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森の娘と最後の騎士  作者: OWL
第二章 森の娘
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第26話 辺境領主の決断

「では、まともに見たのはエーヴェリーンだけか、アルヴェラグス?」

「はい、エドヴァルド様。患者には麻酔が効いていましたし、その場にいたものは多くありません」


ふむ。

エーヴェリーンにはアルヴェラグスから注意したそうだが、私からも念押ししなければなるまい。やはり彼女が目立たずに済むのは難しいか。

幸い最近は自主的に森の奥にいて誰とも会わないし、城下町や領内を歩き回ってみたりはしないようなのでこのままそっとしておこう。


・・・彼女の能力や背景についてはもともと織り込み済みでそれでも守ると誓ったのだ。もしまた何か始めてもどうにかしなければなるまい。それにはやはりこの地方を掌握しなければ。ラリサ周辺にエールエイデ伯が影響力を及ぼし始めているし城内も各領主たちの子弟がいるだけあってこちらの内情も筒抜けであるし、私自身段々不愉快になってきた所だ。


「イルンスール様はその後のこともたいそう不快がっておいでで帰城を早める事になりました」


だろうな。

ずいぶん瞳が赤かったし、周囲の気温も上がっていた。

今まであんなものを見た事はないと少々怒っていたようだった。

さすがに彼女の立場上こちらの法制度などにまで口出しするような事はしなかったが。


彼女が見た物は各国でもたまに見かける光景ではあったが、あの優しい娘にはつらい光景だったか。オイゲンの統治はよく機能していたのだろう、自由都市連盟も。


私は戦士として生きてきたし、今は為政者だ。

必要があれば同じようにするだろうし、彼女に知られたら軽蔑されるであろう事のひとつやふたつやってきた。だが、為政者として劣ると思われるのは業腹だな。


「分かった、先に戻っていた彼女たちやアルミニウスからの報告も同じだ。イルンスールが連れ帰った者たちは私が保護する、領主達を集めろ」

「はっ」


太守としての緊急召喚命令を出し、一週間後にはこの地方の全領主および代理人が集まった。

大広間に魔術師や政務官達まで含め全員を集め、諸々の問題に決着をつける事にした。

エーヴェリーンが強硬に出席を主張し、魔術師達の口添えもあったので、先日と同じように大人しくしている事を条件に垂れ幕の裏に隠して臨席を許した。

しかし、イルンスールまで連れてきたのには参ったな。

彼女が感情的になったら何をしでかすかわからん。塞ぎ込んでいると聞いたので決着がつくまでそのままにしておきたかった。

娘達は成人するまで子供らしくしてくれていてよいのだが。


「さて、諸君。伝染病がまだ収まっていない中多忙であろうによく来てくれた、礼を言うぞ」

「とんでもありません閣下。我々こそ特効薬を支給し医師団を派遣して頂いて感謝しております」

「後で国家予算からいくらかこちらに補助金を割いてもらって、足りない分は諸君に残額を請求する予定だから、そのあとで感謝する気分が残っていたらその礼は受け取ろう」


皮肉気に笑ってやるが、皆も大笑いして追従する。

まあ、そう高額にはなるまい。


イーデンディオス殿達が足りない分は安価に合成する方法を見つけたようだしな。

原料を調達するまでに死者はまだ出てしまうのは避けられないが、さすがに老師の高弟達、迅速に薬を開発して見せた。

今まで他の貴族達からは手出しできない相手と煙たがられていたようだが、これで誰もが認めるだろう。


「その医師団が各地を回っている時に見かけたという光景が気になってな、今回諸君に集まってもらった理由のひとつだ」

「なんでございましょう」

「街道辻などの木にかけた吊るし首や、街の門や広場のさらし首だ。今後エッセネ地方では全て違法とする。おって太守として定めた法を施行するので諸君は従うように」


領主達は唐突な宣告にさすがになっと驚きの声を上げる。

政務官達からも調整不足だと反対されたが、今は急ぐ。


気怠げにしていたイルンスールもびくっと反応してこちらを見ている。


「それはあまりにも我らの権利を無視していませんか、閣下」


エールエイデ伯が抗議し他の領主達も追従する。


「太守の権限のひとつだ、異論を聞く気はない」

「ですが、伝統的な刑罰であり犯罪抑制に効果的だからこそ、これまで大きな争いも無く治安を保ってきたのですぞ」


予想された抗議だ。


「では別の方法を検討しろ。良い提案があれば聞くが今回は急ぐ。以前周知させた情報に目を通さなかったか?今回の伝染病は鳥の遺骸からも人間の遺骸からも感染する。処刑を止めろというのではない。処刑後迅速に焼却処分しろ」


「しかし、だからといってあまりにも唐突過ぎます。こちらとて領内での調整が」

「私は異論を聞く気はない、といった。理由も説明した」


一度睨みを聞かせ、間を区切る。


「余計な時間をかける気がまだ残っているのであれば、この地方に疫病をまき散らす害悪として討伐する。卿の領地では医師団が辿り着く前に集落を丸ごと焼き払っていたそうだな。同じようにしてやるぞ?」

