第42話 善意の警告
配信を終えて、装備の点検をしていたときだった。
スマホに、ダイレクトメッセージが届いた。
まさか、ヤヤコからだったりするのだろうか。
なんて思いながら、画面を開く。
それは、思いがけない相手からのメッセージだった。
『アリサさん、はじめまして。
以前、第三層でグラットンハウンドの群れに襲われたとき、助けていただいた探索者です。
あの時は本当にありがとうございました。』
『急に連絡してすみません。
少し気になる噂を聞いたので、一応お伝えした方がいいと思って連絡しました。』
――以前、グラットンハウンドの群れから助けた探索者だ。
正直、もう忘れかけていた。
出会った探索者の顔や名前を、いちいち覚えている余裕はない。
関わった人数を数え始めたら、きっと潜れなくなる。
メッセージ内容を読んで、「噂」という言葉に、ほんの少しだけ眉が動いた。
『ヤヤコって配信者、知ってますか?
配信で、アリサさんのこと
「正直ムカつく」「一回懲らしめないといけない」って言ってました
冗談っぽくですけど、結構本気そうで……』
……なるほど。
私は、スマホを持ったまま、しばらく動かなかった。
心配してくれているのは分かる。
善意なのも、たぶん本当だ。
でも、不思議と焦りはなかった。
狙われる。
恨まれる。
敵意を向けられる。
配信を続けていれば、いつか必ず起きることだ。
これは警告じゃない。開始の合図だ。
私は短く返事を打った。
『教えてくれてありがとうございます
大丈夫です』
送信。
それから、別のアプリを開く。
ヤヤコの配信ページ。
ちょうど、アーカイブが残っていた。
再生。
軽い口調。
雑談の延長みたいなテンション。
「最近さー、アリサって女いるじゃん」
「正直、あれはないでしょ」
「探索者を舐めてる」
「一回、分からせた方がいいと思うんだよね」
コメント欄が、笑いと煽りで流れていく。
私は、音量を少し下げた。
しばらく観ていると、魔物と遭遇した。
画面に表示される、ヤヤコの戦闘シーン。
武器の持ち方。
距離の取り方。
無駄な動き。
――近接寄り。
――瞬間火力重視。
――派手だが、持久戦は苦手。
頭の中で、静かに情報を整理していく。
配信を閉じる。
スマホを机に置き、私はひとつ息を吐いた。
狙われているなら、それでいい。
向こうが私を見るなら、私も向こうを見るだけだ。




