★第38話 辺境領主の地方統一②
娘達が行方不明となり、疑心暗鬼となったエールエイデ伯はとうとう兵を上げた。
だが、すぐに応援に来るはずだった親類達の領地で火の手があがり、近隣領の村々にもおかまいなしに火の手が上がった為、こちらに味方する領主だけでなく敵の領主間でもお互いをなじりあい小競り合いが開始された。味方も巻き込まれているが、伯爵の主城を落とすまでの間戦力が分散されていた方が都合が良い。
「よし、これで参陣しなかったものは戦後全て処分する。メッセール、アルヴェラグス、パラムン、クレメッティ、ディアマンティスは私と共にあれ。アルミニウスはアルカラ子爵を補佐し城の守りを固めろ」
「はっ」
アルミニウスにはいざとなったら子供達を連れて逃げるよう指示してある。
天馬を駆れるアルヴェラグスはいざというときに側に置いておきたい。
メッセールと若手の騎士達が主力だ。
兵をあげたものの、エールエイデ伯の部隊はまごついて足を止めている。
しきりに親族を呼び戻そうと今更外交戦を再開しているが、優柔不断過ぎる。
その間にかの領地に攻め込み、見張り程度しかいなかった砦を焼き払い、丘を陣取取り挑戦旗を掲げた。街道と農地を抑え分解して運んできた投石機を組み立てて敵を待つ。
こちらに参陣したもの達は600、意外と多く集まったものだ。
貴族といっても小さな村の領主程度ばかりだからな・・・・・・。
後方から続々と荷馬車に積まれた食料も届く。前々から購入してあっただけ加勢が増えても十分足りているようだ。随分高価な栄養食もある、参戦した者たちも張り切る事だろう。医療品も武器の備えも十分だ。
「よし、騎兵をやって村々に火を放て、エールエイデ伯の部隊をおびき寄せろ」
縮こまって出てこない敵兵を挑発し、野戦で片を付けたい。市街戦で乱戦になると数の差が出てしまうので被害が増える。
メッセールの戦いで分かっていた事だが、奴らの騎士は私やアルヴェラグスの相手ではない。
士気の低い末端の兵士達は、大将や騎士達といった指揮官級が死ねば散り散りになって逃げ、野戦の場合そのまま部隊に戻らないで自分の家まで逃げ帰ってしまう事も多い。
片っ端から領地を焼かれ始めると、処罰も恐れず家族や自分の財産が心配になった兵士達が脱走する為、向こうは出撃せざるを得なくなり結果こちらの3倍近い敵兵が目前に集結している。
「残念ながら、伯爵は出てこなかったようです」
天馬で偵察していたアルヴェラグスが戻ってきた。
「そうか、奴が出てくればここで終わらせたものを・・・。アルヴェラグスも軍馬に乗り換えておけ。明朝突撃する」
天馬は気性が戦いには向いていない。パラムンは魔獣を騎馬代わりにして他の騎士達は普通の軍馬だ。パラムンの場合、魔獣たちを騎獣とできるのは魔力が豊富な騎士ならではのこと。
「はい、しかしああも焼いてしまって良かったのですか?今後の統治に差しさわりがあるのでは?」
「それは仕方ない、全て伯爵の罪にする。納得できないものもいようが、兵糧の供出に積極的に応じた村は対象から外している」
そこらの村人は重税に喘ぎ、余裕は無かったようだが同情する気はない。
「は」
翌朝、突撃の為訓練通り陣形を整え、武官たちが戦闘準備完了の報告をしてきた。
「閣下、いつでも突撃可能です。あののろまどもはまだよちよち整列中です、このまま突撃してもよいのではありませんか?」
「そうだな・・・いや、奴らの総大将の位置がはっきりしてからだ。すぐに逃げられては敵わん。この場で壊滅的な被害を与え伯爵の城に逃げ込まれる前に主要な指揮官を捕えるか戦死させる」
「エドヴァルド様、どうやら指揮官は伯爵の息子パンテリオスのようです」
「見えましたか、イーデンディオス老?」
「ええ、数人の騎士と護衛が守りについています。いま右に騎兵集団が集結中です」
