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森の娘と最後の騎士  作者: OWL
第二章 森の娘
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★★第45話 辺境領主の地方統一④

形式的な降伏勧告と拒否の宣言が行われた後、純血派貴族連合軍は全方位からの総攻撃を開始した。が、前線で攻撃を主導する敵の指揮官は少ない。


包囲されて三ヶ月が経っており、その間に何度か死体を片付ける為の休戦日があり、膠着した戦況の退屈しのぎに騎士達が一騎打ちを行う事もあった。

挑戦されて私も一人討ち取り、五人を捕虜とした。

捕虜は身代金を払わせて解放したが、その際この戦いで二度と参戦しない事を両軍の前で宣言する。私とアルヴェラグスが圧勝を続けた為、あちらは騎士に一騎打ちを禁じてしまった。

結果、敵は兵士数では上回っているものの最前線で兵士達を鼓舞する騎士の数は敵の方が少なくなった。


総攻撃が開始された初日の被害はこちらが40、敵は300以上となってまずまずの戦果だった。最も攻撃の激しかった崩壊した防壁の守備はアルヴェラグスが受け持ち、敵の攻撃を寄せ付けなかった。

翌日は今までと違って死体を片付ける事もなく、日の出と共に攻撃が開始された。

敵はアルヴェラグスを避けて、他の防壁に攻撃を集中してきたがそれでもアルヴェラグスの担当区域を変えるわけにはいかず防壁は突破され一時は危険な状態になった為私が出て敵を蹴散らさなければならなかった。


「メッセール、本日の被害は?」

「我が軍の被害は150、敵に与えた損害は300もありません」

「・・・そうか。クレメッティはどうした?」

「戦死しました」

「ディアマンティスは?」

「重傷です。当面は復帰できません」


私の護衛に専念させる余裕は無かったので南門の守備に送り出していた若手の騎士は二人とも戦線離脱することになった。

参戦してくれた領主や彼らが貸し出してくれた騎士がまだいるものの、手痛い損害だ。

かき集めた我々の兵士達は帝国軍のように訓練を受けておらず、士官教育を受けた指揮官もいない。勇敢に戦う騎士達がいてくれてこそ、兵士達も不利な状況で挫けずに戦い続ける事が出来る。


「敵陣を突破して一度ラリサへ引きませんか、エドヴァルド様」


メッセールが提案してきた。


「悲観的だな、メッセール。敵は2000かそこらだ。我々にはまだ500ある、まだやれる」

「明日にはこちらで立って戦える兵士は300にも満たず、敵は2000以上を維持しておりましょう。この砦ではこれ以上支えられません」

「私もそう思います。動けるうちに撤収すべきです。敵にはまだ増援が来るでしょう」

「イーデンディオス老まで…アルヴェラグスはどう思う?」


老齢という事もあり、イーデンディオス老は体力の限界だった。

彼は先にラリサに戻しておくべきだったかもしれない。

アルヴェラグスは今日の負担が少なくまだ士気旺盛に見えた。


「私はまだ戦える。敵も疲労が濃い、攻勢には限界がある。敵は連合軍だ、戦意の高い者たちばかりではない。一撃してやれば犠牲を嫌がって二の足を踏むようになるだろう。もし撤収するなら負傷者は取り残される、ディアマンティスも置いていく事になるぞ」

「負傷者は仕方ないだろう!?これは内戦だ、伯爵も無駄に負傷者を虐待したりはしないだろう」

「だが、重傷者を積極的に助けてくれるかな?南方圏の難民達を契約労働者といって実質的に奴隷以下の待遇に貶めていた奴だぞ」


メッセールとアルヴェラグスそれぞれの意見を聞き、結論としてアルヴェラグスの意見を採用し、翌日も防衛に徹した。

配置変更を行い、アルヴェラグスに南門を守らせると午後には昨日までアルヴェラグスが担当していた区域に敵が殺到した。

もちろんそれはこちらの罠であり、私が直接指揮して殺到した敵に集中砲火を浴びせて敵が退き始めると数少なくなった騎兵と共に出撃して逆襲を加えた。

かなりの戦果を得たが馬防柵と塹壕の為、追撃して敵陣を突破するまでには至らなかった。

全体指揮を任せたイーデンディオス老が引き上げの銅鑼を鳴らした為、三日目の戦闘はそれで終了した。


四日目はさすがに敵も休戦日とすることに同意して死体を片付けた。


五日目には激しい攻撃が再開されなんとか守り抜いたが、六日目になるとこちらの総数は300を割り、敵の総数は未だ2000以上を保っているようだった。


「限界です!退きましょう!!」


メッセールが改めて進言してきた。


「駄目だ、塹壕が深く突破出来ない。連中も予期して西への道には十分な兵を配置しているだろう」


敵の魔術師達は工兵としての任務に専念して魔術で土を掘り返して包囲網を強固にすることに専念していた。


「連中はここで決着をつける事を早くから企図していたようです。ラリサまで攻めるとなれば何かと面倒ですからな。それにしてもこれだけ時間があっても王都からの停戦命令が来ないとは意外です」

