第23話 辺境領主の娘②
「さて、何か得るものはありましたか?」
「い、いえ。恥ずかしながら私には何が何やら・・・」
そうですか、まあそんなものでしょうね、とオルプタ様はおっしゃいました。
「この国では女性の地位はそう高くありません。男性ほど学ぶ機会も多くはありませんが、女性が当主となるのは禁止されておらず女性が当主となった例はたくさんあります」
何がいいたいのか、私のいたらなさを責めているようではありますが。
「私は老師に連れられてこの国にやって来て、一代限りの伯爵の称号を頂いています。祖国では女性達は自らの能力を示して権利を勝ち取り、公教育を男女区別なく与える様になりました」
機会を逃してはなりませんよ、といって立ち去ろうとされたので咄嗟に呼び止めました。
「お待ちください、私にそれをいう為にわざわざ残っていたのですか?なぜ、私に?」
「アルベルド様はいらっしゃいませんでしたからね。まだ成人の儀を迎えていませんからもともとこのような場に相応しくありませんので構いません。ですが、貴女は来ました、少しは気概があるのかと量ってみただけです」
「では、お姉様に対しても?」
「わたくしが、イルンスール様を?そんなおこがましいことありえません」
くすり、と上品に微笑んでいらっしゃいますが長い時間を生きた力ある魔術師らしく恐ろしい迫力があります。
「随分高く買っていらっしゃるのですね?」
「貴女は?違うのですか、どう思ったのです」
私は恐ろしくなって見たまま、お買い物を楽しんでいらっしゃった時に感じた事を正直に伝えました。
「あらあら、まあ子供ではそんなものでしょう」
「それはお姉様に?・・・それとも私に?私を揶揄していらっしゃるのですか?お姉様だって子供ではないですか!?」
初めてお会いした時は私より小さかったのに、成長期のようで一気に背を抜かれて随分大きくなられましたが、年齢的には大差ありません。
大人びたご様子はありますが、もともと小さすぎただけで、まだまだ大人にはほど遠い筈です。
「ふふ、気づかなかったのですか。姫様が注文していらした扇は薬木を使ったもの、細かく指定していた時疑問に思わなかったのですか?」
気づきませんでした・・・。
「期待していた予防策が無くなり、すぐに考えを切り替えられました。近い樹種から別に感染源に対する予防効果があるものを捜し、ご自分が回復されてもまだ未知の感染や周囲に与える影響を気にして防虫効果のある薬木で作られた扇で口もとを隠していらっしゃるのですよ」
あんな短時間でそこまで・・・。
別に注文していた苗木などもそうやって次々多様な種類をそろえて新しい薬効を捜し、今回のように特定の品種が全滅してしまうことを避けようとしているのだといいます。
「・・・でもあんなにたくさんお買い物をされて効果があるかどうか元がとれるかどうかわからないのに、この領地の収入では立ち行かないのでは?あまりに収入に響いては税を上げざるを得ず、結局領民も暮らせなくなってしまうのでは?」
今あるもので治療薬を作るだけでこの領地の年間予算の三割くらいだという金額の話もしていました、どうやって領地を運営するのでしょう。
「その心配は要りませんよ、全て姫様の私財で賄われておりますから」
私は混乱します。
私財?それはお父様が確保している名ばかりのエッセネ公爵家経費では?
「いいえ、姫様がご自分で今まで研究し得てきた報酬によってです」
「・・・申し訳ありません、意味がよくわからないのですが」
仕方ない子供、という目で見られてしまいますが、もう今更です。
全て教えて頂きたいです。
「今回の病の治療薬も姫様が独自に研究し作られたものです。わたくし達がやくたいもないことで議論し時間を無駄にしている間に、自力で発見し、自分に投与し、ご自分で治療効果を確認されました」
そんな・・・馬鹿なといいたくなります。
「今までにもそうして来たのでしょう。ご自分の専属商人に研究成果の販売を任せ多額の収入を得ていらっしゃいます。そして発明者としては老師やわたくし達の名前を使えと指示されております。わたくしなど姫様の指示通りにいくつか試してみただけでたいした貢献などしておりませんのにね」
名を広めたくないらしいのです、自己顕示欲の強い貴族達とはかなり考え方が違います。
いえ、平民達だって理解できない奥ゆかしさでしょう。
「さて、エーヴェリーン。一年後の貴女にエドヴァルド様のあの美しく光り輝くマントは作れますか?」
「え?」
「それほど大差の無い子供同士なのでしょう?イルンスール様のようにお父様を護るために、自らの血に魔力を込め糸を紡ぎ強力な守護の魔術装具としてのマントを作れるのですか?毎日毎日一針一針神々に加護を祈りながらあれだけの刺繍を縫えますか?」
兄や侍女、他人に縛られて動かない貴女に素材の調達、染め上げ、そして魔術装具として仕上げるまでやり遂げられますか?
私にそう問われたオルプタ様はいつの間にかいなくなっていて、侍女達が来るまで私は茫然としていました。




