★★第46話 辺境領主の地方統一⑤
降伏した者を取り込み、今まで様子見していたものの今更参陣してきた領主の部隊を取り込みこちらの兵は2000を超えて進軍を開始した。
伯爵の居城までにある砦は戦うまでもなく降伏した為、すぐに攻城戦が開始された。
もはやエールエイデ伯の城に籠る敵兵は500もいまい。
所詮人口の少ない田舎領主同士の戦いだ。
今までは騎士達が時折決闘騒ぎを起こすくらいで、大きな戦いもない、できなかった。常備兵は少なく、武装の蓄えもなく、長期戦をするだけの食糧を購入する余裕もない。そんな地方だ。
既に秋も過ぎて短い冬が来た。
今年は収穫期に人手が薄かった為、餓死者が出てしまうかもしれない。
「あのぴーぴーうるさいのは?」
北部をさんざんひっかき回してきた魔女は城壁からよく見える位置で磔になっている連中を指さす。
「伯爵の息子、パンテリオスとそこらの市民です」
「息子は降伏したんじゃなかったのかい?」
「奴の命に免じて私に逆らった部下達は助けてやるつもりです」
「市民たちは?」
「兵糧の供出を拒んだものたちです。兵士達の勝手な略奪は禁止しています」
声の大きい武官が、城兵達に明日の朝までに城門を開けなければ、公爵の統治に非協力的な市民も伯爵の一族もそれに従う城兵も全員処刑すると降伏勧告を行っている。
勧告を聞いて城内では少し騒ぎが聞こえるが、城門は開かない。
パンテリオスにエルセイデ大森林への放火はイルンスールの失火でなく、自分達の陰謀であったと告白させて、声高にエールエイデ伯を非難したが残念ながら最後まで城門は開かなかった。
翌朝、まだ夜が白み始めてこない内に総攻撃を開始することにした。
「トレイボーン、投石機の準備は?」
「城門を攻撃可能なものは三基、あと二、三日あればさらに四基建造可能です」
敵に邪魔されない位置で大投石機を建造するには地形の問題で限界があった。
それでも有利な城壁上の敵よりも長射程のものを設計してみせたのはさすがに老師の弟子のひとりだ。
「イーデンディオス老、城門は破壊可能ですか?」
「むろん、ミリアムも来てくれましたからな」
では、待つ必要はない。
ただちに砲撃が開始された。
魔術によって初速を加速され、着弾位置も修正されほぼ100発100中となっている。
先ずは火炎系の使い捨て魔術装具を叩きむと、城門や防御塔の木材で構成された一部が炎上し始める。
守備兵は激しい熱気と煙に次々と逃げ惑い、あるいは窓や屋上から飛び降りて死んでいく。
その後魔術によって精錬され強度を増幅された合金による砲弾を撃ち込む。
昼までには城門一体は完全に崩壊された。
「突入!」
メッセールが突入部隊の指揮を取り城内に突入したが、城壁上では兵士達が白旗を振っている。私自身が城内の戦闘に加わるまでもなく戦いはすぐに終わった。
城門があっさり破壊された事にただでさえ低下していた士気が崩壊してしまったようだ。
城内にはもう100人も兵士はいなかった。
ほとんどのものは戦わずに降伏し、城内の女達には乱暴しないよう言い含めて、武装解除されたものたちと共に庭に待機させた。
制圧完了の報告を受けて大広間に入ると、ここで最後の抵抗をしていたらしく辺りは血の海となっている。
黒い鎧を血で染めたメッセールが伯爵を討ち取った事を報告してきた。
「息子と違って意外と諦めは良かったですな。殿下がお越しになられなかった事を残念がっていましたが」
「ふん、奴の感傷に付き合う気はない。奴の家族はどうした?」
「他の息子達は捕えました。先代伯爵は自害されていました。奥方は火を放って死亡しました。部屋の火は魔術で消し止めましたが、本人は助かりませんでした」
それから気になる事が、と耳打ちしてきた。
奥方は扉をこじ開けようとする兵士達に「いつかこの恨みはカトリーナ様が晴らしてくれる、その時に後悔するがいい」と言い残したそうです、と。
