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森の娘と最後の騎士  作者: OWL
第二章 森の娘
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★第25話 辺境地方の転機

酷い物を見た。

なので引き籠り生活に入った。


イーデンディオスおじいさまが完全復活したので後は万事うまく統率してくれるだろう。

しかし、あのおじいさま90歳は越えているそうだけど凄い体力だねえ。

城内に住んでいる人たちは結構お年を召した方たちも多いし、普通に生きてたらこんなものなのだろうか。

父さんもわたしを拾ってくれた時から50の大台を突破していたのにまだまだ働き盛りだったし。


・・・だというのに。


パタパタと扇で仰ぐ。

ん、いい匂い。

先日買った新しい扇だ。


以前フッガー商会のダニエルさんがもっとお金使ってくれないと溜まる一方では経済に良くない、お金は天下の回りもの、使ってなんぼですぞ、と訴えるので片っ端からいい匂いがする扇を買ってみた。でも既に持っているものとは違うのを選ぶのが大変だった。

毎年の事だが、誕生日が近づいて来たのでナジェスタや母さんと贈り物をやりとりしている、フッガー商会が持ってきてくれるのでわたしも色々買い物せざるを得ない。

中古船はまだ届かないし、造船所もまだ候補地の選定が終わっただけで、土地の買収もこれからだ。

エルセイデ大森林の東の端にある国の土地を買うことにした。

大陸側と沖にある大きめの島を持っているトーラーンという小さな国だ。

帝国の目が届かない事をいいことに周辺国にどんどん土地を掠め取られて大陸側の土地はほとんど無くなってしまったらしい。


森を保護する監督者の行政が崩壊状態だし、狩人も少なくなって荒れ放題なんだとか。土地が荒れるとマナの澱みが出来て汚染されたマナを吸って成長した果実を動物が食べて魔獣化するんだとかいうけど、もうトーラーンには自力でそういった獣を討伐出来ないんだとか・・・。

白の街道も通っていない貧しい国なので、かなり困った事態みたい。

商会がそんな土地買っても利益にならないけど、わたしにはお金使えっていうから土地買って傭兵雇って送り込んでしまおう。

トーラーンも助かるし、わたしも森の生態系のバランスを取り戻せて嬉しいし、商会も経済が循環して嬉しい。

素晴らしい、皆丸儲け。


本当は東方の大君主であるシャールミン様のお仕事でもあるのだけど、さすがに東方圏の最北西部にあるフランデアンと正反対の方角の国で名目上保護国化されている可哀そうなトーラーンには東方諸国会議でも発言権が無いらしくあちらまで情報が伝わってなかったみたい。

幸いわたしがバルアレス王国からほどほど近い距離で手頃な土地を商会に探して貰っていたらそんなトーラーンの状況が露わになってきた。

ダニエルさんがパスカルフローという国で暇している傭兵団が艦隊毎呼べるというので、シャールミン様への恩返し代わりにちょっと奮発しちゃおう。


ま、そんな個人的な事業はおいといてこの国の状況は大変遺憾な状況です。

あんな野蛮な風習があるなんて知らなかった。

わたしが不機嫌そうに長椅子に肩肘ついているので、小さな下働きの子達が慰めようと植木鉢や花瓶をたくさん持ってきてくれた。

いい子達だ。


「お姉様、まだ気になさっているのですか・・・?」


そりゃまあ、気にする。でももう忘れたい。

わたしは世の中の仕組みにまで首を突っ込みたくないのだ。

エーヴェリーンは何故か最近東の塔に引っ越してきた。

アルべルドと喧嘩でもしたのだろうか。わたしに構うと兄妹仲が悪くなりそうだけど。


アルベルドの奴は最近礼拝堂でもつきまとってわたしにいじわるいってくるのでとてもうざい。

でもそういえばあいつが礼拝堂の事教えてくれたんだった。

あいつに出ていけというのはさすがに理不尽だよね・・・仕方ない。

一緒にお祈りするのは許してやろう。


エーヴェリーンの方は目を輝かせてわたしを慕ってくれて可愛いのだけど、あんまり期待されてもちょっと荷が重い。お姉様達もこんな気持ちになることはあったのだろうか。

いや、ない。ないよね。

あれだけの能力に加えて包容力があった偉大なお姉様達だったから。


「お姉様は十分な事をなさいました、皆さん聖女のようだと崇めていたじゃありませんか、私もそう思います」

「やめて、エーヴェリーン。そういう尊称はレベッカ先生達にこそふさわしいの」


わたしには医師の先生達みたいに感染のリスクがあるのに、手を血まみれにして体を切り開いて手術なんてできないし。疲れていたレベッカ先生達のお手伝いを神様にお願いしただけ。

