ち

 一体何がそんなに私を駆り立てるのか、よく分からない。


 ただ、アリサの模倣者が湧いて出ただけ。それだけのはずだ。

 それなのに、胸の中のざわつきが止まらない。


 私はスマホを握ったまま、しばらく動けずにいた。


 冷静に考えれば、よくある話だ。

 目立った配信者がいなくなれば、その空白を埋めようとする人間が現れる。

 ジャンルとしての「死神系配信」が定着した以上、誰かが真似をするのは当然だ。


 分かってる。

 頭では。


 ……でも。


「気持ち悪い」


 思わず、声に出ていた。


 私はもう一度、さっき見つけた動画を再生した。


【深層5層・無言攻略】

【死を映す覚悟】


 サムネイルの時点で、嫌な予感はしていた。

 暗い通路。

 ローアングル気味のカメラ。

 無言。


 ――見覚えがありすぎる。


 映像が始まる。


 配信者は、ほとんど喋らない。

 わざとらしいほど、黙っている。


 魔物と対峙するたびに、間を取る。

 危険そうな動きの直前で、カメラを少しだけ引く。


 ……ああ。


 私は、すぐに理解してしまった。


 これは「雰囲気」をなぞっているだけだ。

 判断が遅い。

 立ち位置が甘い。

 何より――賭けていない。


 死にそうな場面になると、必ず引く。

 一線を越えそうになると、必ず安全側に転ぶ。


 アリサは、そんなことしなかった。


 あいつは、引かなかった。

 逃げなかった。

 撮ると決めた瞬間から、ずっと前に出続けていた。


「……違う」


 思わず、唇が歪む。


 下手だからじゃない。

 怖がっているんでもない。


 これは――

 都合よく切り取ってるだけだ。


 コメント欄を見る。


『無言なのが逆にリアル』

『最近の中では一番アリサっぽい』

『本家いなくなったから、この人でよくね?』

『死神系、継承者きたな』


 胸の奥が、じくりと痛む。


「……継承?」


 冗談じゃない。


 こんなのは、継承でも何でもない。

 死を「借り物」にしてるだけだ。


 私は動画を止め、スマホを机に放り投げた。


 苛立ち。

 嫌悪。

 それだけじゃない。


 ――悔しさ。


 認めたくないけど、それが一番近い。


 アリサは死んだ。もう、戻ってこない。


 それなのに。

 その不在を、こんな形で消費されるのが、どうしても許せなかった。


「……」


 私は、しばらく天井を見上げたまま、何も考えないようにした。


 無駄だと分かっている。

 考えない、なんてできるわけがない。


 結局、私はスマホを取り上げる。


 指が、自然に動いた。


 配信アプリを起動する。


 告知も、準備も、何もない。

 ただ、ボタンを押す。


 ――配信開始。


 画面に、自分の顔が映る。

 久しぶりだ。


 一瞬、間があって。

 コメントが、雪崩みたいに流れ出す。


<コメント>

・え?

・ヤヤコ!?

・生きてた

・久しぶり!

・復活!?

・生きとったんか

・配信キター!!


 私は、深く息を吸って、短く言った。


「……久しぶり」


 それだけで、同接が跳ね上がる。


 私は立ち上がり、装備を確認する。

 身体は、問題なく動く。


 右肩が、少しだけ疼いた。


 ――ああ。


 私は、分かってしまった。


 私を動かしているのは、正義感じゃない。

 アリサを守りたい、なんて綺麗な話でもない。


 ただ単純に。


 こんなのを、同じ場所に立たせたくない。


 それだけだ。


「今日から活動再開するから」


<コメント>

・待ってた!

・ヤヤコ復活か

・活動辞めたかと思ってた

・自室で撮ってる?

・復活嬉しい

・部屋汚くね?

・ダンジョン行くの?


 それだけ言って、配信をいったん終了する。

 短い復活宣言だ。

 

「行くか」


 誰にともなく呟いて、私はダンジョンへ向かう。


 目的の層は、分かっている。

 さっきの配信者と、同じ場所。


 同じ構図。

 同じ深さ。


 ――同じ舞台に立って、何が違うのか、はっきりさせる。


 それが、私なりの答えだった。


 胸の奥で、確かに何かが目を覚ました。


 それは、憧れでも、崇拝でもない。


 ただの、苛立ちとプライドだ。


 でも――

 今は、それで十分だった。

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