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第百十二話



 ◆ ◆ ◆



 数ヶ月後。

 何よりも先にエイロス国へ報じられたのは、シスボイリー王の訃報だった。

 年老いた大国王の死が闘病生活故の死ではなく、血を分けた息子によってもたらされたことに、世界中が震撼することになる。

 かの王を殺したのは、精神崩壊を起こしていた第三皇子ジャダル。

 不祥事により妻と離縁させられ、息子にも見限られ、腹心の側近たちが次々と大国王により裁かれた彼は、精神を病んでしまっていた。

 軟禁状態であったジャダルだが、衛兵たちの隙をつき、病の進行が進んでいた父王の部屋に忍び込んだという。

 愛用の剣で実父を殺した彼は、陰惨な現場ながらも、声を上げて笑っていた。

 一番初めに部屋へ飛び込んだ兵は、そう言っていたのだという。



「ご足労、感謝致します。ラインギル殿下」

「いいえ。むしろ、お忙しい中でも対話の場を設けてくださり、ありがとうございます」


 闇色の喪に服したリュグザが、三人掛けのソファーに凭れかかりながら口を開いた。足の低いテーブルを挟んだ向こう側では、一人用のソファーに座ったラインギルが、背筋を伸ばして顎を引く。

 シスボイリー国の情勢が落ち着いた後、リュグザがエイロス国に出向く手筈で進めていたのだが、その前に父王が鬼籍になったのだ。

 葬儀には各国より参列があり、エイロス国からは国王代理としてラインギルが(おもむ)いてくれている。

 リュグザの心情としては、ライネリカの兄を煩わせるタイミングは避けたかったのだが、起こってしまった事に関しては仕方がなかった。


「……リュグザ殿下。この段階でのシスボイリー王の死も、貴方が目論んできた策の一部なのでしょうか」


 緊張を滲ませる声音だが、隠しもしない物言いに、リュグザは微かに苦笑する。


「怖い事をおっしゃる。ラバル第三王子殿下の訃報から始める予定では、ありましたがね」


 大袈裟に肩をすくめ、やれやれと首を振って見せれば、ラインギルは眉尻を下げて沈黙を返した。

 シスボイリー王の死は、もちろん予定の内である。最も良いタイミングで演出する為に、延命処置を掻き集めていただけに過ぎない。

 ただ本来ならキリノス(隠れ蓑)が動きやすいよう、ラバル第三王子(本人)を消し去ってから執行する予定だったのだ。

 ジャダルが思っていたより早く行動してしまい、順序が逆になったのである。


「とはいえ、あと僅かに遅ければ、少々間が悪かった事は事実です」


 キリノスの案件と同時進行で行われていたのが、デージル公爵とラジレイシアの離縁についてだ。

 一ヶ月ほど前、エイロス国ともシスボイリー国とも関連の薄い、全く別の国で公爵()()が捕らえられたのである。

 捕縛しているラヒューレ第二王子の口を割らせ、居場所を突き止めた公爵は、多額の金と共に他国で悠々自適な生活を楽しんでいた。

 彼は自身を貸し与える代わりに、遊び歩く生活を保障されていたらしい。だが、自身の身分が何に使用されて、どのような結末に至ったのか何も知らなかったようだった。

 捉えられた意味も分からず、真っ青な顔で喚き散らしていたのも、記憶に新しい。

 デージル公爵の不祥事は、実姉の女王の失態だ。女王は出産を終えたばかりであったため、リュグザ自ら彼女の国へ赴き、()()()()()()()()を話し合ったのだ。

 ラヒューレの思惑にまんまと乗せられた国である。ラジレイシアの嫁ぎ先という事も鑑みて、多少の情状酌量の余地は与えたつもりだ。

 そうして口八丁手八丁、……いや、半ば脅しをかけて、ラジレイシアという存在をシスボイリー国へ献上させたのだ。

 リュグザはソファーの肘置きから体を起こし、足を組み替えて目を細める。


「ラジレイシア嬢がシスボイリーへ移動する前であったら、ややこしい事態になっていましたから。そこに関しては、ジャダルは辛抱強かったと思います」

「…………発言の御無礼をお許し頂きたいのだが、まるで人でない言い方だ」


 顔色悪く呟くラインギルを咎める事はなく、喉の奥で笑った。

 ラジレイシアの外交手腕はリュグザから見ても、傍に置いておくに相応しいものだと評価している。

 それに彼女の安全を考えれば一刻も早く、アスターの目が届く範囲に腰を落ち着かせて欲しかった。

 もちろん、多少強引だった事は否めない。

 ラジレイシアの離縁手続きにシスボイリー国が介入したせいで、彼女はエイロス国へ戻らず、直接アスターの侍女として宮殿に入ったのだ。


「その点に関しては、誠に申し訳なく思っております。嫁ぎ先の不祥事に巻き込まれた令嬢を、母国の許可なく攫っていきましたからね」

「いいえ。ラジレイシアから早馬もありましたし、彼女が元気でさえいれば、俺は問題ありません。それにエイロス国にきても、まだライネリカは……」


 首を振りつつ、リュグザの行いを肯定したラインギルは、次いで表情を曇らせる。

 リュグザも薄らと浮かべていた笑みを掻き消し、片手で口元を覆い視線をテーブルまで落とした。


「……あの子の状態は、相変わらず思わしくありません。……未だシガリア様に意識を奪われたままだ。本当にただ……呼吸しているだけのような、……それでも何かを待ち侘びているような、状態なのです」

 


 

 

 

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