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森の娘と最後の騎士  作者: OWL
第二章 森の娘
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★★第43話 遍歴の騎士アルヴェラグス④

「行方不明?」

「はい、ご存じありませんでしたか?直前にお姉様の寝室に賊が乱入してその時はオルプタさまが防いで下さいましたが、その後…」


朝、一度イルンスール嬢の声を聞いた者もいたそうだがその後行方不明になったという。彼女の主治医や侍女達も同時に。

エーヴェリーン嬢達は城内の消火作業の手伝いに忙しく、またその最中鎮火された書庫で家政婦長の遺体が発見された。

火元は書庫であり、医師は焼死する前に殺害されていた事も指摘してきた。

悲しみに沈むエーヴェリーン嬢達はイルンスール嬢が行方不明であると気が付くのが遅れてしまい、アルカラ子爵も調査を渋ったそうだ。


「どうやら子爵の職務怠慢というアルベルド様の非難は正しいようですね。どうもいろいろと責任逃れをしていたようなフシが見受けられます」


エーヴェリーン嬢は兄と子爵の対立には関わっていないようだった。

アルベルドも報告して来れれば良かったのに…ああ、話を聞くのはこれからだった。


「子爵は…格別優れた方ではないかもしれませんが、兄に怠慢だと言われるほど酷くは無いかと思いますが」

「イルンスール様が行方不明であるという事や、城内でもそのような重大な被害が出た事について報告は受けていません。この分では城下にどんな被害が出ている事やら。ましてや事前に森を狙ってくるから事前にオルプタ殿と対策を講じ被害を最小限に絞るようにと連絡を受けていたにも関わらずああも広範囲に被害を出すなど…」

「わたくしと?」


エーヴェリーン嬢と話をしていたらそこへオルプタ殿もやってきて口を挟んできた。彼女からも話を聞きたいと思っていた所だったのでちょうどよい。


「ええ、我々が砦の強化工事を行い戦の準備を進めていた頃にそう子爵には命じました。敵を泳がせてエルセイデ大森林に多少被害が出るのは仕方ないが聖なる森にまで被害が及ばぬよう注意せよ、と」

「わたくしはそんな話聞いていません」

「そうです、オルプタさまはずっと御祖母様のお世話に忙しくとてもそんな暇はありませんでした」


話を聞いてみるとご病気だというエドヴァルドの母親の看病は細心の注意が必要でかなり苦労が伴うものらしい。

個人的な問題であり、私も今まで踏み込まなかったのでその方についてはほとんど何も知らない。イルンスール嬢がまた何やら神々の力を借りて面倒な事をやっていたらしいが…。


「では子爵はまったくオルプタ殿に、そもそも協力の依頼すらしていなかったのですね。先ほど話を聞いたときには自分の指揮下には無く指示していないとはいっていましたが、話くらいはしているのかと」

「全く何の話も聞いていません。わたくし達は腫れ物扱いでしたから苦手に思っていたのでしょうけれど、この非常時になんてことを…エドヴァルドもエドヴァルドですね。あの森はスーリヤ様の治療にも必要ですのに。もっとはっきりと警備を強化するよう指示しておくべきだったのに。敵を泳がせておけなどと指示するなんて・・・。森林火災が制御できるなどと甘い考えです」

「最近のお父様はちょっと問題がありますよね」


立場上エドヴァルドへの批判は抑えなければならないが、ここにはご令嬢しかいないから叱るのは止めておいた。女性の園で彼女らに敵対するのは愚策でもあった。


決して彼女らとの口論から逃げた訳ではない。

が、それを厭わないものもいた。

アルベルドだ。


「父上を批判する前にお前たちも城下へ出てみるべきなんじゃないか?」

「ご子息、自室で大人しくしていろと言った筈だぞ」

「俺に命令できるのは父上だけだ」

「お兄様!いい加減面倒を起こすのは止めてください!!子爵だってこの忙しいのに・・・お可哀そうじゃありませんか。お兄様のせいでもあるんですよ先日の放火騒ぎは。お姉様にだっていつも酷い事ばかり言って・・・使用人たちの中にお兄様がお姉様に対してラリサから出ていけと言っていたというものもいます。もしかして本当にお兄様のせいなんじゃありませんか?」


エーヴェリーン嬢がアルベルドを非難する。


「黙れ、エーヴェリーン。イルンスールの事だが、城下町では民衆もイルンスールが聖域扱いされていた森の奥に入り浸っていた事は知っている。今度の事であいつの失火が原因なんじゃないかと噂になっていた」

