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第六十五話





 ラジレイシアと結託し、情報収集に勤しんで数日。

 フィーガスは彼女の卓越した能力に、内心舌を巻いていた。


「この方は妹の婚約者さまですわ。異国の方ですが、妹に寄り添って下さってまして、あたくしと共に交易の勉学に励んでおりますの。皆様、どうぞご指導ご鞭撻の程、よろしくお願い申し上げますわ」


 華やぐ笑顔でフィーガスの立場を明確にし、公爵夫人の信頼があるならと、まず会話の輪へフィーガスの居場所を作る。交わされる会話の端々を捕まえ、自身の有意な方向へ然りげなく話を進めていき、収穫が無いと分かれば礼を失しない程度に切り上げた。

 そしてまた次の輪に入り、相手の立場や身分を踏まえながら、シガリア鉱物の話題を様々な角度から提供し、周囲の反応を観察していく。

 フィーガスが行っている事など、ラジレイシアの求めに応じて受け答えするくらいだ。

 交易相手を掌握する、素晴らしい話術。ライネリカと同様の美貌を持って、するりと懐に入り込んでいく。公爵夫人という立場を超えた繋がりが、細いパイプながらも各国に伸びていて、彼女の顔の広さを窺わせた。

 隣国に嫁いでからラジレイシアが習得した、習得せざるを得なかった、血が滲む努力の賜物なのだろう。

 大規模な晩餐会が始まる直前まで、比較的自由な時間が多いのは幸いだった。

 ラジレイシアも夫がいるため、全ての時間をフィーガスと共にいることは出来ない。フィーガスもアスターやリュグザの指示に従い、情報収集以外の時間は、なるべくライネリカと共にいた。




「……結論から申し上げますと、ジャダル第三皇子殿下の持つ鉱物で、外部に出回っているものはありませんわ。ただやはり、宮殿内で緘口令が敷かれているようです。新たな鉱物の出土について話題を出すと、食いついてくる輩はいても、皆、初めて聞く反応でしたわ」


 ラジレイシアはソファーに座り、ライネリカを膝の上にのせながら、そう言葉にした。

 姉姫に拘束されている妹姫は、初めこそ抵抗していたものの、無駄だと理解したのか、今は大人しく項垂れている。

 フィーガスは傍に立ち、思い切り切れた口の端を、己の力で修復しながら、向かい側に座るキリノスに視線を向けた。


「キリノスの方はどうだった?」

「いやぁ……てか、ラジー……容赦なさすぎじゃん……?」


 流石に少々引いている兄に、ラジレイシアはしれっとした顔で肩をすくめる。


「まぁ、心外ですわ。ちゃんと手加減しましたのよ、骨は折れていないですわ」


 これ以上の収穫は無いと判断したラジレイシアに、そろそろ状況を教えてくれと頼まれたのは、数分前だ。彼女の立場に考慮し、キリノスが秘密裏に連れてきたライネリカと応接室で落ち合い、状況を最初から説明し終わった瞬間、フィーガスは思い切り頬を拳で殴られたのである。

 リュグザには諭されるだけで済んだが、麗しき大女神からはしっかりと天罰が降った次第だった。

 ライネリカも怒涛の剣幕で怒られ、ぐったりと姉に抱きついていた。


「作戦そのものは有益だと思っておりますわ。ですが、内側に敵が居ないと耄碌(もうろく)するのは、上に立つ者の傲慢でしてよ。常に首は狙われているのです、浅はかに信用してはいけませんわ」


 生家に対して酷い猜疑心だと思うが、ライネリカの心境の変化を思えば、ラジレイシアの心に浮かぶは怒りなのだろう。そしてそれは作戦を評価しながらも、愛する妹を危険に晒すフィーガスに対しても同様だ。

 首が捩じ切られていないだけ、温情なのかもしれない。フィーガスは鈍く痛む頬をさすって、再度キリノスを促した。


「こっちはジャダル殿下の動向について、少し分かった事が。あの人が関所の連中を引き込んでいるのは、やっぱ痛かったっスね。ラヒューレ兄上が何度か入国していたようです」


 キリノスはリュグザの公務の補佐をしつつ、関所の来訪記録を盗視したらしい。

 本来なら彼は正当な立場で閲覧が可能なのだが、リュグザの反対勢力に関所を抑えられている以上、下手な動きは出来ない。なのでライネリカが与えた『騎士』としての能力を遺憾なく使い、数日に分けて記録を拝見してきたと笑った。

 リュグザまで報告が上がらないエイロス国第二王子の件は、重大な交易違反だ。属国が主国へ秘密裏に入国し、私的に動いている事を許すなど、他の属国へ示しがつかない。

 どんなに反対勢力がいようと、エイロス国王がジャダルと面会しようと、正当な貿易交渉権はリュグザが保有している。リュグザの意思決定は即ち、シスボイリー国王の意向と同じだった。

 第三皇子も交渉権を主張するが、結局はリュグザの次。第二王子の動向は、ジャダルが擁護できる範囲を超えている。


「……リュグザ殿下は、なんと?」


 眉を寄せたライネリカが問いかけると、キリノスは少し躊躇った後、重い息を吐き出した。


「まだ決めかねているけど、あんまり良い報告は出来ない。俺らの兄上だから、最大限の配慮はする、つもりではある……ようだけれど、なぁ……」

「必要ありませんわ」


 ほとほと困り果てているキリノスの思考を、ラジレイシアが両断する。

 驚いた三人の視線を集めた彼女は、一度視線をテーブルまで下げてから、再び顔を上げてキリノスを見返した。


「これは一石二鳥の好機ですわ。上手く誘導し、退場願いましょう」

 


 





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