★第30話 辺境領主の息子
おませなアルベルドくんですが、貴族としては将来の相手をみつくろうには早いというほどではないです。
この世界だと年少期の成長早めで老化はやや遅い感じ。
健康的な生活を送れていれば
あのむかつく女は毎朝礼拝堂にいる。
いずれ屈辱を晴らしてやろうとあいつが外出する時を観察していたが、いつも護衛代わりの女医師か騎士を連れていて全然隙が無い。
アルミニウスという奴は父上の騎士では無かったようだな。
最初からそんな感じだったが。
燃え上っていた恨みの感情も時間が経つにつれて冷えていく。
いったん恨みは置いておかないとならないようだ。
だが、ひとつ許せないことがある。はっきりさせる為、あいつが祈り終えてから話しかけた。
「お前、あの馬上槍大会の時ずるしただろう。アルミニウスの奴に付与魔術をかけていた筈だ」
他の連中は否定していたが、俺は見た。
他の連中はマナの知覚能力が低いんだろうが、王族である俺の目は誤魔化せない。
「はぁ・・・アルベルド。あの時9歳のわたしが、貴方に平民だなんだって馬鹿にされるこのわたしが、一流の魔導騎士に魔術をかけられると思うの?」
「・・・確かに魔導騎士の鎧を着用している以上、たいがいの魔術は勝手に弾かれるだろうな。だが、何かした筈だ」
「お願いだからアルベルド、そんな憎しげな顔をしてわたしを睨みつけないで。ここは礼拝堂なのよ」
悲しそうにこちらを見る。
最近急に背が伸びて俺より大分でかくなったし、いつの間にか顔も見違えて・・・まあ見れる顔になった。
そんな顔で頼まれると少し心がぐらつくが、・・・いやいや流されないぞ。
こいつはまだ答えてない。
「おい、俺は嘘つきは嫌いだ。答えろ」
「・・・リーエ姉。どうやらわたしにはまだ修業が足りないようです」
あいつはこっちを無視してまた何やら虚空に向かって祈りを捧げている。
その顔は真摯で邪魔をしてはいけないような気持になる。
しばらく見てると、思い出したようにあいつはこっちを見て答えた。
「わたしも嘘つきは嫌い。魔術は使っていない事をエミスとナルヴェッラに誓います」
あいつがそう宣言すると側にあった無数の神像のうち二つが少し光り輝いたように見えた。
今のは法の神と詐欺と弁舌の神、裁判などでよく宣誓に使われる神々だ。
俺がその神像をまじまじと見ていると、今度はあいつの方から話しかけてきた。
「ふぅん、アルベルドには見えるんだ」
「何が、だ」
「神様のご加護。あの時もアルミニウスの武運を祈っていただけ。何方かが聞き届けてくれたのかもしれないけど、それはアルミニウスにその資格があったから」
あっさり白状しやがった。
「やっぱりずるじゃないか!そんな手段で俺を跪かせて卑怯だぞ!!
「勝利を祈っちゃいけないなんてルールないもの」
ぐあああああ!
ちくしょう、それはそうだ。
頭をかきむしる俺にまたね、と声をかけ今日の護衛の女医師を伴ってあいつは出て行った。
ある日、エーヴェリーンとあいつが中庭で茶を楽しんでいたので俺にも一杯寄越せというと、その時は淹れてくれたが、次は邪魔しないようにとエーヴェリーンに釘を刺された。妹のくせに最近急に生意気になってきた。
また別の日、エーヴェリーンから聞いた話によると、あいつは実は結構な資産家だったらしい。ガキのくせに・・・、遺産でも持ってたのか。
父上からも随分あいつの資産は頼りにされているらしいので、あいつにはもう手が出せない。
今日も今日とて礼拝堂に通うあいつが祈り終えたのを確認して最近聞いた噂を聞いてみる。
「おい、お前。父上の愛人になるのか?」
あいつはすぐには理解できなかったようでしばらくきょとんとしていたが、意味を理解するとあっさり否定した。
「そんなわけないでしょう。わたしはイザスネストアスお爺さんやシャールミン様の命令でここに預けられているだけ。エドヴァルド様の息子ならその名誉を汚そうとする貴族の戯言に耳を貸さない方がいいんじゃないかしら」
む。
むぅ。
それは、こいつのいう通りだな。
「確認しただけだ、そんな事はわかってる。ここにはお前の部下しかいないだろ」
「そう、じゃあね」
あいつはすぐ傍でこちらを見張っていたアルミニウスに心配ないからそんなに殺気立たないようにと注意していた。あれで意外とアルベルドは敬虔なのよ、なんて言って。
ふぅん。
なんだ、そうか。
父上のものにはならないのか。
あいつに随分借金したとか言ってたし、だったら自分のものにしてしまえばいいじゃないか。
しかし、父上があいつに莫大な借金をしているということは後継ぎの俺もあいつへの借金を受け継ぐのか。金は自由都市連盟や東方行政区が睨みを聞かせてるから踏み倒す事なんて出来ないし、これは厄介だな。
ん、待てよ。
あ、俺のものにしてしまえばいいんじゃないか。
父上のものにならないならそれが自然だろう。