お祈りしてただけで聖女だなんだってバッカみたい。

さすがに口に出しては言わないけど。

アルミニウスは最近はようやくそういう言葉は口にしなくなってくれた。


今回みたいな伝染病の対処で大変だったのはレベッカ先生やお医者様達だ。


「そのようにお考えだからこそ、皆さんからの尊敬を集めるのに相応しいのです」


なんだかエーヴェリーンの目の輝きがさらに怪しくなった。


やれやれ


アルヴェラグス様の言うとおりだ。

安易に神様に頼るべきではない。でも雷神様にお祈りなんてしてないから!

濡れ衣だから!!


「エーヴェリーンはかわいいなあ」

「え?」


おっと素が出た。いけないいけない。

エーヴェリーンの髪の毛を人差し指に巻いて弄びながらぼんやりしてたら油断した。


ここ最近で何があったかと言えばイーデンディオスおじいさまのおかげで何とか代替薬のメドも付き始め近隣の領主に乞われて旅立つレベッカ先生と一緒に治療活動に出た。

そしたら色々不愉快なものを見て今に至る、というわけだ。

不愉快なものは政治の話だから、私が口を出す筋合いじゃない。


「亡くなってしまった人たちはきっと終末の神様がお救いくださいますよ、イルンスール様はお優しすぎるのです」


お城で待機していたエーヴェリーンの侍女アフティアが何かいっている。

彼女は治療活動について来ることは許されずお城にいた。前からいる侍女だそうでわたしのところで見かけた人じゃない。首から幸運のお守りだという兎の足の骨を下げている。


「終末の神?現世の幸福を望まず来世に望みを託す人が信じるという?」

「ええ、でもそんなに悲観的な教えではありませんよ。生きている間に出来るだけ善行を積んでおきましょうという教えが本来のものです」


ふーん・・・。

まあいいことなのかな。

お爺さんもいってたっけ。

神々が創造した始まりの時代が終わり、時の神が人が君臨する現代に移った事を告げた。いつかまたこの時代に終わりを告げに来ると予言されているって。

まだ現れていないという終末の神様に彼らの冥福を祈るのもいいかもね。

最後の時代の神様の出現を言い残したのは狂気の神様だっていうけど、そんな神様の教えでいいのかしらん。


せっかく遠出してもこれじゃなあ。

何処にも行けそうにない。


エーヴェリーンがこちらに来てくれて一緒に舞のお稽古をしたいというので初めて共に舞う相手が出来た。

ナジェスタとは交流もあったけどお互い自分の流儀があったし当時のわたしにはナジェスタは活発過ぎて一緒に外で遊ぶのは難しかった。

エーヴェリーンも宮廷舞踏の類を習っているらしいので、少しだけ教わったりもしてみた。今はちょっと気が沈んでいてあんまり心が動かないけれど、嬉しい事は嬉しい。


ま、今はエーヴェリーンに誘われても引きこもってサボっているけど。


セルマさんの奏でてくれる音楽を聴きながらぼんやりを続けた。

あーこのまま地位と財力にものいわせてのんびりしようかなあ。

アルヴェラグス様にも静かにのんびり過ごしていいのですよ、と優しい言葉をかけて頂いたし。ほんとは東方由来の品々での技術開発に従事するのを東方行政区の長官達には望まれているみたいだけど、染料の事は偶然の産物で期待外れでしたね、とか言い訳しても別に良い筈。だいたいもう商会の呼びかけであちこちから集まった職人さん達が東の塔からもあぶれて城下町でも開発始まってるし、わたしの手離れ始めてる気がしてきた。


お針子さん達にデザイン画を渡してエイメナースお姉さまやエイファーナお姉さまみたいな服も発注した。

侍女たちはせっせと私の髪を梳いて、簪をさしたり、爪を磨いたりお手入れしてくれる。肩くらいまでだったわたしの髪も背中の中ほどまで伸びて手入れし甲斐があるようだ。みんなよく働いてくれてるけど、わたしはやる気がでない。


あー、だるい。

エーヴェリーンがまだ熱があるんじゃないかと心配してくれたけど、わたしはもともと熱っぽい。こんなものだろう。


ま、塔の中にいても気が晴れないし周囲が煩わしいので、エーヴェリーンにはわたしの事は気にせず自分の勉学に励むよう言って聖なる森の神殿でさらに引き籠る事にした。

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2022/2/1
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