第41話 ヤヤコの反応
夜の空気が、やけに腹立たしかった。
ヤヤコは、店の外に出た瞬間、思わず舌打ちをした。
ヒールが石畳に強く当たる。
「……クソ」
なんで、あんな言い方をされなきゃいけないんだと思った。
子供っぽい? ふざけるな。
ヤヤコは苛立った。
彼女には、アリサよりも長くやってきたという矜持がある。
炎上も、数字も、視聴者の扱いも、全部知ってる。
――線を引くのが、大人だ。
死までは撮らない。
それが、自分なりの矜持だった。
守ってきたつもりだった。
なのに。
あの女は、さらっと言った。
まるで、最初から理解していたみたいに。
「それって、怖いだけじゃないですか」
言われた瞬間、胸の奥がひっくり返った。
怖い?
私が?
「……違う」
声に出すと、余計に惨めだった。
ヤヤコはスマホを取り出し、画面を点ける。
無意識に、アリサのチャンネルを開いていた。
最新のアーカイブ。
数字が、伸びている。
コメント欄。
称賛。
嫌悪。
恐怖。
全部が混ざって、流れている。
「……『死神』、か」
コメントで、誰かがそう書いていた。
指が、止まる。
その言葉は、悪口のはずなのに、
どこか、完成形みたいに見えた。
ヤヤコは、そこまで行けなかった。
だから、線を引いた。
引いたつもりだった。
ヤヤコはスマホを強く握りしめた。
画面が、きしむ。
「調子に乗るなよ……」
誰に向けた言葉か、自分でも分からない。
しかし、ひとつだけはっきりしていた。
あの女を、放っておいたらいけない。
あれは――
いずれ、人を殺す。
そして、その瞬間を、躊躇なく撮る。
ヤヤコは、夜の街を睨みつけながら、ゆっくりと息を吐いた。
見て見ぬふりは、もうできなかった。
あれを放っておくのは、自分がずっと守ってきたものを、自分で踏みにじるのと同じだった。
「……止めてやる」
それが、正義なのか、嫉妬なのか、復讐なのか。
もう、自分でも区別がつかなくなっていた。
ただ一つ。
彼女の胸の奥で、黒いものが確かに芽吹いていた。