「そんな馬鹿げた噂否定しなさい。イルンスール様は火系統の魔術を使うのは自身に致命的な被害を及ぼす為実質使えませんし、着火器具を持ち歩いたりもしていません。森の奥にあるという神殿にはエドヴァルドと彼女しか行けないそうですが、イルンスール様がいずれそこにあるという泉までスーリヤ様を連れて行ってくださる予定だったのですよ?」


アルベルドが明日調査に行こうと思っていた町の噂を語った所、即座にオルプタ殿が否定した。


「ああ、否定はしておいた。実際に城は襲撃されたし、伯爵の部下が聖域に火を放っている所を見たからな。が、もう手遅れだ。アルカラの奴に二日足止めされていた間に広まってしまっていた。馬鹿げた噂でも、領主から何の発表も無ければ勝手に広まる。俺が町に行った時にはもう外国人を養女に迎えた父上のせいだという批判にまで発展していた」

「そんな!そんな事を言ったら私達の母も御祖母様だって外国人じゃありませんか」

「そうだ。そしてカトリーナは国内の大貴族から嫁いだ王妃」

「カトリーナ様が何か関係が?」

「この国の歴史も400年と結構長い、前身の国や遥か昔のエッセネ公の時代から血脈が受け継がれているような大貴族は南方との混血を嫌う純血派も多い。エールエイデ伯もそういった純血派だし、外国人批判の世論を利用されるといくら父上でもこの戦い難しくなるんじゃないか。アルヴェラグスはどう思う?」


アルベルドがやってきた目的は私と話す事だったようだ。


「確かにご子息のおっしゃる・・・」

「ああ、アルヴェラグスは父上の長年の友人と聞いているからそんなにかしこまらなくてもいいぞ」


偉そうにアルベルドが許可を出したのでさっそく叱りつける事にした。


「ならば敬意を払え、小僧」


少しばかり魔力を高めて牽制する。

この傲慢な坊やはまだこの国・・・この地方を出たことがないようだが、いずれこの国の王都や帝都にまで行くことがあるかもしれない。その時、こんな態度ではエドヴァルドにも迷惑をかけるだろう。

大人げないが、少しばかり思ったより強めに魔力を目に込めていたかもしれない。

わかった、と返事をしてまだ偉そうな態度のアルベルドだったが少しばかり彼の目には怯えが見え隠れしていたのでこの場はこれでよし、としておこう。


「もうそろそろ昨日の話になりそうだが、我々は伯爵の息子パンテリオスを捕らえ彼が率いてきた伯爵の主力を撃破した」

「さすが父上!」


喜ぶアルベルドだったが、まだ早い。


「我々の兵力は少なかった為、あまり敵兵の総数に損害は与えられていない。敵の士気が旺盛なら再編し、また同じだけの戦力を整えるだろう。で、小僧が言ったようにもし世論が外国人に敵対的な風潮に流れれば困った事になる。まだ北部の小貴族達や伯爵の親戚同士の小競り合いも収まっていない、あれらが戦いを止めて団結して向かってくると前よりも強力になった敵と向かい合うことになるぞ」

「そうか…どう思うエーヴェリーン。お膝元でこんな噂を、お前の敬愛する姉をなじり、御祖母様にも敵対的な噂を放置した子爵は本当に味方かな?機会があれば反逆するんじゃないか?今のうちに逮捕しておいた方が良くは無いか?」


今後の見通しがやや悲観的になる中、アルベルドはエーヴェリーンにまだ子爵に味方するかと問いかけた。


「それは…お兄様のいう事も分からないわけではありませんけれど、疑心暗鬼になって何の証拠もないのに逮捕だなんて行き過ぎです。そのうち誰も我が家に味方してくれる貴族はいなくなってしまいます」

「証拠なんか逮捕してから尋問するなりなんなりして調べればいい」

「そんな乱暴な!」


確かに迅速な行動が必要な場合もあるが、さすがに何の証拠も無いまま逮捕してからというのはな。

結果が正しく、実は子爵が裏でエールエイデ伯と繋がっていたとか、積極的に裏切った訳ではないがもしエドヴァルドが不利になった場合、伯爵に後で自分の貢献を宣伝する為にわざと利敵行為を行ったり天秤にかけていたとしても、だ。