「確かに・・・」


イーデンディオス老にメッセールも同意した。


「これ以上数が減ると外壁を維持するのは難しい。砦の内部に籠って戦おう」


七日目、前日夜間に外壁を放棄していた我々を見て敵は勢いづき猛攻を開始した。

正門でアルヴェラグスと私が交代で敵を追い払い、足の踏み場もないほどに敵の死体が積みあがると敵兵にも怯えが見えてきて遠巻きにするだけでかかってこなくなった。


「こんなものか、次は誰だ!?それだけ集まって誰も挑んでくる者はいないのか?エールエイデ伯は騎士を一人も持たぬのか!?何千も兵士を抱えておいて、私に刃向かう勇気ある者は何処にもいないのか?所詮反逆者か・・・つまらん。王家に反逆した報いを受けるがいい」


貴様らもその家族も全員反逆罪で処断すると宣言すると、兵士達は武器を捨てて逃げ始めた。自分達は領主様の命令で無理やり連れてこられただけですと言いながら。


「追うぞ」

「危険です!」


メッセールに止められても構わず正門を出て敵を追った。

正直、門を出た後は敵兵が一斉に矢でも撃ってくるかと期待していた。

が、それも無い。


「どうも妙だぞ、メッセール」

「確かに」


砦に侵入してきた敵兵だけでなく、周囲を取り囲んでいた兵士まで逃げ出し始めていた。門から出て行った兵士の怯えが伝染するにはまだ早い。

小高い位置にある門の前で算を乱して逃げる敵をしばらく睥睨していると、砦の上部から敵全軍が撤退を始めています!と兵士が声を張り上げて皆が歓声を上げた。


「パラムンがラリサから応援にでも来たかな?」

「さあ…?罠かもしれません、あの程度の兵士では魔導騎士と閉所で戦っても犠牲が出るだけですから。向こうの騎士も一騎打ちでかなり討ち取ってしまいましたし」


アルヴェラグスに天馬で偵察して欲しい所だが、敵の魔術師がまだ潜んでいて矢を魔術で強化して狙撃されると貴重な天馬を失う危険がある。

どうしたものか・・・。


「よし、動けるものは全員だして追撃しよう。ここから見ただけでも罠にしては統率が取れているようには見えない、兵の練度は低い。小細工を弄した所でうまくいかんのは向こうも分かっている筈だ。まず無いだろう」

「はっ」


一時は占拠していた外壁も放棄して敵はばらばらに逃げ始めていた。

逃走路上には塹壕にも橋がかけられていて、騎兵も共に敵を追撃して敵の主要な指揮官を討ち取り、敵兵には武器を捨て降伏すれば罪には問わない旨を皆に徹底させた。


やはりラリサへの道が続く西部には敵の数が多く配置されていて、逃げ遅れていた為かなりの数を捕虜に出来た。

追撃によってさらに戦果を拡大したい所だったが、アルヴェラグスからエールエイデ伯の叔父を捕らえたと連絡があり、日が暮れる前に切り上げた。

そいつが今回の総大将だろう。


夜、砦に戻り尋問を開始する。


「さて、名前はなんといったかな?」

「ナサリウスでございます。公爵閣下」


伯爵の叔父であるナサリウスは中年の男でパンテリオスとは違って、それなりに理性的で落ち着きのある男だった。今日、何があったのかは知らないがこれまでの指揮も順当で付け入る隙がなくこちらも苦戦する事になった。


「縄を解いてやれ」

「は」


大将をいつまでも縛り付けておくのは礼儀に反するので縄を解かせる。


「で、これからどうする」

「どう、とは?」

「寝返ってこちらにつくか、反逆罪で処刑されるか、だ」

「こちらに選択の自由を与えて下さるというわけですか、説得する気はないのですか?」

「無い」


寝返るのであれば多少の領土は残してやってもいいが、ほぼ削る事になる。

将来的には完全に没収する。

紛争開始当初の難民の扱いの問題ではなく、私が外国の血が入った王族である事を非難し連合軍を組んでしまった以上彼らへの戦後の処分は以前考えていたよりも過酷にせざるを得ない。


「なるほど、援軍が到着した以上もはや我々の支持は必要ないという訳ですか?」

「援軍?」


安全を確保した後、アルヴェラグスに一度ラリサに戻ってもらいパラムンに勝報を伝えまた戻って来て貰った。

パラムンも私を救出しようとしてくれてはいたそうだが、街道を抑えこちらについた領主達を守りつつラリサに牽制の部隊を時折寄越してきていたナサリウスの別動隊と対峙して果たせなかった。


「北から大軍が近づいて来ていると報告があり、各領主達は勝手に引き上げを始めてしまいました。エドヴァルド様の増援が五千以上だと」

「知らんな、どこの旗印か確認はしなかったのか?」

「伝令は各領主達それぞればらばらに自身の領地から送られてきたようで、統制を取る前に勝手に引き上げてしまった為、すべての情報を確認するのは不可能でした。が、報告の中の一つは『船と財宝』を見たと」

