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森の娘と最後の騎士  作者: OWL
第二章 森の娘
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★★第42話 遍歴の騎士アルヴェラグス③

中央塔二階からは東の塔まで空中回廊で結ばれている。

回廊は柱で支えられているだけで壁などは無く、横風が吹きさらしだ。

空中から見た時、その辺りから剣戟の音がしていた。


中央塔を出て石造りの廊下を東の塔まで歩く。


戦力不足だというのに仲間割れとは困ったものだ…。


東の塔はいくつかの塔から構成されているが、主要な塔はイルンスール嬢が占拠していて二階以上は男性の立ち入りを禁じている。

回廊連結部分の入り口には兵士が歩哨として立っていて、その歩哨がアルカラ子爵の侵入を拒んでいた。

そして歩哨の応援に駆けつけてきた他の兵士と子爵が戦闘状態になったようだ。


「何事ですか、騒々しい」


傷ついた歩哨たちの後ろ、東の塔から出てきた女性がそこに声をかけた。

本人だけでなく、身にまとった甲冑からも強力な魔力が発散されている。魔導騎士だ。


歩哨たちを武装解除した子爵の部下にはそれがわからなかったようで、出てきた女性にも槍を向けて近づいた。


「お前たち待・・・」私が声をかけるも、間に合わず。


「敵襲かっ」


子爵の部下は歩哨を殺さないよう努力していたフシは見られたが、敵襲と思った女性にそれは通じず、引き抜いた大剣を振りかざし槍兵3人が瞬殺された。

部下たちが惨殺されて子爵の子飼いの騎士であろう二人が剣を構えて女性と対峙しようとする。

そこにようやく私が駆け寄って争いを止めた。


「お前たち待てというに、エドヴァルド様の命令だ。武器を収めろ」

「アルヴェラグスか…」


子爵が、舌打ちでもしそうな顔でこちらを見て部下にも武器を収めるよう命じた。

しかし一方の女性は応じない。


「誰であろうと武装したままこの塔に近づくことは許しません。特にお前のような魔導騎士は」

「塔にまで入る気は無い、心配しなくていい」


女騎士を安心させようとしたが、向こうは警戒を緩めない為こちらも体に漲らせた魔力を緩めるわけにはいかない。

これだけ腕利きで立ち込めている魔力も強い相手だと一瞬で距離を詰められて致命傷を受ける恐れがあった。

緊張状態の我々の後ろからさらに近づいてきた一団から出てきた少年が声をかけてきた。


「俺も駄目か?シセルギーテ」

「アルベルド・・・、どうしてここへ?」

「アルカラ子爵を逮捕する。シセルギーテも協力してくれ」

「逮捕されるのは君のほうだ、アルベルド」

「おや、子爵の部下でしたか。それは済まない事をしました。ですが、私を巻き込まないで下さい」


シセルギーテという女騎士は、協力を拒否して歩哨たちの介抱を始めた。


アルベルドは塔の守備兵と挟み撃ちするつもりで王族の塔からまた出てきたのかもしれないが、シセルギーテは協力せず守備兵も倒されてしまっていてアルベルドと小姓二人では子爵と騎士二人には勝てそうもない。

