★第29話 いつかどこかでみたもの
ミリアムさまはわたしの返答を聞いて納得はしていないが、思案顔。
他の皆さんはまったく納得いかなかったらしい。
「呪術など・・・迷信ではないのか?おかしな病を持った寄生虫か何かでは?本当なのか?本当だとしたら何故わかる?何故知っている?」
お父様は困惑顔だが、わたしも困惑だ。
魔術はよくて呪術は迷信なの?
「呪術ですか?」
「君がそういったのではないか!?」
むむむ、違う違う。
「わたしは単に呪い、だと。呪術というからには学術として成立したものなのですか?」
術ということは術理、理論化されているのでは?
それならよく知っているのは皆さんの方では?
お互い困惑顔だ。
「ああ、なるほど。姫さんのいいたいことはわかったよ。エドヴァルドがいう呪術ってのは迷信が集まってそのせいで大陸各地のそれらしきものが分類され整理されたもの。お伽噺も大陸中集まれば似たような構成はたくさんあるからね。迷信であることには変わりない。姫さんはその原初的なもののことがいいたいだけだろう」
ああ、そうそう。そういうこと。
「あたしやあのろくでなしのジジイは昔呪術について研究したが、結局迷信以外の何者でもないと結論づけた。まあ世の中には迷信にどっぷりはまったおかしな奴が呪術師なんぞと名乗っていたが、何の力も無かった」
あぁ、それであのお爺さんは初対面の時あんなに怒ってたのか。それは悪いことしたな。
「で、姫さんはなんでまた呪いだと。迷信にあんな状態が引き起こせるのか?皆は結局奇病といった。実際そういう症例が歴史上あったからだ、あそこまで肉体が爛れるものだとは知らなかったが」
「問題の大元は肉体じゃありません」
「あれが問題じゃない、だと!!」
ひええ、お父様が怖い・・・。帰りたい。
「エドヴァルド様落ちついてください。姫様が怯えてらっしゃいます」
水を取るフリをして、そそくさとイーデンディオスおじいさまの後ろに隠れる。
「す、すまん。だがな、イルンスール。どういうことなのか教えてくれ。何故君にそんなことがわかる」
仕方ない。
「問題は汚染されたマナスです。誰かのおぞましい思念がこもった毒、霊媒を飲まされたのでしょう。単に呪われただけでああなるとは思えません」
「姫様、マナスとは何ですかな?」
「お爺さんは内なるマナだっていってました」
「ふうむ」
「結局毒なのか?迷信なのか?私にはまったくわからん・・・」
「イルンスール様、エドヴァルドではありませんが、結局毒なのですか?癒す方法はあるのですか?」
思考が散り散りに乱れているお父様の代わりにオルプタさまが引き継いだ。
「毒の部分についてはわたしにはわかりません」
皆がわたしの返答にがっかりする。ってまだまだ話してる途中だってば。
「でも癒す方法はあります。わたしに癒せるのは迷信の方です。ともに神に祈りましょう」
また皆が期待したような目で見た後がっかりする。失礼な!
安易に神様に頼っちゃいけないと叱られたばかりだけど、こんな時こそ神様におすがりしましょう。
「お待ちください、皆さん。姫様を信じてみましょう」
おお、トレイボーンおじさまは信じてくれた。
「姫様達がお持ちくださった聖なる森の泉で汲んできた水で作った回復薬や秘薬の効果は何倍にも跳ね上がりました。ですから・・・」
げ、あれ、そんな使い方してたのか。
わたしが頻繁に水浴びしてるのに・・・菜園に撒くっていってたじゃん!嘘つき!!変態爺!!!
わたしの出汁でちゃってるよ。いやいやいや、泉の大きさからすれば問題ない、へ、平気さ。
「確かにかつての解毒剤をもう一度試してみる価値はあるかもしれませんね」
無いです、やめてくださいオルプタさま。
「いえ、ですから毒の分解だけでは駄目です。マナスの汚染を同時に取り除く必要があります。そう聞いています」
さっきからそういってるじゃん、変態爺さんのおかげで話がそれたけど。
「「誰にだ(です)!?」」
「お父様がご存じの通り、引っ越しする前に住んでいた所で、ですよ。ちゃんと癒しの儀式に参加したこともありますし、毒の方は話に聞いただけでもうほとんど治っていたのでよく知らなかったんですけど」
「な、治るのか?あれが?」
「毒の方さえ何とかなれば、あのくらいの汚染ならわたしでもやれるはずです」
「・・・どうやら姫様には我らとは違う世界が見えているようじゃのう」
「確かにわたくしにはマナの動きがまったくわかりませんでしたし」
「そう、姫さんあれはどうやったんだい?あの飛び出してきた、あれを灼き払ったのは」
あれか、あれはちょっと痛かった。
うねうねして気持ち悪いし、物理的に目の前にあるのに何故かここにはいないような違和感があったのであれがお姉様達から話に聞いていた呪いが具現化したものなのかなって予想した。
エーゲリーエ姉の体に昔あんなのがいたなんて恐ろしい。
二の姉様達や皆が傍にいたからリーエ姉の状態は良かったけどね。
わたし一人でも追っ払えたんだからスーリヤ様の見た目は酷いけど、肉体的な損壊は慈愛の女神様におすがりすればなんとか癒してくれると思うし、失った部分は再生を司る太陽神が戻してくれると思う、アルミニウスなんて片手取れちゃったけど元通りになったし。
それはともかくあの変なミミズみたいな奴はこっちで全部始末しないといけない。
「あれは火の魔術を使おうとしたんですけれど・・・」
「イルンスール!火系統の魔術は使うな、と固く戒められていた筈だぞ!!」
うっ、でもあれはちょっとピンチだったのだ。それに途中で止めたんだからいいじゃない。
「・・・エドヴァルド様、そんなに怒鳴らないで下さい。なんだか今日のお父様怖い・・・。いやな感じです」
「あ、ああ済まない。どうもなんだか調子が掴めなくてな。君に見えている世界が良く分からないせいか苛立ってしまって、母の事でこちらから君に助けを頼んでいるのに・・・本当に済まない」
「分かって下さればいいのです。結局火の魔術は使わないで、あっち行けって神様にお願いしてお祈りしてたら消えちゃいましたね」
まあ、そちらも安易に頼るなと怒られそうだけど。
でもつい祈っちゃうの。
物心ついたときから巫女長にそうしこまれてきたし、長い事体がまともに動かせなかったしお祈りするくらいしか出来なかったから今更変われないかなって。
「イーデンディオスおじいさま、オルプタ様、みなさま。あの体の毒素は本当に弱められますか?あれに邪魔をされると火の魔術を使って体を守りながら汚染を浄化することになります。汚染自体はわたしが吸い出して浄化できます。マナスの汚染と毒の両方を癒さないとお互いを元に戻してしまうようです。小さなミミズ一体追い払う為にいちいちお祈りしていたら汚染の除去が進みません」
「お任せくださいイルンスール様。我らが必ずや毒素はなんとかしてみせましょう。ですから火の魔術は使ってはなりません。姫様が火系統の術を使うと著しく寿命を縮める可能性があります」
知ってた。




