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第八十六話








 ライネリカの『騎士』が主君に甘いのは、今に始まったことではない。

 他国の王族同士、適切な距離を保って接していたとしても、主君を前にして愛情を切り離せるほど、浅い繋がり(契約)ではないのだ。


「……つまり、第三皇子妃さまは、わたくしを排しようとする……可能性があると……?」

「そうですね。懸念材料として念頭におく必要がございます」


 迷いなく断言するアスターへ、ライネリカは疲労を滲ませた視線を送る。

 ガーデンパーティで助けを借りられるのは、デージル公爵夫人であるラジレイシアと、従者のバラ。そして会場の外側で警護するリンドウだ。他の男貴族は居ないものの、必然的に女の戦場となる。

 社交経験の少ないライネリカが、明らかに敵意ある相手と戦う事は至難の業だ。エイロス王妃が側にいる可能性もあるが、彼女がライネリカを、本当の意味で手助けしてくれる事は無い。

 特にこういった場合。リュグザの機嫌を損ねる悪手を避けるため、目に見える形で排除される事が無い代わりに、水面下での攻防となる。

 一難去ってはまた一難、としか言いようがない。

 ライネリカはため息を吐き出した。


「……心得ましたわ。わたくしも()()ベルジャミン王家の一員ですもの。第二王女としての矜持は持ちましょう」

「お守り出来ず、申し訳ございません」


 頭を下げるアスターに首を振り、ライネリカは気持ちを切り替えて全員を見渡した。


「ですがまずは、明日の晩餐会ですわね。日程は1日だけとなったようですが」

「はい。ジャダルは不参加ですが、シスボイリー王、並びに皇后陛下や、他の王族は出席があります。ですが人の目も多いので、おいそれと手出しはしてこないでしょう。会場内は我々『騎士』が警護におりますから、ご安心ください」


 結局、啖呵を切っておきながら甘えることになるのだな、とライネリカは些か遠い目をして肩を落とす。

 ライネリカがリュグザの存在に守られている事が、周囲の目から見ても分かるほどなら、確かに晩餐会は安全だろう。ジャダルの勢力が失速しつつある今、シスボイリー国はリュグザ一強と言っても過言ではない。

 おもねろうと両手を擦る人間はいても、公の場で貶めようと考える人間は少ないはずだ。

 ──しかし。


「……兄上さまの行方は、未だ分かっていないんですわよね……」


 脳裏に過ぎるのは、第二王子の顔だ。僅かにリンドウとバラが息をのむ。

 シスボイリー王の命により、関所や城下、宮殿内の警備は強化された。第三皇子や、彼の側近たちが軟禁状態であり、エイロス国王も連絡を取りづらければ、自ずと居場所も狭まってくるはずなのである。

 それでもかの王子は、姿を眩ませたままだ。

 一度宮殿に入った状態から外部に逃亡することも、現状を鑑みれば難しい。観測の域を出ないが、まだ潜伏している可能性があるのだ。


「……流石に晩餐会で仕掛けてくるほど、第二王子も愚かでは無いだろう」


 フィーガスの一言に頷いて、ライネリカは視線を僅かに下げる。

 先に仕掛けたのが、フィーガスとライネリカなのは事実だ。国母シガリアの生きている部分だという鉱物を使い、第三皇子を陥れようとしたことに、代償もなく上手くいく保証は確かになかった。

 それでも、命の危険を伴うようなやり方で、意趣返しされる(いわ)れはない。

 それに第二王子が、エイロス国がライネリカに求める役割についても、口を滑らせている。門外不出という話ではないが、おいそれと他国の王族へ話題に上げて良い話でもないだろう。

 現状の第二王子は、危険な存在だ。

 叶う事なら早く見つけ出し、エイロス国王と共に監視下に置いて(始末して)おきたい。

 眉を顰めて沈黙していたライネリカは、ふと、己の思考回路に疑問を感じて目を瞬かせた。


 今、自分は何を思ったのだろう。


「主さま、私はリュグザさまの所へ行き、明日の予定を確認して参ります。なるべく共に動けるよう、調整いたします」


 アスターの声に意識を引き戻され、ライネリカは顔を上げた。


「え、ええ」

「それから、ラジレイシアさまのご予定も伺いましょう。デージル公爵は……おそらく、入室時のみで、後は別行動となりましょうから」

「そ、うですわ、ね。……ええ、お願いしますわ、アスター」


 彼女はドレスを持ち上げて膝を折り、ライネリカの片手の指先に唇を寄せてから、踵を返して部屋を出ていく。

 リンドウとバラも下がるよう、ライネリカが伝えようとすれば、リンドウが困惑した顔で迷う素振りを見せた。


「リンドウ?」

「あ……、その、姫様…………、…………フィーガス弟王閣下と、二人きりには、なりませんよね?」


 一瞬、バラがリンドウの腰元を軽く叩いた様子だったが、彼は意を決した様子で声音に疑問符を乗せる。

 その言葉にライネリカは少々呆気に取られた後、白馬を見上げて目を瞬かせた。


「……そう、ですわね。婚前の男女、ですものね」

「馬に括っていただろう、君」

「申し訳ございません」

「潔い子は嫌いじゃないな。……リンドウ殿、バラ殿、不埒な行いをするわけじゃない。この時間は見逃してくれないか。……少しレディと話がしたいんだ」


 フィーガスの言葉に、彼らは互いの顔を見合わせた後、おもむろにバラが前に進み出る。

 そして一礼し、ライネリカに用意された部屋の扉を開け、婚約者二人に中へ入るよう促した。



 

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