第44話 衝突
「正直アンタ、戦わずに逃げると思ってた」
「……そう見えました?」
私は、間合いを測りながら答えた。
「確かに、少なくとも、あなたよりは慎重ですね」
そう言いながら距離を取って、さらに数発撃つ。
しかし、すべて弾かれる。
「無駄撃ちじゃん」
ヤヤコが一歩、前に出る。
「それとも、ビビって距離取ってる?」
「安全な距離です」
「は?」
「死なないための」
私は後退しながら、さらに発砲する。
弾く。
防ぐ。
また弾く。
同じやり取りが、淡々と繰り返される。
「……さっきから、逃げてばっかじゃん!」
ヤヤコの声が荒くなる。
「それで探索者かよ!」
「探索者だからです」
「何がだよ!」
「距離を取るのも、撃つのも、逃げるのも」
私は言う。
「全部、選択です」
ヤヤコは舌打ちし、ハンマーを地面に叩きつけた。
バチッ、と電光が走る。
床を伝って、嫌な感触が足元に広がる。
「そういうのがムカつくんだよ!」
……電撃。
私は、距離を保ったまま、冷静に考える。
近接型。
瞬間火力。
防御力もある。
でも、動きは直線的だ。
事前に配信を見て確認した通り。
<コメント>
・ブチギレてて草
・アリサ冷静すぎ
・今光った!?
・電撃系!?
・近づかれたら終わりじゃん
・どうすんのこれ
・固有スキルか
ヤヤコが、ゆっくりと踏み出した。
「探索者なんてさ」
ヤヤコは、電撃を散らしながら続ける。
「どうせ、死にに行ってるような連中でしょ」
「……」
「危険に突っ込んで、死んで、誰にも覚えられない」
私は、撃つ手を止めない。
「だったら、撮られて金になる方がマシじゃん」
ヤヤコは、私を睨みつける。
「違います」
「何が」
「あなたは、見下してる」
私は言った。
「探索者を」
「は?」
「死ぬかもしれないと分かって、それでも入る人たちを」
ヤヤコの眉が歪む。
「綺麗事言うなよ」
「言ってません」
私は淡々と続ける。
「彼らは、選んでるだけです……死ぬ選択も、撮られる選択も、危険に踏み込む選択も」
引き金を引く。
「私はそれを、否定しない」
「……っ!」
「……あなたに、探索者を語る資格があるんですか?」
ヤヤコが、ハンマーを強く握る。
「うるさい!」
感情が、完全に表に出た。
「アンタはさ!」
「安全なところから撃って!」
「死んだ顔だけ撮って!」
「それで分かった気になってるだけだろ!」
<コメント>
・刺さるなこれ
・どっちも正しいのが怖い
・会話が一番怖い
・女同士の喧嘩きっつwww
・仲良くしろよ笑
・これ喧嘩じゃない
・思想の衝突だろ
「……」
私は、一瞬だけ考えた。
「分かった気になってるのは」
そして、言う。
「あなたの方です」
「……っ、ああもう!」
ヤヤコは、堪えきれず前に出た。
距離を詰める。
「近づけば勝てると思ってますか?」
「思ってるよ!」
ハンマーが振り上げられる。
私は、さらに一歩、距離を取る。
撃つ。
弾く。
撃つ。
けれど――電撃が、確実に近づいてきている。
足先に、わずかな痺れ。
<コメント>
・そろそろヤバくね?
・遠距離戦限界か
・近接来るぞ
・これアリサ不利じゃね?
・どっちが死んでも美味しい
・殺し合え~www
・見ごたえあるなあ
私は、それを確認してから、ドローンを見る。
まだ、撮れている。
十分だ。
この戦いは、もうすぐ終わる。
そう、判断したところで――
ヤヤコが、踏み込んだ。
私は、発砲をやめた。
<コメント>
・撃たない?
・弾切れ?
・なにする気
・まさか……
・あれ?
代わりに、弾を二つ生成する。
緑色に淡く光るそれを、装填する。
回復弾。
私は、ヤヤコの足元に向けて撃った。
――パン。
弾丸が砕け、光が弾ける。
瞬間、視界が白く染まった。
回復弾が放つ魔素の光は、かなり強い。
近距離で見ると、目が焼けるように眩しい。
「――っ!」
ヤヤコが、一瞬だけ動きを止めた。
<コメント>
・回復弾きた!!
・これよこれ
・隙だ!!
・このままいけるか!?
・さすがアリサ
今だ。
スクールで、トレーナーと戦った時と同じ。
私は横に跳んで、一気に相手の懐に入ろうとする。
しかし。
――バチンッ!!
足元の岩肌から、強烈な電撃が走った。
「……っ!」
身体が、強く痺れる。
筋肉が、言うことをきかない。
足が止まる。
次の瞬間、ハンマーが振り下ろされた。
――ドンッ!!
間一髪、地面を転がってかわす。
岩が砕け、粉塵が舞った。
<コメント>
・電撃きた!!
・やばいやばい
・動けてない
・詰んだ?
・間一髪!
ヤヤコは、ニヤリと笑った。
「甘いんだよ」
ハンマーを地面に叩きつける。
また、電撃が走る。
――バチッ。
今度は、直撃。
身体が完全に硬直する。
指先が、痺れて動かない。
私は、わざと膝をついた。
「……っ」
苦しそうな声を、出す。
<コメント>
・麻痺った
・終わったな
・これ無理だろ
・電撃強すぎ
・あかん
ヤヤコは、ゆっくりと近づいてくる。
「ほら見な。近接の怖さ、分かった?」
ハンマーを、肩に担ぐ。
大きく振りかぶる。
「後悔しな。私を子供扱いしたことを」
私は、俯いたまま、動かない。
――動けない、フリをする。
さっきの電撃。
確かに痺れはした。
でも。
私は、電撃を受ける直前に、自分に回復弾を撃っていた。
魔素の流れを、強制的に整える。
完全ではないけど、麻痺は相殺できる。
ヤヤコは、それに気づいていない。
<コメント>
・トドメ来る
・やめろやめろ
・アリサ終わりか?
・これが実力差か……
・撮れ高だなwww
ヤヤコが、完全に懐へ踏み込んだ。
――今。
私は、顔を上げた。
視線が、ぶつかる。
「……え?」
ヤヤコの声が、間抜けに漏れた。
その瞬間、私は動いた。




