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その配信は【閲覧注意】~ダンジョン死亡配信録~  作者: にとはるいち
第一部

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第53話 彼女の声が聞こえる

 どれくらい、戦っていたのか。


 時間の感覚は、もう曖昧だった。


 魔物は、途切れずに現れた。

 一体ずつの強さは、大したことがない。


 ――けれど、数が多い。


 私は、撃って、下がり、撃って、避けて。

 時々、近接で倒し、時々、転びそうになりながら、それでも立ち続けた。


 肩が痛い。

 脚が重い。

 呼吸が、浅い。


 毒は、まだ身体の奥に居座っている。

 感覚は鈍く、反応は遅い。


 それでも。


 私は、生きていた。


 最後の魔物を撃ち倒し、静寂が戻る。


 ……終わった?


 一瞬、そう思った。


 その瞬間だった。


 ――シュッ。


 空気が、裂ける音。


 次の瞬間。


 腹部に、鋭い痛みが走った。


「……っ!」


 身体が、勝手に前のめりになる。


 視線を落とすと、そこに――


 ヴェインパペット。


 岩陰に、完全に隠れていた。

 待っていた。

 私が、油断するのを。


 腹部が、切り裂かれている。


 遅れて、熱が来た。

 焼けるような痛み。


 私は、反射的に銃を向ける。


 ――パン。


 弾丸が、ヴェインパペットの頭部を砕く。


 ……全部、倒した。


 でも。


 足に、力が入らない。


 膝をつく。

 視界が、揺れる。


 腹部から、血が止まらない。

 手で押さえても、指の隙間から溢れてくる。


 ……まずい。


 回復弾?

 無理だ。


 毒。

 出血。

 魔素の流れ。


 どれも、もう限界に近い。


 傷口を押さえているはずの手が、遠く感じる。

 感覚が、指先から剥がれていく。


 視界が、歪んだ。


 洞窟の壁が、ゆっくりと呼吸するみたいに揺れる。

 輪郭が溶けて、重なって、また離れる。


 ――毒。


 そう理解しているのに、頭は妙に静かだった。


 そのとき。


 視界の端に、人影が立った。


 ……え?


 一瞬、敵かと思った。

 でも、そのシルエットは、あまりにも見慣れている。


 短く切った銀髪。

 私より、ほんの少しだけ背が低い。

 そして、透き通るような眼差し。


「……ルーシー?」


 声に出したかどうか、自分でも分からない。


 彼女は、岩壁に寄りかかるように立っていた。

 怪我もしていない。

 血もない。


 ――生きていた頃のままの姿。


「ひどい顔」


 きっと幻覚であろうルーシーが、そう言って笑った。


「カメラ映り、最悪だよ」

「……そう?」


 私は、息も絶え絶えで返事をする。


「やっと、ここまで来たね」

「……うん」


 不思議と、後悔はなかった。


「ねえ、アリサ」

「なに?」

「怖い?」

「……少しだけ」


 正直な答えだった。


 ルーシーは、少し考えてから言った。


「でもさ、これ、私もやりたかったことだよ」


 胸の奥が、きゅっと締まる。


「分かってる」

「分かってるなら、いいや」


 彼女は、軽く手を振った。


「続けて……ちゃんと、最後まで」

「……分かったよ」


 ルーシーは、それを聞いて、満足そうに笑った。


 次の瞬間。


 幻は、霧が晴れるみたいに、すっと消えた。


 視界の歪みだけが、残る。


 私は、深く息を吸う。


 ――最後に、できること。


 私は、震える手でポケットを探った。


 スマホ。


 まだ、あった。


 画面を点ける。

 指が、うまく動かない。


 それでも、何度かタップして――


 配信アプリを開く。


 開始。


 画面の端に、小さな赤い表示が灯った。


 【REC】


 赤い点が、暗闇の中で、やけに鮮やかだった。


 その光が、私の顔を、赤く照らす。


 ……ああ。


 間に合った。


 私は、カメラを自分に向ける。


 血まみれで、息も荒くて、ひどい顔だ。


 でも。


 これでいい。


 私は、かすかに笑った。


 ――ようやく、ここまで来た。

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