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第五十二話







 アスターの魅惑すぎる太腿に、ほぼ全ての男の視線が集中したと言っても、過言ではない。

 ライネリカは魚のようにパクパクと口を開閉させ、二の句が続かないまま硬直した。

 やや呆れた表情のフィーガスが視線を向けてくると、アスターがにっこりと笑って軽く片手で裾を引き、会釈する。


「まぁ、お帰りなさい、フィーガスさま。ね、この子、あたしの部屋にお持ち帰りしていいでしょ?」

「来賓客は、客殿での交流もあるだろう。僕の一存ではどうにも……。エイロス国の国王と王妃もいるしな」

 

 薄紅色の瞳が、騒ぎを聞きつけてやってきた、エイロス国の国王と王妃に注がれる。

 彼らは、抱きしめられた娘に目を白黒させながら、言葉に詰まっているようだった。ライネリカがさりげなくアスターの腕を叩くと、彼女はするりと身を離し、美しい所作で頭を下げる。


「ようこそシスボイリーへおいで下さいました。エイロス国国王陛下、並びに王妃さま。お会いするのは、こちらの結婚式以来かしら。リュグザ第十二皇子王太子妃、アスタロイズ・シスボイリーと申します。晴れやかな吉日に、ご足労いただきました事、誠に御礼申し上げます」

「あ、ああ、こちらこそ、お呼びいただき感謝します。……申し訳ない、ライネリカが何か……、……」


 そこまで言った国王が、狼狽えた様子で息をのみ、アスターの顔とライネリカの顔を交互に見た。ライネリカは直感的に、皇太子妃の正体に勘づいたのだと悟り、何度か頷く。国王の隣にいた王妃も目を見開いた。


「ライネリカ第二王女殿下とは、先日も交友を深めまして。ぜひ、部屋にお連れしても?」


 国王はハッとした様子で頷き返し、姿勢を正してから王妃を引き寄せる。 


「そうでしたか、もちろんです。……ライネリカ、粗相のないようにな」


 一礼して、衛兵の案内で客殿に向かっていく一行を横目に、アスターは一つ息を吐き出してから、ライネリカに向き直った。そして周囲からの視線に口付けを投げて答えれば、来賓客たちは慌てて目を逸らす。

 彼女はリンドウとバラの準備が整った事を、さりげなく確認してから、ライネリカを再度抱き寄せた。


「さぁ、許可はもらったし、ね、いいわよね?」

「ま、そういう事ならいいんじゃないか。……ライネリカ。また後で」

「はい、フィーさま」


 普段とは違う奇異の目に囲まれた状態も、アスターがいれば安心である。それに少し話題を攫った方が、ジャダルの関心も引きやすいだろう。

 フィーガスがライネリカの片手をとり、そっと口付けた。ライネリカも僅かに踵を上げ、片腕を背に回して軽い抱擁を交わす。

 離れていく後ろ姿を見つめていれば、目を丸くしているアスターの顔が、視界の隅に入った。


「……いつの間に……」


 微かに呟かれた言葉に、ライネリカは片手を頬にあて、眉を下げて笑って見せた。



 アスターの自室は以前来た時と同じように、相変わらず豪華絢爛な内装である。

 しかし彼女がライネリカを通したのは、その更に奥。元々使用していなかった部屋を、ライネリカが滞在する間に利用できるよう、内装を作り直した部屋だった。

 柔らかな紺色を基調としながらも、白の家具がアクセントとして配置され、そのどれもが一級品である。天蓋付きのベッドは柔らかく、窓際に置かれた香炉から、心地の良い室内香が漂っていた。

 テキパキと私物を担ぎいれるリンドウとバラ、そして露出の少ないドレスに着替え直したアスターを尻目に、ライネリカは唖然として室内を見渡す。

 ライネリカの好みを熟知したと言わんばかりの内装だ。並んでいるクローゼットを開けてみれば、ライネリカが持ち込んだドレスの他に、仕立てた別のドレスが並んでいる。おそらく既製品ではない、一点物だ。


「お気に召して頂けましたでしょうか」


 片付け終えたアスターの声で我に返り、ぎこちない動作で振り返った。


「あ、アスター、あの、これは……」

「祝賀会中にどうぞ、お召くださいませ、大国でも名高い洋品店に作らせました。ご趣味に合うよう、方々より趣向を凝らしましたが……」

「や、あの、でも、わたくし、ドレスは持って参りましたし……」

「そうですね、どれも本当に良くお似合いです。ですが着回す必要はございません。毎日新しいドレスをお召ください」


 自国でもそんな生活をしていないのだが。

 口から出かけた言葉を飲み込み、ライネリカは顎を引いた。

 恍惚すら感じさせるアスターの顔色は、すこぶる良い。長らくエイロス国を離れていた騎士団長から、ライネリカへ尽くし倒したい思惑が透けて見える。

 ベルジャミン家の姉妹姫に対する彼女は、本来こういう性格なのだ。水を差すのは無粋だろう。


「……分かりましたわ。では、お言葉に甘えて、我が儘になりますわね、アスター」

「もちろんにございます。……ああ、それにしても……本当に、綺麗で……」


 アスターの視線がドレスに移る。その場を回ってみると、彼女は片手を頬に当て、ほう、と息を吐き出した。


「……綺麗だわ、我が女神……、フィーガスさまの見立ては素晴らしいですね」

「本当に。少しドレスに着られているようにも、思いますわね」

「まさか、有り得ません。そのドレスは、我が主さまがお召しになるからこそ、美しい貴女を引き立てるのですよ」

「まぁ、本当にアスターはお上手だわ」


 照れくささの中に嬉しさもあり、ふふ、と朗らかに笑えば、アスターは目尻を和らげる。そしてドレスを持ち上げ膝をつくと、胸に片手を当てて首を垂れた。


「祝賀会中は、私とリンドウが護衛致します。何なりとお申し付けくださいませ」

「ありがとうございますわ。……ではまず、ドレスを着替えないとですわね。これは第一印象が大事だと、フィーさまからのアドバイスで着ていましたから」

「エイロス国の正式訪問以降、随分急速に仲を縮められましたね。何か良いことでも?」


 立ち上がってライネリカの背後に周り、慣れた手つきでリボンを外し始めるアスターに任せながら、ライネリカは僅かに俯く。


「……同盟を結び直したのですわ」


 

 


 


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