その過去は汚点となって将来エドヴァルドの統治に支障をきたすだろう。

今、利益があっても将来の損害の方が大きいかもしれない。


「もともとあいつは父上が帝国騎士の任務を終えて戻ってくるまでに莫大な借金をエールエイデ伯にしている。繋がりはある」

「ですから、そんなのは疑わしいというだけで何の証拠にもなりませんしこの地方の主も同然だった伯爵に借金するのは自然な流れです!」


アルベルドは次々と子爵の行動の疑わしい点を挙げるが、エーヴェリーンはそれに反論していく。

二年半前にやってきた私には知らない話も多い、オルプタ殿もあまり領地運営には関心なく研究に専念していたそうだから我関せず、だ。

子供二人が喧々囂々の議論をしていると、階上からあの女騎士が降りて来た。


「貴方達、こんな夜更けに何度も何度も騒がしいですよ。いい加減にしてください」

「シセルギーテ、お前も話に加われ。子爵の奴は反外国人派で御祖母様に対しても敵対的だ。あいつは疑わしい」

「ですから城下の噂を統制出来ていなかっただけで、そこまでいうのは行き過ぎです!」

「私はいい加減にしてくださいと言いました。スーリヤ様の安息を汚すものは全て敵です。下らない議論をしている暇があったらイルンスール様を探し出してきてください。スーリヤ様にはあの方が必要なのです」


静かな殺気が部屋を支配する。

シセルギーテという女騎士の迫力は本物でかなり神経が参っているようで、本気で行動に移しかねない危うさがあった。


「悪かったシセルギーテ。御祖母様の事はイルンスールがマナスとやらの輝きは戻っているから時間をかければこのままでも意識は戻りいずれ体も動かせるようになると言っていた。引き続き頼む」

「はい、もう行ってください。この塔に侵入者を入れないで下さい。貴方も次に誘拐されても助けには行きませんよ。もしあの時スーリヤ様に何かあれば貴方をヴァルカに連れ帰って我が一族代々に受け継がれている処刑方法で始末するところでした」


アルベルドにしては殊勝に謝罪してすんなりと出て行った。

私も夜遅いので出て行くように言われた。

これ以上話を聞くのは難しいようだ。

塔の外にはアルベルドの小姓が待機していて、彼らとアルベルドを自室まで送る道中にイルンスール嬢の事を聞いた。


「彼女について行先を本当に知らないのか?」

「知らない。知りたければ関所に使いを出せばいい」


アルベルドは不貞腐れた子供そのものだった。


「小僧、彼女に出ていけといったそうだな?」

「それが?」


相手が成人だったら一発殴り飛ばしている所だが、少年なので指で軽く胸元をついてやるだけで許した。

アルベルドはよろめき、たたらを踏んで回廊から落ちそうになって小姓たちに支えられる。


「危ないじゃないか!?」

「エドヴァルドは彼女に騎士としてその身を守ると誓った。彼女の身柄の保護を3人から託されていた。ひとりは彼女の父、ひとりは魔術評議会の正式な一員であり、帝国にも多大な貢献を行い先代皇帝とも親しかったイザスネストアス老師。ひとりはお前たち東方の大君主であるフランデアン王。お前は父親の誓いを汚した。騎士の宣誓を侮辱した。当代随一と言われた最高の騎士の名誉をお前の下らん感情で汚したのだ」


少しはアルベルドにも思う所があったのか、ちょうど降り始めてきた雨にしばらく打たれていた。


「おい、さっさと戻るぞ」

「ああ…」


小走りで中央塔の入り口まで駆け寄ってきたアルベルドと塔内へ入るが、見張りの兵士がいない。

妙だ。


「子爵の部屋に行ってみよう」

「そうだな」


アルベルドが言う通り、異常時にはまず彼の状態を確認すべきだろう。

子爵も今は城代なので中央塔の一つに部屋がある、そこへ行くその途中にも兵士は見かけず、使用人もこの時間には寝静まっていた。


「この辺りは、城下から子爵が徴兵した新兵達の担当範囲なんだ。城壁や城門と王族の塔だけ老兵達が守ってる。引退した兵士にも来てもらった」

「それで?」

「あいつらだけにすれば何か動きを見せると思った。父上からも要所は熟練兵に任せるようにと指示があったから子爵も配置変更は出来なかったし」

「つまり?」


静まり返った城内をてくてく歩いてアルベルドは先導した。


「俺が勝手に塔を出て行った事はすぐばれるし、エーヴェリーンやオルプタやあんたにシセルギーテと皆で密談していれば何か行動を起こすと思った。もうあいつの子飼いの部下だけじゃ到底この城をひっくり返すのは無理だからな、さっきの戦いで良く分かっていただろうし」

「ふむ」


アルベルドがばん、と子爵の部屋を開けるとそこはもぬけの空だった。


「どうやらあいつも出て行ったみたいだな。エーヴェリーンの言うように裏切ってはいないのかもしれないけれど、これでもう安心だ」


この小僧は良い騎士にはなれそうもない。

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2022/2/1
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