第52話 魔物たち
私は、音のする方へ視線を向ける。
身体は、まだ思うように動かない。
足は重い。
感覚が、鈍い。
立ち上がるまでに、いつもの倍の時間がかかる。
それだけで、息が上がった。
……毒が、効いている。
暗がりから、最初の魔物が姿を現した。
小型。
四足歩行。
皮膚は灰色で、目だけがやけに光っている。
グラットンハウンドだ。
普段なら、意識にも残らない相手。
でも、今は違う。
距離、十メートル。
魔物は、私を見つけると、迷いなく走り出した。
私は、銃を構える。
……重い。
腕が、微かに震える。
照準が、安定しない。
引き金を引く。
――パン。
弾丸は、わずかに逸れ、肩口をかすめただけだった。
魔物が、甲高い声を上げる。
距離、五メートル。
速い。
私は歯を食いしばり、もう一発。
――パン。
今度は、胴体にかすった。
魔物がよろめく。
だが、倒れない。
……足りない。
いつもなら、ここで終わっている。
でも、今日は違う。
魔物が、跳んだ。
私は、避けようとして――遅れた。
反応が、半拍、遅い。
爪が、肩を掠める。
布が裂け、皮膚が焼けるように痛む。
思わず、息が詰まった。
……ああ。
やっぱり。
この毒は、戦闘を「成立させない」。
完璧な動きは、できない。
判断はできても、身体が追いつかない。
私は、後退しながら、距離を取る。
回復弾を使うか?
一瞬、考える。
……意味がない。
治る。
でも、また動けなくなる。
根本が、遮断されている。
なら――
私は、銃を捨てた。
ガン、と床に落ちる音。
魔物が、一瞬だけ動きを止める。
理解できない、という顔。
私は、その隙に、前に出た。
近い。
呼吸が聞こえる距離。
魔物が爪を振るう。
私は、半歩だけ、身体をずらす。
完璧じゃない。
でも、避けられる。
肩で、体当たりする。
――ドン。
魔物が、よろける。
私は、そのまま首元を掴み、体重をかけて倒した。
力は、弱い。
腕は、痺れている。
それでも。
「抵抗させない」角度を、私は知っている。
スクールで叩き込まれた、何度も何度も繰り返した動き。
対人だけじゃなく、魔物相手にも応用できる。
グラットンハウンドが、暴れる。
喉から、湿った音がする。
私は、歯を食いしばり、締める。
……長い。
いつもより、ずっと。
でも、やがて。
力が、抜けた。
グラットンハウンドの身体が、完全に動かなくなる。
私は、その場に座り込んだ。
息が、荒い。
心臓が、早鐘を打つ。
でも――生きている。
一体、倒した。
私は、床に落ちた銃を拾い上げる。
震える手で、構える。
遠くから、また音がする。
複数。
数は……多い。
私は、ゆっくりと立ち上がった。
逃げる?
ここで、終わる?
それとも――
私は、銃口を前に向ける。
……選ぶだけだ。
生きるか。
死ぬか。
撮られるか。
撮られずに終わるか。
この状況で、まだ選べる。
それだけで、十分だった。
私は、次の魔物を待った。




