第27話 称賛と沈黙
配信を再開してから、数分が経っていた。
救命部隊は遺体を回収し、現場は急速に「片づけられて」いく。
血の跡も、破損した装備も、あっという間に視界から消えていった。
ダンジョンは、いつも通りの顔に戻る。
――でも、コメント欄だけが、戻らなかった。
<コメント>
・……
・…………
・言葉が出ない
・これ、さっきまで生きてたんだよな
・綺麗すぎて逆に怖い
・映画みたいって言った奴、今なら分かる
・でもこれ、普通にアウトじゃない?
流れが、遅い。
いつものように一気に押し寄せるのではなく、
一行一行が、慎重に置かれていくような速度だった。
私は、通路を歩きながら、カメラの角度を調整する。
意識しなくても、手は正確に動いた。
「……今日はそろそろ、終わりにします」
自分でも意外なほど、落ち着いた声だった。
<コメント>
・え、もう終わり?
・まあ……今日はな
・正直、見続けるのしんどい
・でも、最後まで見ちゃった
・目離せなかった
視聴者数は、減らない。
誰も「もっとやれ」とは言わないのに、
誰一人として、去ろうともしない。
その沈黙が、妙に重かった。
帰路につきながら、私はコメント欄を横目で確認する。
<コメント>
・助けようとしたのは本当だと思う
・判断、あれ以上早くても無理だったろ
・5層は理不尽すぎる
・でもさ……
・あの配置、偶然じゃないよな?
・遺体、動かしてたよね
――やっぱり来た。
私は、何も言わない。
言い訳も、説明もしない。
肯定も、否定もしない。
<コメント>
・いや、責めたいわけじゃない
・見せ方がプロすぎて
・普通、ああはならない
・探索者っていうより、演出家
・正直、ゾッとした
・でも……すごかった
「すごかった」。
その一言が、胸の奥で微かに跳ねた。
配信を始めた頃、欲しくて仕方なかった言葉だ。
それなのに今は、拍手をされているのか、距離を取られているのか、分からない。
<コメント>
・これ、次からもやるの?
・事故現場、ああやって映す感じ?
・もしそうなら……
・見る覚悟、いるな
・もう気軽に見れない
気軽に、見れない。
それは、拒絶ではない。
むしろ、評価に近い。
軽い娯楽ではなくなった、という宣告。
私は、一瞬だけカメラを見る。
「……無理に、見る必要はありません」
口をついて出た言葉だった。
「怖いなら、閉じてください」
「楽しくないなら、離れてください」
それでも――。
<コメント>
・それ言われると逆に残るわ
・選ばせるなよ
・覚悟決まりすぎだろ
・アリサ、どこ行くつもりなんだ
・深層の向こう、見せる気だろ
私は、少しだけ笑った。
「……さて」
歩みを止め、配信終了ボタンに指をかける。
コメント欄は、もう騒がない。
代わりに、息を潜めて待っている。
称賛と恐怖が、同じ場所にある。
私は、それを――悪くないと思ってしまった。
「また、次に」
配信を切る。
画面が暗転する直前、最後に流れたコメントを、私は見逃さなかった。
<コメント>
・怖い
・でも
・見たい
……ああ。
もう、戻れないな。
そう確信しながら、私は一体、どこまで深く潜るのだろうかと自問した。