遠い係累だというから、それはあり得る話だな。
奴の娘達の話でも私を経済的に支配して飼い殺しにするつもりだったようだ。
私が来なければずっとこの地方の主だったからな、少しは哀れな奴だ。
が、民衆を実質奴隷化し、騎士達を制止もできず、半端に兵をあげたのが愚か。
奴の愚かさに付き合った親類もこれから報いを受ける。
「メッセール、捕えた息子達で成人の儀が過ぎている者は今日中に広場で処刑する。こちらに先立って投降してきた娘を除いて他の者はタルヴォ兄上の神殿に送れ。この措置はこれから始末する他の貴族達を掃討した時も同様だ」
「かしこまりました」
タルヴォ兄は父の庶子の一人であり、神殿入りすることによって生きながらえている。
このような紛争があった際に貴族の子供達を受けいれているのだ。
その日の夕刻、まだ城から木材の燃えた匂いが漂ってくる中、私自ら二人の子供を処刑した。二人とも一つ目の成人の儀は過ぎていた。
これまでも領主として裁判で判決を下してきた時はそうしてきたし、帝国騎士として街道の犯罪を裁いた時も同様だ。
その後、ひと月かけてエッセネ地方の征服を完了した。
論功行賞は後で行う旨を宣言し、各地に騎士と政務官を配置して私はアルヴェラグスと共に凱旋した。
ラリサの城下町で歓声に迎えられながら凱旋し、すぐさま母上の寝室へ向かった。
「母上!」
「おかえりなさい、エドヴァルド。お疲れさまでした」
母は長椅子に座ったまま口を開いた。思ったよりも口調はしっかりしている。
「は、母上。もうお加減は宜しいのですか?私は・・・私は母上に・・・・・・」
「言いたいことは分かっています。もうおよしなさい、子供たちの前でしょう?」
ずっと自室に謹慎させていたアルベルドの謹慎も解除させ、母上の看病をしてくれていたエーヴェリーンも私の後ろにやってきて微笑んでくれていた。
母の皮膚はまだぼろぼろだったが、ようやくオルプタの助けがなくとも普通の生活が送れる状態になったらしい。
「わたくしはもう心配いりません。わたくしの事よりイルンスール様の行方を捜しなさい。夢うつつの状態でしたが、何方かがわたくしから悪しきものを吸い出してくれていた気がしました。シセルギーテはきっとそれがイルンスール様だと言いました。貴方は彼女を守ると誓ったのでしょう?」
「…はい」
だが、途方に暮れていた。
アルミニウスは通行権が得られるやすぐに出立してしまい、領内では彼女の姿は影も形も無い。
今後、私は貴族達から領地を取り上げて再編するのに忙しくなる。
子供たちはまだ幼い。
アルカラ子爵もこれから裁かなくてはならない。
私の代わりに領地を任せられるものは誰もいなかった。
彼女の部屋はそっくりそのまま残っているようだったが、手がかりになるものは何も無かった。
ひとまず、フッガー商会に連絡を取ってみるか…。
ダニエルも彼女と一緒に姿を消していたが、城下町には商会の人間がまだ滞在していた。もちろん彼らからは何の情報も得られなかった。
必要なら本店に、フランデアンまで使いを出さなければならないと。
彼らは私の命令を聞く相手では無い。
イルンスールの部屋はそのまま残しておくよう指示したが、使用人達の分はそうはいかない。
レベッカの部屋は片付けさせた。
だが、ハンネの部屋はどうしたものかと王都から帰還したユリウスが言ってきた。
一時期の彼女が私のお手付きになったとかいう馬鹿な噂を気にしたようだ。
片付けさせても良かったが、何とはなしに彼女の部屋へ行って適当にメモや地図をひっくり返し手がかりは残っていないか調べる事にした。
割と裕福な農園の出だったという彼女は日記を付けていた。
うちの領民・・・特にエールエイデ伯領の農家だったらとても考えられない話だな。
いくら紙の量産体制が整って値段が下がってきたと言っても。
悪いとは思ったが、手がかりはないか適当にぱらぱらめくって読み始めた。