「良し、では準備砲撃を始めろ」
「はっ」
突撃の前に、魔術師達が作成した着弾と同時に広範囲に大きな火の手をあげる特殊な薬品の詰まった火焔壺を弾薬として投石機による準備砲撃を開始した。
発射時の初速を魔術で加速して飛距離を伸ばし、弾薬は威力よりも敵の陣形を乱し、突撃を容易にする為のものだ。
いくつかは敵の魔術師に迎撃されるが、帝国本土の魔術評議会の一員であるイーデンディオス老とは実力が違い過ぎる。
魔術は魔術によって無効化されていく。魔術戦は普通の兵士達にはわからない地味な戦いだが序盤の流れを左右することもある。
通常魔術師はこんな戦には参戦しない。
魔導騎士と違って雑兵に槍で一刺しされてしまえば死んでしまう魔術師が小競り合いの度に死んでいったら人的資源の大きな損失だ。
何の訓練も受けていない農民のせがれと何十年も修行して得られた魔術の奥義、知識は等価交換は出来ない。
今から50年くらい前の第二次西方市民戦争では大勢の魔術師が死んでしまい西方諸国では多くの魔導騎士、魔術師の家系、派閥が絶えた。
そんな事もあって魔術評議会や王国、派閥の長達が話し合って双方の魔術師に参戦を禁じる事が多いのだ。
だが、今はイーデンディオス老に参戦を禁じるような格がある魔術師の派閥は敵方にない。
禁じる事が出来るのは帝国の評議会くらいなものだ。
こちらが投射させた火炎壺は敵陣に着弾し、周囲の兵士達は体にまとわりつく火に悲鳴を上げて、逃げ惑う。せっかく整えた隊列もばらばらだ、槍兵が整列して騎兵に立ち向かわなければ烏合の衆に過ぎない。
「よし、突撃開始!」
戦闘開始を告げる喇叭の音と共に、鋒矢の陣で突撃を開始した。
先頭は私だ。
鍛え上げられた軍馬は他の騎士達を引き離し、ぐんぐんと敵兵との距離が近づいていく。
激しい火と煙が上がっているが、敵前列の指揮官がこちらに気づき弓兵!と叫ぶ。
「お待ちくださいエドヴァルド様!お一人では危険です!!」
ユリウス達、軽装の従士が乗った軽騎兵が追随してくるが、それでも私の軍馬の方が速い。
若干魔獣の血が混じっているという品種で非常に高価だったが帝国騎士時代から使っているので、支払いの出どころは皇帝陛下だ。
制止を無視して突撃を続けると矢の射程範囲に入ったが、構わずマントを翻し突進する。
「撃て!」
一斉に放たれた矢は私に直撃する前に加護の力によって反転し、射手に向かって戻り例外なくその命を奪った。
・・・・・・ううむ、さすがだ。
一般兵の矢など効かないとは思っていたがここまでとは。
流れ矢が味方に当たるのを防ぐため、逸らすのではなく勢いを殺して地面に落としたりする守護もあるが、完全に撥ね返すとは・・・。
敵の指揮官に向かい無造作に槍を放り投げ串刺しにする。
「ユリウス!槍を寄越せ!!」
使い捨ての投げ槍は放置して、愛用の槍を持ってこさせる。
この槍は私の魔力石を埋め込み魔槍と化している。
敵の両翼には砲撃が続けられ煙幕となってこちらの主力の動きは見えていない。
我々は中央に戦力を集中している、追いついて来た騎士達と共にさらなる突撃を開始した。
軽騎兵が戦列に開けた穴をどんどん広げ、歩兵が掃討していく。
あと、二,三陣突破すればすぐに大将だ。
先頭を行く私に弓矢が効果ないのを見て取って、二陣目の敵兵は小型の弩を捨てて隊列を整え盾を構え密集し剣を抜いた。好都合だ、部下たちには弩は効いたろうに。
「トルヴァシュトラの槍よ!!」
軽く上に放って持ち直した愛槍に魔力を込めるとばちばちと火花が弾け、十分に溜まってから今度は敵集団中央に投げ撃った。
白い閃光となって飛んだ槍は盾を穿ち鎧も人間も次々と貫通し、着弾地点で雷を伴う爆風を引き起こし隊列を乱させた。
「全員ついて来ているな!いくぞ!!」
