表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その配信は【閲覧注意】~ダンジョン死亡配信録~  作者: にとはるいち
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/91

第27話 称賛と沈黙

 配信を再開してから、数分が経っていた。


 救命部隊は遺体を回収し、現場は急速に「片づけられて」いく。

 血の跡も、破損した装備も、あっという間に視界から消えていった。


 ダンジョンは、いつも通りの顔に戻る。


 ――でも、コメント欄だけが、戻らなかった。


<コメント>

・……

・…………

・言葉が出ない

・これ、さっきまで生きてたんだよな

・綺麗すぎて逆に怖い

・映画みたいって言った奴、今なら分かる

・でもこれ、普通にアウトじゃない?


 流れが、遅い。


 いつものように一気に押し寄せるのではなく、

 一行一行が、慎重に置かれていくような速度だった。


 私は、通路を歩きながら、カメラの角度を調整する。

 意識しなくても、手は正確に動いた。


「……今日はそろそろ、終わりにします」


 自分でも意外なほど、落ち着いた声だった。


<コメント>

・え、もう終わり?

・まあ……今日はな

・正直、見続けるのしんどい

・でも、最後まで見ちゃった

・目離せなかった


 視聴者数は、減らない。


 誰も「もっとやれ」とは言わないのに、

 誰一人として、去ろうともしない。


 その沈黙が、妙に重かった。


 帰路につきながら、私はコメント欄を横目で確認する。


<コメント>

・助けようとしたのは本当だと思う

・判断、あれ以上早くても無理だったろ

・5層は理不尽すぎる

・でもさ……

・あの配置、偶然じゃないよな?

・遺体、動かしてたよね


 ――やっぱり来た。


 私は、何も言わない。


 言い訳も、説明もしない。

 肯定も、否定もしない。


<コメント>

・いや、責めたいわけじゃない

・見せ方がプロすぎて

・普通、ああはならない

・探索者っていうより、演出家

・正直、ゾッとした

・でも……すごかった


 「すごかった」。


 その一言が、胸の奥で微かに跳ねた。


 配信を始めた頃、欲しくて仕方なかった言葉だ。


 それなのに今は、拍手をされているのか、距離を取られているのか、分からない。


<コメント>

・これ、次からもやるの?

・事故現場、ああやって映す感じ?

・もしそうなら……

・見る覚悟、いるな

・もう気軽に見れない


 気軽に、見れない。


 それは、拒絶ではない。

 むしろ、評価に近い。


 軽い娯楽ではなくなった、という宣告。


 私は、一瞬だけカメラを見る。


「……無理に、見る必要はありません」


 口をついて出た言葉だった。


「怖いなら、閉じてください」

「楽しくないなら、離れてください」


 それでも――。


<コメント>

・それ言われると逆に残るわ

・選ばせるなよ

・覚悟決まりすぎだろ

・アリサ、どこ行くつもりなんだ

・深層の向こう、見せる気だろ


 私は、少しだけ笑った。


「……さて」


 歩みを止め、配信終了ボタンに指をかける。


 コメント欄は、もう騒がない。

 代わりに、息を潜めて待っている。


 称賛と恐怖が、同じ場所にある。


 私は、それを――悪くないと思ってしまった。


「また、次に」


 配信を切る。


 画面が暗転する直前、最後に流れたコメントを、私は見逃さなかった。


<コメント>

・怖い

・でも

・見たい


 ……ああ。


 もう、戻れないな。


 そう確信しながら、私は一体、どこまで深く潜るのだろうかと自問した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