「パスカルフローの傭兵団だと!?」

「左様、閣下と個人的に親しい間柄でもあるフランデアン王の同盟国の軍だと慌ててしまったようです。本当に外国軍を呼びこんだ訳ではないのですか?」


ナサリウスはじろりとこちらを見るが、私は内戦に外国軍を呼び込んでまで勝ちたくはない。


「侮辱するな、ナサリウス。私はそんな真似はしない」

「本当ですか?傭兵であれば外国軍には当たらないと考えたのでは?」


傭兵くらいどこの国でも使うので、確かに言い訳にはなるだろうが私はその手段を取らない。


「しかしながらそれほどの大軍、見違えるわけありますまい」

「北にある白の街道を通過中の帝国軍を勘違いした訳ではないのか?」

「確認する暇がありませんでした、とお答えしました」


その場ではそれ以上、話しても無駄だった。

翌日領主達から領地を没収し、エッセネ公の領民となってこちらの軍に加われば罪に問わない事を条件とすると捕虜とした兵士達も我が軍に参加することに同意した。戦後また元の領主の元に戻されるのを彼らは恐れていたのだ。


それからしばらくは補給物資の手配を行い、負傷者を後送しラリサから増援を寄越させる手配など軍の再建に没頭することになった。

そしてある日、ミリアムと一人の騎士がやってきた。


「アルミニウス!一体これまで何をしていた!?イルンスールはどうした!?」

「慌てなさんな。説明してやるから」


暗い顔をしているアルミニウスの代わりにミリアムが答えた。


「ミリアム殿、もしや北に現れた軍の噂というのは貴女の手配ですか?」

「ああ、そうだよ。それとその軍を率いているのはアルミニウス、今は待機させて一人で来てもらったがね」

「いったいどこから五千もパスカルフローの傭兵団をかき集めてきたのですか?」

「まだ来るよ、これだけじゃない」

「まだ!?…こちらへの増援のおつもりですか、しかし私は外国の助けなどいりません」


余計なお世話だと思った。

私は子供たちの事が無ければ一生帝国騎士として生きても構わないと思っていたし、バルアレス王国に残って兄上と王位継承争いをしたり、母国の為に生きる気は無く外国の助けを借りてまで公爵家を維持したくなどない。


「勘違いしなさんな。あたしは単に街道通過中の軍の噂を流して利用しただけ。この戦争とは関係ないよ。まったく間抜けな貴族共だけじゃなくあんたまで勘違いするなんてね」

「では一体何が目的でアルミニウスはそんな大軍を?」


そこでようやくアルミニウスが答えた。


「イルンスール様からの命令でエルセイデ大森林の東端にあるトーラーンという国を救援に向かう道中です。帝国から業務を受注することもあるパスカルフローの傭兵団ですので帝国から街道通行権は事前に得ております。バルアレス王国からも通行権は取得しております。この先は白の街道が通っていない国もありますが、通行権は確保できる見込みです。ただ総兵力二万五千ですので、少しばかり待機しなければなりません」

「二万五千だと!?そんな大軍をトーラーンまで送り込むのか・・・、あの国はバルアレスよりもさらに小さい小国で人口100万にも満たないだろう。いったいイルンスールは何を考えている。彼女は何処にいるんだ」

「トーラーンは三カ国から攻められて領地を分断された結果、大森林を管理するものがいなくなり魔獣が大量に発生し始めて、魔獣達は餌を求めて人だけでなく森の木々を根っこからひっくり返して荒れてしまっているそうです。イルンスール様のご命令は荒廃した大森林を元に戻せ、と。周辺国が邪魔するのであれば蹴散らして良いと」

「パスカルフローの大軍に周辺の小国が対抗してくるとは思えないが…」

「ええ、その為に過剰な戦力を用意しました。傭兵達はその後、東部外海から北海にかけて点在する自由都市連盟や帝国軍施設の警備任務に就きますからさほど無駄はありません。中にはギィエッヒンゲンやディシア王国に向かう部隊もいます。少々支払いを増やして契約期間を調整して部隊を統合したのです」


アルミニウス達の故郷か…。


「エドヴァルド様には傭兵の助けは無用とおっしゃいましたが、輸送中の武器、西方から導入された新式銃や火砲を貸し出す事は可能です。イルンスール様からも望まれれば協力するよう仰せつかっています。いかがなさいますか」

「いや、必要ない。いくら何でもそこまで彼女に頼っては情けない」

「それで無駄な犠牲が減ったとしても?」

「そうだ、で彼女は何処にいるんだ。襲われたと聞いたが傭兵団と一緒なのか?」


「イルンスール様の居場所は知りません」


答えたアルミニウスの表情がさらに暗くなった。


「知らない?君は彼女の騎士だろう、私同様に彼女を守ると誓った筈だ、別行動しているのか?」

「・・・私に傭兵団と合流するよう命じられた後は行先を教えて頂けませんでした」

「どういうことなんだ、一体何がどうなっている?」


アルミニウスの肩を掴んで揺さぶるが、彼の口は重い。


「分からないかい?放逐されたってことだよ。あんた・・・姫さんが助けた命を、こいつの親族まで殺させたそうだね。随分お怒りみたいだよ。二度と会いたくないくらいね」

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2022/2/1
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