ユリウスを槍の回収にやらせて剣を抜き、パンテリオスの旗を捜す。
三陣目は敵に狐型の魔獣に乗った騎士がいて名乗りを上げてきた。
「来たな、王家の名を穢した恥知らずめ。伯爵の娘達をさらい無用の戦を起こした貴様はこの白銀の騎士アルシータが討つ!いざ、出会え!!」
「しゃらくさい!!」
馬腹を蹴って薄汚れた白銀の騎士へ向かい、剣を撃ち合うが一合では決着がつかない。
「エドヴァルド様!ここは私が引き受けます、先を急いでください」
パラムンが駆け付け、槍で打ち合い始めた。お互いの実力は近いようだが相手の方が経験豊富に見える。こんな所にも腕の立つものはいるようだ。
「パラムン、任せる!」
「待て、逃げるか!?」
こちらを追いかけようとしてきたが、パラムンに阻まれる。
後続が次々追いついてきている為、心配せず先を急ぐことにした。
次の陣は既に乱れていて、あちこち綻びが見える。
「エドヴァルド様、パンテリオスが逃げていきます」
目のいいアルヴェラグスが指で敵将をさす。
「よし、追うぞ。メッセールはついて来ているか?」
「は、おそばに!」
近くで敵の騎士を戦いながら返事をする。
魔力を込め近くに響き渡るように指示を下す。戦場では声が通らなくては話にならない、大声の兵士などは特に貴重だ。
「敵将は逃げた!こちらの勝ちだ、次は右だ。貴様は残って戦場を掌握しろ!!」
「は!」
メッセールに中央突破後は右翼側を攻撃するよう指示して、自分はアルヴェラグスや従士達と共にもはや敵兵に構わず、陣の間を縫って駆け抜ける。
敵将は父親に似て優柔不断だったようだ。逃げるなら一目散に逃げればよかったものを後方の丘で統率を取り戻すつもりだったのか、足を止めている。
まあ敵の方がいまだ数は遥かに多い。両翼の敵が歩兵を押し包めばこちらは全滅だ。
しかしそんな暇は与えない。
護衛の騎士が数人迎え撃ってくるが先の騎士ほどではない。一人は斬り捨て、残りはアルヴェラグスに任せる。
「お・・・お前たちなんとかしろ!」
魔術師が押されて前に出てきて魔術を放とうとするが、遅い。
ユリウスらが弩を放ち、研ぎ澄まされた矢弾に全身を撃たれて穴だらけになる。
私の従士達も長い帝国街道の巡回の旅の中、数多くの戦いに私が巻き込んでしまった為、そこらの兵士達とは経験が違う。
護衛の魔術師も兵士達も次々と死んでいき後にはパンテリオスのみとなった。
「ま、待ってください。私は父上に命じられてやってきただけでエドヴァルド様に逆らう気など毛頭ありません!」
「今更馬鹿げた事をいうな、見苦しい。貴様の妹達が伯爵は城下町だけでなくエルセイデ大森林に火を放つつもりだと告白してきたぞ。見ろ!お前の部下たちを、貴様を守るために全員死んだ!!誇りがあるのなら剣を抜け!戦え!!戦って死ね!!!」
あるものは足を串刺しにされても、腕を斬り飛ばされても尚抵抗を試みてきた。
兜ごと頭を戦槌で砕かれ無惨な死に顔の者もいる。
抵抗を続けていた騎士もとうとうアルヴェラグスの槍に心臓を撃ち抜かれ息絶えた。
「あの、妹達が・・・そんなことを。道理で親族まで・・・裏切者が・・・・・・」
絶望したのか、余計に戦う気を無くしたようだ。
ちっ。
「戦う気が無いのなら戦場に戻って降伏の指示をだせ」
うなだれているパンテリオスを従士達に連行させ、主戦場に戻るとメッセールが頑強に抵抗を続けていた残兵と激戦中だった。それもパンテリオスの命令で武器を捨てて、この戦いは終わった。
まだ日も昇りきっていない。
近くの村に戦場の後始末を命じ、我々は行軍を開始して見張り程度しかいなかった小さな砦を二つ落とした。
その日の夕方遅く、こちらの本隊を探して駆け回っていたという伝令が私に急報を告げた。
「ラリサと周辺の森が焼失致しました」




