第56話 見届けた者
ヤヤコは、一人で配信アーカイブを開いていた。
通知が鳴り止まない。
SNSも、掲示板も、すべてが同じ話題で埋め尽くされている。
――アリサ、死亡配信。
それでも、彼女はコメント欄を閉じたままにした。
今は、他人の言葉を挟みたくなかった。
再生ボタンを押す。
荒い映像。
揺れる画面。
血の音。
息の浅さ。
そして、あの顔。
壁にもたれて座り込み、笑おうとしているアリサ。
ヤヤコは、途中で何度も視線を逸らしそうになった。
けれど、止めなかった。
止める資格が、自分にはないと思った。
「……ああ」
小さく、声が漏れる。
分かってしまったからだ。
これは、勝ち負けじゃない。
炎上でも、話題性でもない。
「配信者としての到達点」を、アリサはたった一人で踏み抜いている。
ヤヤコは、配信の中で死ななかった。
線を引いた。
一線を守った。
アリサは、引かなかった。
守らなかった。
逃げなかった。
そこにあるのは、才能でも、技術でもない。
覚悟の深さだった。
「……完敗じゃん」
誰もいない部屋で、そう呟く。
探索者として。
配信者として。
覚悟の深さで。
全部。
負けた。
肩に、鈍い痛みが走る。
無意識に、撃ち抜かれた右肩を撫でていた。
「……クソ」
なのに。
不思議と、その仕草は荒々しくならなかった。
むしろ――どこか、丁寧だった。
ヤヤコは、もう一度、暗くなった画面を見る。
もう、二度と配信は始まらない。
でも。
この女の背中は、消えない。
「……死神、か」
誰かがそう呼んだ言葉を、思い出す。
否定できなかった。
否定する気も、起きなかった。
「……アンタさ」
ヤヤコは、ぽつりと呟く。
「一番、配信者向いてたよ」
それが、悔しさなのか。
弔いなのか。
崇拝なのか。
もう、自分でも分からなかった。
ただ一つ。
アリサという存在は、視聴者の中で、確かに生き続けていた。
第一部 (了)