「しょ、承知いたしました」

「それと、内臓を引きずり出すような処刑法も禁止する。重篤化したものは内臓で病原体が強力に変異している、これも状況を悪化させる。法手続きは後で行わせるが領地に戻り次第これらの命令は迅速に徹底せよ」


若干適当に言っているが、この際押し切ってしまえ。

イルンスールだけでなく私も好かん。


「続いて国王陛下からのご命令がある、トレイボーン。説明せよ」

「はい、これは以前から問題であったことですが、近年王国の森林面積が減少しここ100年で7割近い減少となっている事が判明しました。このままでは我が国の象徴である主要な産業が失われ回復不可能となります」


どよめきが走る。

農業と共に林業は重要な産業であり、良質な木材は各国へ輸出されている。


「しかし森林の保護制度により管理されている筈では?」

「虚偽や事後報告が多くなし崩しに有名無実化していたようですな。今後は各太守への届け出を厳格化し、不備があれば罰則を強化するとのことです。これまでの分についてはある程度目を瞑りますが、虚偽の報告によって上流域の伐採を進め水害を引き起こした領主には何らかの措置を取られます」


何人か心当たりのある領主が後ろめたそうにしているが、把握しているだけマシだろう。

私も耳が痛い。

まだ抵抗しようとするものもいるが、トレイボーンは澱みなく反論し、固有種の保護や開墾時の代替植林について説明していく。

印刷技術の発達で紙の需要が増え、森林の伐採が進み、農機具の発展、人口拡大で耕地の需要が増えた。森林面積の減少は仕方なかったが、これ以上は不味い。


「さて、諸君。トレイボーンを苛めるのはそろそろ終わりにしてもらおうか。このままでは国が立ち行かなくなる。決定事項だ。南方圏からの難民や移民労働者が懸念事項であろうが、今後は入国制限をかける」

「そう、その労働者の事で話があります。閣下」

「なんだ」


また、こいつかとエールエイデ伯をみやる。


「我が領地にご訪問された姫様方が、我が民を誘拐していったと訴えがありましてな。調査した所真実であるとの確証があります。ご返却願いたい」

「随分栄養状態が悪く、医師達の保護が必要だったと聞いている」

「では、お返し頂けるので?」

「いいや、彼らは奴隷扱いされ鞭で打たれていたとも聞いている。我が国では奴隷制を廃止している為、このまま保護する」


イルンスール達が連れ帰った子供達だ。


「奴隷では、ありません。契約労働者です」

「ごたくはいい、農奴であろう。私も治療が終わったばかりのものを鞭で打たせ働かせていたと聞いては捨ておけん。卿の所の農奴はほとんど30まで生きられないというではないか、奴隷制という制度で保護していた方がマシなくらいだ!恥を知るがいい!!」

「もし過酷な扱いをしているというのが真実であれば改めさせましょう。しかしながらこの件は完全に領主の権利を侵害しておられますぞ。我が領地の財産であり、わたくしは何ら違法行為をしておりません」


たしかに、と他の領主達が支持する。自分達も同様の扱いをしているのだろう。

トレイボーンに覚えておけと目くばせする。


「そんなに財産が大事なら、その契約書をよこせ。払ってやる」

「閣下が?私以外の領主からも借金があるというのにそんな余裕が?」


面従腹背の輩も段々本性が出てきたではないか。


「利子をつけて返している、問題あるまい」

「それほどおっしゃるのでしたら、仕方ありますまい。5人で3000万オボルほどになります」

「ぬ・・・、そんな金額子供らが働いてどうやって返済するというのだ。どうせまともに給料も払っておるまい、それが奴隷でなくてなんだ!!」

「閣下には関係ありますまい。やはりお止めになりますか?」

「・・・払ってやる、契約書を持ってくるがいい」


ち、痛い出費だ。


「ほほう、後で持ってこさせましょう。それにしても帝国騎士として名高い閣下が僅か数人の農奴を救ってやり自己満足に浸って終わりということはないでしょう。いっそ全員救ってやったらどうです」

「何人いるのだ?」

「7000人ほどですな」

「なっ・・・」


こいつ、受け入れた難民たちを全員奴隷化したな。随分受け入れて人道的だと政務官がいっていたが、そんな真似を!

こいつの領地の周辺に関所を作って厳しく取り締まらねば・・・ああいや、そんな事を考えている場合ではない400億オボル以上だと・・・!


「やはり、お止めになった方がよろしいのでは?領地経営は我らにお任せください。閣下はまだお若い。これからお学びになられればよろしいでしょう」


他の領主達に王子殿下であればこのように世間知らずでも仕方ないのですよ、と偉そうに大物ぶりおって。

もう面倒だ。騎士達と共に即刻攻め込んでくれる!


不敬罪とでもなんとでも殺してから罪状など考えればよい!!


いつ剣を抜こうかと思案していると、視界の端に動いている者たちに気が付き、我に返った。

むぅ、少し待つべきか。


「どうなさいますか、閣下」


ふん、と肘掛けに肘をついて思案するフリをした。


トレイボーンが後ろから私にささやき、頷いて了承する。

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2022/2/1
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