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森の娘と最後の騎士  作者: OWL
第二章 森の娘
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第18話 啓蟄にうごめくもの

東の塔が丸ごとわたしのものになったことで音楽の先生もこれで好き放題演奏できると喜んでいた。

でも他の使用人もいるんだからね?

早朝と夜間は控えて貰うように伝え、どうせなら、と森の神殿も紹介して一緒にいくようになった。あそこなら安全だし、誰の迷惑を気にすることもない。

奇特な事だが、子供もないまま夫を亡くし、再婚する気はなく父さんの依頼は渡りに船だったらしい。貴族の教師もしたことがあり、昔わたしに社交を学ばせるついで、と雇った筈だけれどもこんなところまでついてくるとは。

音楽は自分で弾くより聞いている方が好きなので本来の教師の役割だったんだけど、今ではわたしの侍女までしてくれるようになって頼めば舞のお稽古の時も好きな音楽を奏でてくれる。


わたしの侍女を辞めた子達はエーヴェリーンの侍女に移ったものもいるので、残念ながら可愛い妹とは時々お茶を楽しむくらいで食事を共にすることはない。

対立の火種になって余計な悶着に巻き込んだら可哀想だし。


お父様はまだこの地方の領主を掌握できていないということで、禁止はされていないけどご迷惑かけても悪いので遠出は控えている。


この前フッガー商会に頼んだ品物は続々届き始めて、船も西方商工会が中古船をいくつか売却してくれるらしい。

造船についてはここのバルアレス王国で派手な活動をしたくないので、白の街道すらまったく通ってない外海側の貧しい国で造船所を作る所から始めた。

内海側は自由都市連盟の大都市が多いし、帝国系の移民が多い国で発展してて参入するのは大変そうだから帝国から遠くて貧しい国への援助も込めて、うちのお金であちこちから船大工を集めて派遣して人を育てる所からだね。

まあ運用は商会に丸投げするんだけど。


わたし自体は今まで通りでてくてく森のお散歩したり、研究棟で暇つぶしの毎日だ。菜園の管理もグリセルダに丸投げしちゃったからなあ・・・。


城の裏手にある研究棟に行くとわたしのマナに反応して自動的に開く扉を通り、作成中の魔力石の練成をしていると錬金術の先生が入って来たのでご挨拶する。


「ごきげんよう、トレイボーンおじさま。今日もイーデンディオスおじいさまはお休みですか?」

「ええ、最近城下町でも病が流行っておりましてな。姫様もお気をつけください」

「どんな病気なのですか?」

「熱が出て節々が痛むようです。寒気がして気持ち悪くなるとか。どこにでもある熱病ですな。ただ、今年は王国のあちこちで死者が発生しているようですので人の多い所には行かない方がよろしいでしょう」


ふむ。

試験管を振る。


「お気遣い有難うございます。でも少し遅かったみたいですね」

「え?」


わたしも最近そんな症状が強くなってきた事を伝えてわかったことを説明する。


「これは先週採血したもの、こちらはその前。マナの揺らぎが違います、何か私以外のものが強く混じって増えてきているようです。イーデンディオスおじいさまの採血したもので、安定薬をいれたものはどこかに残っていますか?」

「あ、ああ。こちらにあります。姫様、どうしてそんなに落ち着いていらっしゃるのですか!?もし、本当に感染していたら危険です。今年はかなり死者が出ているのですよ」


感染済みなら慌てたって仕方なくない?


「どうしたんだい、騒がしいね」

「ごきげんよう、ミリアムおねえさま。オルプタさまも」


上の階から女性研究者の方々も降りてきた。薬品や毒物の扱いに詳しい方々だ。

みんな魔術師で5,60代の人たちで、ここにいないイーデンディオスおじいさまだけ90歳くらいでずば抜けている。

トレイボーンおじさまが皆さんに説明して下さったけど、違いがわからないらしい。


「あの希代のペテン師の不良老人が姫さんはマナの流れを読むのが上手いと文に書いてあったけど、本当かね?あいつのいうことだからいまいち信用できないんだがね」


こちらはミリアムさま。

やっぱりあのお爺さん、弟子たちからも信用されていないらしい。


・・・ううむ、自分のマナスは自分だけのもの。

わたしから分離されてもちゃんと違いは分かるけどな。血なら特に濃く残留しているし。

これは確かに何が混じっている。

イーデンディオスおじいさまのものも。

あ、そうだ。


「この前フッガー商会から納品された顕微鏡を試してみましょう」


古いものから今採血したばかりのものまで見比べてみる。

やっぱり。

でも気持ち悪い。


「いました、何か他と違うものが蠢いています」


試料を変えてイーデンディオスおじいさまのものも見てみる。同じだ。


どれ、どれ、と覗き込んだ皆さんも確かに、と頷き自分の血を試し始めた。

ほらほら、いった通りでしょう。わたしは得意満面だ。


「姫さんはなんでそんなに嬉し気なのかねえ・・・私も当たりだよ、まったく。治療薬はないんだよ、死んじまうんだよ・・・?」


ミリアムさまだけ当たりだったらしい。いつも酔っ払い気味の赤い顔が青くなっている。死んだら死んだで魂魄になればお姉様達の所に飛んでいけそうだしなあ・・・。


「死んでしまうとしたらイーデンディオスおじいさまの方が先でしょうから、あちらを心配した方がいいでしょう。さっそくお見舞いに行きましょう」


残念だけど、お世話になったしご挨拶にいかねば。


「「待ちなさい」」


「気が早いよ、まったく。感染の過程もわからないのにうろちょろするんじゃない」


あ、そうだった。

エイファーナお姉様に教わった事すっかり忘れていた。


「姫様は当面この研究棟でミリアムとお待ちください。我々が医師たちと協議して参りますので。オルプタ殿、いつまでも呆けてないで行きますぞ。消毒を忘れずにお願いします」


オルプタさまはまた市井の製品に負けた、と激しいショックを受けている。


「はあ、困ったもんだね。魔術じゃここまで視力の強化は出来ないし、焦点も合わないからね」

「元の製品を考案したのは魔術師らしいですよ。今では魔術を使わずに製造可能らしいですが、性能を強化するならやはり魔術師の方に精錬してもらってレンズを作った方がいいらしいですよ」

「それもすぐに魔術が無くても済むような方法を見つけるさ」


そうはそうかもね。

鉱物資源を多く持つ西方商工会がこれを研究開発を主導したらしいけど、あちらは色んな種別の技術者の協力があって新製品が多い。

前に自己紹介した時、お爺さんとシャールミン様達に助けられた話の経緯を説明したせいかトレイボーンおじさまも動きが早かった。

お医者様と協力して頑張って治療法を見つけて欲しい。

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2022/2/1
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