★★第41話 遍歴の騎士アルヴェラグス②
「ラリサと周辺の森が焼失致しました」
伝令が持ってきた話を聞くと事件発生は四日前。
つぶさに聞いてみると城内では大した被害は出ていないが、裏手の森の一部と奥にある聖なる森周辺が焼かれてしまい、城下町にも飛び火して被害が出たという。
若手の騎士や武官たちが、何故そんな重大事を伝えるのに四日もかかった!と伝令に詰め寄っているが、エドヴァルドが方手を上げて、黙れというかのように拳を握りしめて意思表示をし黙らせた。
「それで、ラリサの様子は?敵が回り込んで来た訳ではないのか?」
「い、いえ、そのような事はありません。敵は数名の工作員のみで一時アルベルド様が人質に取られましたが、すぐさま奪還致しました」
「民衆の様子は?」
「申し訳ありません、私はつぶさには承知しておりません。倉庫街と住宅街の一部が炎上して住人達が郊外にテントを張り始めたくらいしか…」
「むぅ…、ラリサからここまでは急げば一日、二日で到着するだろう?道中の砦や、こちらについた領主からも替え馬を借りればかなり早く着くはずだ。ここまで連絡が遅れて城下の様子もあまり把握できていないというのは困るな」
下手をしたら敵の方が早くこちらの状況を知って、そこを突いてきたかもしれない。危ないところだった。
「申し訳ありません。実は私は城代のアルカラ子爵の命令ではなくアルベルド様の命令でやって参りました」
「どういうことだ、何故あの子が指示をする?」
「アルベルド様は子爵が城下町の視察に出ようとしない為、自分が行ってくるとおっしゃったのですが、それが元で口論になった過程で結局まだ伝令を出していないことが明らかになり急遽私が出て参りました」
ラリサに残した戦力は前線に出すには年を取り過ぎた老兵と城下町からかき集めた未訓練の新兵、そして何かあった時の為に伝令として騎兵の一部、子爵の子飼いの部下などがいた。
「どうなさいますか、殿下。一度ラリサに戻りますか?」
片腕を負傷して肩から吊っている状態のパラムンが武官たちを代表してエドヴァルドに問いかける。
「いや、敵の中核戦力を撃破したばかりだ。敵に立ち直る隙を与えるわけにはいかない。このまま攻める、だが兵士達にも早晩ラリサの情勢は知れよう。そうなると士気が下がって脱走者が出るかもしれん。・・・そうだな、アルヴェラグス。悪いが天馬で急ぎラリサに戻り状況を確認してきてくれ。大した被害は無かったと兵士達を安心させてやりたい」
「承知しました」
武官達を解散させ、伝令の馬を替えてラリサに戻すようエドヴァルドは指示した。私も早速出発すべく天馬の支度をしているとエドヴァルドがやって来た。
「アルヴェラグス、悪いな。君にこんな事を頼んで」
「気にしないでいい。・・・子爵の事か?」
「そうだ。大っぴらには言えないが後方で暗躍され森に火が付けられるのは想定内だったし被害が大きくならないよう十分に備えておくよう命じていた。敵が上回ったのか子爵の怠慢か調査の必要があるが、今は代わりがいない。彼に落ち度があっても戦後まで厳しく処罰することは出来ない。現時点で彼の処罰について話を持ち出すと最悪裏切られる恐れがある。済まないが、言動には十分注意してくれ」
「了解した」
私の場合は帝国騎士の公務と違って、道楽の旅だったが同僚のようなものだったので彼は私に気を使ってくれている。
私も人前では彼の部下として振舞う。実際部下だが、従士を付けられるほど俸給は貰っていないし装備も自腹だ。
夜間の飛行は星を目印にすればおおよその方角は掴めるが、正確に目的地に着陸するのは目印が無いと着陸してから数刻地上を走る事になる。
伝令が到着したのは夕方遅かった為、急いで出発してもラリサについた時には完全に日が暮れてしまっていた。幸いラリサには高い塔がいくつかあって屋上では夜間篝火が焚かれている為、それが目印だ。
天馬は速力はあるが、持久力が無いので休憩が必要だし、日が昇ってから被害状況を自分の目で見に行かなくてはならない。
エドヴァルドの所に戻るのは早くても明日の昼以降、民衆が不安がっていないかも聞き取り調査に行くとなるとさらに時間がかかる。
塔の上の見張りから矢で射られると厄介な為、馬上で松明に火をつける。
天馬には重い荷物は積めないので西方で入手した片手で操作できる携帯点火機はこういう時に便利だ。
しばらく上空を旋回して、城下町の明かりを確認しながらゆっくり降下していくと何やら城内の様子が騒がしい。
城壁上の兵士達は持ち場から離れていないが…塔の間を結ぶ回廊上で兵士達が戦っているようだ。天馬が羽ばたくのをやめて滑空すると剣戟の音が聞こえる。
「アンブラ、城外で待て」
天馬は人間の言語を理解しているわけではないが、訓練によって簡単な合図で意思の疎通は出来る。待てと言えば声や笛が届く範囲で近くをうろついて待っていてくれる。
私は上空から飛び降りて中央塔のひとつ、軍議などで使われる塔へ魔力で足を強化して着地し回転しながら衝撃を殺す。
「アルヴェラグス様、戻ってくださいましたか。公爵閣下は何処に?」
こちらが旋回して見張りに合図を送っている時、松明を振り回して応答してくれた見張りが駆け寄ってきて、質問してきた。
「ひとまず私だけ状況を確認しに来た。一体何が起こっている。敵襲…というにはあまり城壁に動きは見られないが」
「同士討ちです。不仲だったアルベルド様とアルカラ子爵の部下たちがとうとう仲間割れを起こしてしまったようでして」
なるほど、それで職務に忠実な兵士はどちらにも味方していないというわけか。
「理由は?」
「私には分かりかねます、ひとまず止めて頂けませんか、アルヴェラグス様」
「仕方ないな」
屋上から階下に降りて軍議の間まで行くと数人の死体と共に負傷者がいた。
「アルベルド様と子爵は何処だ?」
負傷者に聞いてみると、不利になったアルベルドは王族の塔に撤収して立て籠もってしまった為、塔を守備する職務に忠実な老兵達が子爵の侵入を拒み、子爵は全ての城兵を敵に回す危険を避け東の塔へ向かったという。