勝機と見て出て来たらしいアルベルドだったが、また窮地に陥ってしまった。


子爵の部下二人は再び武器を構えてアルベルドに向き合おうとしたが、私が剣を抜いてその眼前に突き付けた。


「エドヴァルド様の命令だと言わなかったか?争いを起こしラリサの兵力を徒に損なうのであれば、エドヴァルド様に代わって私が処刑する」

「外国人のお前にそんな権限はない!」


エドヴァルドに何か一筆書いてもらえば良かったかもしれないが、同士討ちをして最上位者が命令に従わないということまで予測するのは難しかった。

彼の部下からはろくな魔力を感じない、シセルギーテという女騎士ならともかく子爵の部下は私の相手をするには力不足。


「権限ならここにある、試したければ相手になろう」


子爵の部下二人は顔を見合わせて、それから子爵を見て首を横に振った。

賢明だ。


「よろしい、武器をしまえ。では続きは中央塔の謁見の間でやろうか。シセルギーテといったか、君も来てくれ」

「お断りします」

「何?」


シセルギーテにはっきりと拒否されて、さすがに不快になる。


「歩哨達を医者の所へお願いします。私は彼らに代わってこの塔を守ります」

「歩哨の代役なら代わりを寄越す。君も来てくれ」

「はっきりとお断りしました」

「何だと?エドヴァルド様の命令だといってもか」

「私は彼の部下ではありません」


どうにもこうにも融通の利かない女だ。

何故エドヴァルドの部下でもない女がここを守っているのか分からなかったが、これ以上要求しても時間の無駄のようだ。


アルベルドと子爵を連れて謁見の間まで戻り、彼らの部下に後片付けを命じる。

名代である私がエドヴァルド様に代わって中央の椅子に座り、両者をそれぞれ左右に向かい合わせて立たせる。


「血だらけだな、何があった」


口々に答えようとするのを制して子爵から報告させた。


「反逆だ。アルベルド様は城代である私の権限を無視し続けラリサに危機を招き、とうとう兵士を煽動してつい先ほど私に対して武器を向けてきた」

「本当ですか、アルベルド様?」

「ああ、彼は嘘は言っていない。アルカラ子爵はあまりにも職務怠慢、無能が度を過ぎるのでこれ以上彼にラリサを任せるわけにはいかない。故に解任することにした」

「小童にそんな権限はない!」


傲慢に城代を無能と言い切ったアルベルドに対して、その無礼さに子爵も腹を立てて礼儀を捨てた。


「確かに子爵の言う通りそんな権限はアルベルド様には無いな」

「そら見た事か!」


得意満面になる子爵。


「で、子爵は何故エドヴァルド様にラリサ炎上の報告をしなかった?」


調子に乗った彼に冷や水を浴びせる。

代わりがいないので子爵にここを任せているだけで、彼の能力についてはエドヴァルドも不満を感じていた。子供に過ぎないアルベルドにも無能と言い切られるほど私も酷いとは思わなかった。

これは別々に事情聴取すべきだったかな、だが目を離すと何をするか予想出来なかった。子飼いの部下がいない私の限界だ。


「報告は送った」

「四日遅れでな」


不平そうにいう子爵をぴしゃりと叱りつけた。


「被害状況の調査やエドヴァルド様の正確な位置を確認するのに時間がかかっただけだ」

「伝令は町の被害状況をろくに確認しておらず、君も自分の目で被害を確認しようとしていなかったと報告してきたぞ。それに何故そんなに被害が大きくなった?事前に敵の攪乱工作については警告を受け対応策を講じるよう指示されていた筈だ」


エールエイデ伯の娘達が森に火をかけるつもりだと密告があり、それについての警告を事前に子爵には伝えていた。


「兵力が少なすぎるのだ!大体ただでさえ殿下が直前に誘拐されていて僅かな兵からも割かざるを得なかった」


アルベルドや他の兵士からも事情を聞いてみると、確かにアルベルドが勝手に郊外まで出かけた挙句攫われて余計な面倒を引き起こしたらしい。

その点をアルベルドは隠しもせず、それさえ子爵が職務放棄していた為だと言い放った。子爵はその非難は不当であり城代の職務が多忙だったと弁解した。


「なるほど、それは理解した。で、事前にどんな予防措置を講じていたのか聞かせて貰いたい」


そう問いかけると子爵はしどろもどろになり、ろくな警戒をしていなかったことが浮き彫りになってきた。


「自由になる兵士は数十人しかいない!どうやって対策を講じろというんだ!?そもそも森を少しくらい燃やされても構わないから敵兵を泳がせておけと命じられたのはエドヴァルド様で、間の悪い時にご子息が誘拐されたんだぞ!!」

