第43話 遭遇
今日の配信は、静かだった。
第五層。
魔物の出は悪くないが、どれも想定内だ。
危険はある。けれど、決定的な瞬間がない。
私は、淡々と魔物を処理していく。
<コメント>
・今日は平和だな
・余裕すぎる
・アリサ強くなったよな
・盛り上がりどころ待ち
・撮れ高はよ
魔物を倒すたび、数字は少しずつ伸びる。
でも、この程度じゃ、伸びは鈍い。
――今日は、「ハズレ」の日かもしれない。
そんなことを考えながら、銃を構え直した、その時だった。
……ゴリゴリゴリ。
遠くで、何かを引きずるような音がした。
金属が、岩肌を擦る音。
通信傍受機は反応しない。
救命部隊じゃない。
魔物の鳴き声でもない。
<コメント>
・何の音!?
・今の音なに?
・聞こえた?
・奥からじゃね?
・人の音っぽい
視聴者の方が、先に気づく。
私はドローンの向きを変え、暗い通路の奥にカメラを向けた。
最初は、何も映らない。
次の瞬間。
画面の端に、巨大な影が映った。
……ハンマーだ。
人の背丈ほどもある金属の塊が、地面を引きずりながら、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
それを肩に担いだ女が、暗闇から姿を現した。
小柄な体。
不釣り合いに大きな武器。
隣に浮かぶ撮影用ドローン。
そして、妙に自信に満ちた目。
<コメント>
・でっっっか
・あのハンマーなに
・人だよな?
・配信者?
・ヤヤコじゃね?
……やっぱり。
ヤヤコ。
少し前に、メッセージを送ってきた女。
線引きする自分を大人だと思っている女。
一杯奢ると言っていたのに奢らなかった女。
そして、同業者。
私を見下すような表情が、頭に浮かぶ。
ヤヤコは、私を見るなり、口元を歪めた。
「へえ……やっぱり、ここにいた」
軽い声。
でも、そこに親しみはない。
「噂通りだね、アリサ。最近、ずいぶん派手にやってるじゃん」
私は、銃を下げないまま答えた。
「配信中です。用がないなら、通ってください」
ヤヤコの眉が、ぴくりと動く。
「冷たいなあ。せっかく、挨拶しに来たのに」
<コメント>
・空気悪っ
・火花散ってる
・同業者バトル?
・これは揉める
・どうなるどうなる
ヤヤコは、一歩、前に出た。
その動きに合わせて、ハンマーが地面に落ちる。
――ドン。
低い金属音が、ダンジョンに響いた。
「最近さ」
「アンタ、ちょっと調子乗りすぎなんだよ」
なるほど。
今日は、そういう日らしい。
私は距離を取りながら、言った。
「ここはダンジョンです。『早い者勝ち』ですよね」
「……あ?」
ヤヤコの顔が、分かりやすく歪む。
「その口の利き方。ほんと、ムカつく」
彼女はハンマーを持ち上げる。
これは……戦う気だ。
<コメント>
・うわ、始まる
・PvP!?
・ガチじゃん
・やばいやばい
・撮れ高きたwwww
・戦うの!?
・マジか!!
・[スパチャ:¥15,000]撮れ高見せてください
私は、カメラに向かって短く告げた。
「状況が変わりました。少し、荒れそうです」
同接が、跳ね上がるのが見えた。
――こうなったら、やるしかない。
私は、後ろに跳びながら発砲した。
乾いた銃声。
弾丸が、一直線にヤヤコへ向かう。
次の瞬間。
――ガンッ!
激しい火花が散った。
弾丸は、ヤヤコのハンマーに弾かれ、岩壁に突き刺さる。
<コメント>
・防いだ!?
・弾効かねえ
・ハンマー強すぎ
・やるじゃん
・ヤヤコ結構強い?
もう一発。
――ガンッ!
また、弾かれる。
ヤヤコは、動じない。
むしろ、楽しそうに笑った。
「それ、効かないって」
「中々やりますね……」
「銃だけで、ここまで来たの? 甘いよ、アリサ」
……なるほど。
今日は、「当たり」の日だ。
私は銃を構え直し、息を整える。
探索者同士の戦いなんて、間違いなく高視聴率が狙える。
ただし――負けた方は、二度と同じ場所には立てない。
それだけは、確かだった。




