第20話 啓蟄にうごめくもの③
レベッカ先生に抱っこされてハンネと3人で森の神殿書庫まで来た。
もうハンネでは持ち上げて運べるような大きさじゃないからね。
他の皆には東の塔周辺の井戸水や草木の試料を集めて貰っている。
医師達はお父様にかけあって兵士を動員して吸血虫を処分したり捕獲したりと。
「お前も、大きくなったなぁ」
先生が感慨深くいう。
「まだまだレベッカ先生には及びませんよ、もっと頑張らないと」
「いやいや、待ってください。お嬢様、まだ成長の余地はありますが、先生ほど大きくならなくてもいいんですよ。そこまで大きくならなくてもちゃんと健康な体にはなりますから、ね!」
ハンネはもうちょっとわたしの子供時代をゆっくり一緒に過ごしたいって。
お父様に呼び出されなくなったし、厄介な侍女も居なくなって一緒の時間を取り戻せて最近は幸せそうだ。
ハンネが幸せなら、それもいいかな。
「じゃあ私達が探してくるから、お前はあの石舞台で暖かくしていろ」
「先生、本読むくらい大丈夫ですし、魔術がかかっているものもありますから私が行く必要があります」
「そうか・・・」
ちょっと悔しそうだ。
そのうち全部写本して印刷所に回そう。
古来からある風土病みたいだから、ここの本を捜せば何かしら治療の記録があるかもしれない。記録がなくてもこの周辺の自然由来の成分のどこかに病原体が嫌がるものが見つかる筈だ。
幸いちゃんと分類されたまま誰にも荒らされていなかったので、割とあっさり発見できた。
えーと、何々、微生物と寄生虫とこの地方の風土病について書かれていて伝染性がある、と。血液や鳥の遺骸から感染して他の動物からは平気らしい。
まあ分っていた事だけど、鼠とか犬猫とかからも感染するとか書いてなくて良かった。
昔より進化してたら困るけど、今心配しても仕方ない。
で、治療方法は、と。
ペルキンの樹皮が有効で薬木になるらしい。
ふむふむ。
「おい、イルン・・・これ読めるのか」
不意に後ろから覗き込んでいた先生に聞かれる。
「ええ、ちょっとこの地方の古い言葉が多用されていますが、東方語と分類的には同じですから」
「お嬢様は相変わらず気になると夜中までお勉強されていらっしゃるのです」
ハンネに困ったものです、とため息をつかれるけど睡眠はちゃんと取ってるよ?
アンナマリーさんに心配かけたくないからね。
大体引き籠って暮らすお姫様なんて他にたいしてやることないの!
あのマントの刺繍はいい暇つぶしだった。
民間伝承は古い言葉が多いから、必要に迫られてやむなく覚えていっただけだし。
お城の図書室やここの本を読んでいると現世の時の神ウィッデンプーセや結婚の守り神に誓って結婚したのに、破って離婚したら悲惨な死にざまを迎えたものが多数でたので離婚の神様を創って契約の破棄を願って捧げものしてから離婚する風習が誕生したくだりなんていろんな風刺と教訓、道徳を教える内容で実に面白かった。
「予防、治療方法はだいたいわかりましたが、重症化すると効果が薄くなるようです、どうにかして有効成分を抽出しましょう。研究棟の器材ならできると思います」
あとはおじさま達がなんとかしてくれるだろう。
実際オルプタさまやミリアムさまの得意分野だったので、見事に分離して抽出し合成してお薬を作ってみせた。わたしはというとお手伝いしている最中によそ事が気になって頂いた薬品を試していたら紫の染料が出来上がった。
わーい。これで赤紫のいい色がでそう。
「何というか、姫様はこんなときでも我が道を行きますね・・・・・・」
むむむ、グリセルダが呆れた目でこちらを見ている・・・!
出来上がったお薬?をどう試すかでまたひと悶着あった。
わたしは自分で実験すると主張したけど、猛反対に会い捕らえたコローネで実験してからイーデンディオスおじいさまで人体実験するって。
わたしの反対を押し切ってそうすると強硬に主張してコローネの実験を始めたので、わたしも夜起きだして採血した自分の血に投与してみて効果を確認してから自分に注射した。
翌日猛烈に怒られたが、ふんだ、知らない。