「手に余るなら、エドヴァルド様にそう報告すれば良かった。だいたいオルプタ殿

の手を借りるように、と指示があった筈だ。彼女は何処だ?」

「・・・あいつも東の塔から出てこない」


子爵はこちらから少しばかり目を背けて返答した。


「何故だ、君を補佐していないのか?」

「彼女はこちらの指揮下に無い。私の知った事ではない」


ふうむ、どうも指揮系統、情報共有に難があるな。

そもそもオルプタ殿に対して何の指示もしていないとは。

自分の部下ではないので指示も出せないというなら、それもエドヴァルドに報告して相談すべき内容だ。指揮系統に問題があったとはいっても、エドヴァルドが後事を託すのに足る人間では無かったようだ。


子爵から話を聞きながらアルベルドにも目を向ける。

先ほどから面白がるような目でこちらを見ている。

メッセール殿から問題児とは聞いていたが…。


「ご子息は随分と余裕そうですね、今度は貴方からも事情を聞きましょうか。貴方の行動でこの通り数少ない戦力にさらに無駄な被害が出ました。後で御父上から叱責がある事は覚悟してもらいましょう」


じろりと睨みつけるが、それでも余裕そうな表情を変えはしなかった。


「俺に聞く前に子爵にまだ聞くことがある。何故東の塔へ?」


ああ、そうだった。それも聞こうと思っていたが、ある程度子爵から話を聞いたので後回しでもよいかと保留していた。


「・・・エーヴェリーン様に君の事を諫めてもらおうと思ったのだ」

「本当かな?人質にしようと思ったんじゃないか?」

「私は君らが赤子の頃からずっと面倒を見てきたんだぞ!侮辱するのも大概にしろ!!いくら公爵閣下のご子息だからといってそれが大人への・・・今まで保護して貰ってきた相手に対する態度か!?」

「俺はメッセールやイーデンディオス達の世話になった覚えはあるが、子爵の世話になった覚えはない」


また口論になってしまった。

これ以上この二人を一緒に置いてもいつまた剣を抜くか分からない。

引き離す時だ。


「お二人とも自室に戻って明日の朝まで出ないように、今晩は私が子爵の業務を引き継ぐ。頭を冷やして貰おう」


「「外国人が城代?」」


二人そろって仲良く不満を表明してきた。


「エドヴァルド様の命令でここに来たと言っただろう?指示に逆らうのであれば相手になる」


状況を把握してくるよう頼まれたが、子爵に代わって城代となるようには命じられていない。

が、ここは独断で動くことにした。


子爵の部下もアルベルドの小姓や忠実な老兵を全員合わせても私一人で相手に出来る自信はある、だが向こうはその実力差は分からないだろうから突っかかってくる恐れはあった。唯一危険な相手は先の女騎士だけだ。


先に子爵を自室まで送り兵士達に交代で見張りにつくよう命じた。

続いてアルベルドを同じように自室まで送り、それから東の塔へ赴いた。

目的はエーヴェリーンとイルンスール嬢から話を聞くこと。


塔に到着すると、負傷していた歩哨の交代要員が来ていたので取り次ぎを頼むが、イルンスール嬢は不在だという。

もう夜だというのに?

今晩は研究棟にでも泊まっていたのだろうか。


東の塔の出入り口には呼び出し用の鈴がついていて、それを鳴らすと侍女が出てきて改めてエーヴェリーン嬢を呼んでくれるよう頼むと2階にある応接室へ通された。

この騒ぎだから彼女らもある程度状況は兵士から聞いていたようだ。


夜だった為、着替えて人前に出るのは時間がかかるかと思ったが、エーヴェリーン嬢は上着をひっかけただけで出てきた。侍女からはさぞ反対されたことだろう。

エドヴァルドが出撃して以降これまでのラリサの状況について聞く前にひとまずイルンスール嬢は先日の放火騒ぎで怪我をしていないか、今は研究棟にいるのかと聞いてみた所その返答は意外なものだった。


「お姉様はあの日以来行方不明です」

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2022/2/1
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