第34話 魔術の知覚
そこまでは前の話の再確認で、ここからが本題だった。
母さん、父さん、レベッカ先生、アンナマリーさんは皆で話し合い、結論としてわたしにあの老人から魔術を学んで欲しいという。
正確には魔術の制御方法を、だ。
あの老人は本館で取り調べを受け、身元もはっきりしたらしい。
それでお詫びに魔術の制御方法を教えたいと申し出てきたそうな。
「お爺さんがいうにはあなたの使い方は寿命を削るようなものだったって。そんなことをさせた相手に教えて貰うのは複雑だけど、もう二度とこんなことは起きて欲しくないの。今迄も時々まだつらそうにしてることはあったけど、今度の話は別でしょう?」
レベッカ先生のおかげで体は思うように動かせるようになったけど、時々めまいがすることはまだある。
非力でちょっと重い物を持っただけで脱臼してしまうわたしが衛士さんみたいに強くなるのは無理だろうし、魔術が使える様になったら少しは身を護れるようになるかも、と皆は考え母さんが代表して説得担当になり、皆の想像通りわたしはそれに逆らえなかった。
仕方ないね。
「ではイザネストアスさん、よろしくお願いします」
お目付け役のレベッカ先生とハンネが立ち合いのもと私邸で魔術講座が始まった。
「イザスネストアス、イザスネストアス、じゃ」
惜しい、少し間違った。でも頑張ったと思う。
「はあ、まあ良い。言いにくいならイーザンで良いわ。それとまず改めて詫びさせてくれ。先日は茶化して済まなかったのう・・・・・・」
お爺さんも今では魔術師らしく、ローブを着て髭も綺麗に整えて少しはらしく身なりを取り繕っている。お金ないって言ってたから父さんから借りたんだろうなあ。
「じゃあイーザンさん。もういいよ、わたしも直情的なのは自覚してるから」
気にしないでいいよ、と愛想笑いを浮かべようとするがどうしてもほろ苦い。
「そうか、すまんの。それにしても無理にでも笑って見せると怖い顔も少しは険がとれてかわいらしくみえるの」
ふん、顔が怖いって兄さんからもいわれたことあるし別にいいよ、ふん!
でもレベッカ先生がそれを許さなかった。
「おい、爺さん。二度と軽口を叩くな。魔術師だかなんだか知らんが、お呪いを唱える前に咽喉を握りつぶすぞ」
拳を握りしめて、先生が脅す。
わたしが未だに鏡を見るのを怖がっているのをよく知っているので、気にしてくれてるけど、平気だよ、ハンネや先生がかわいがってくれていて十分幸せだから。
わたしの左目の周りは未だに引き攣っている、顔もあの時の憎しみのまま固まっているんだろう、・・・でも構わない。
それでいい。
「すまんの、なかなか長年のくせがぬけんようじゃ。お主らの怒りの発火点がどこにあるのか早急にわかるようにならんと本気で命が危うくなりそうじゃのう・・・。侮辱のつもりはなかったが、お姫様の名誉を護る騎士のような女丈夫よの」
また軽口と取られんとよいが・・・とお爺さんはおっかなびっくりだ、失敗の数々にすっかり意気消沈している。
とりあえず、慰めておこう。さっさと講義始めて終わらせたい。
「では、気を取り直して始めようか。まず最初の講義じゃが魔術師の咽喉を潰した処で魔術を止めることは出来ぬ。レベッカ殿には悪いがな」
大仰な動作と呪いで魔術を行使する物語とはイメージが違うらしい。
「言葉によってより強化することもできるが、必須ではない。見習いの間はそうした鍛錬法を使うから一般に知れ渡るのはそっちのほうじゃ。魔術師とは外なるマナを扱うものをいう。自分の望む形をより強く描き、それをマナを使って形にする。それができれば扱い方は言葉でも杖でも霊媒を用いても何でもよい」」
マナ?外があるなら内もあるのかな?
「うむ、騎士の中には内なるマナを使うものもいる、彼らはそれを使って肉体を強化し利用する術に長けておる。そういった才能の無いものと区別して魔導騎士などと呼ばれたりするが見た目では区別できん」
「じゃあ、魔術師は騎士みたいな力の使い方はできないのか?」
一緒に聞いていたレベッカ先生が訊ねた。
「実のところ出来る。が、騎士の場合は自らの体に自身の血と触媒で作った魔力石を埋め込んでそこを基点に肉体を強化したり、武器に魔力を這わせて扱う。魔術師の場合、そんなものが体内にあると邪魔になって外なるマナをうまく扱えぬ。外なるマナを収束させる為に騎士と同じように杖などに魔力石をはめ込み発動させる収束具として使うからのう」
まあ似たような才能を持っていても、より適性が高いほうに特化したものには適わんな、と付け加えた。
「マナというのはマナスとは違うの?こう・・・・自分の心の奥にあるんだけど、自分と世界を区切るみたいなもので」
マナという言葉に聞き覚えがあったので聞いてみたけど、話を聞くと近い感じがする。
「感覚の捉え方はひとそれぞれなのでなんともいえんが、鳥や魚はおろか神の名前さえ同じものを指していても呼び方が変わる事があるからのう。外と内で呼びわけておるのかもな。どちらにせよ人の意志で自由自在に変わる無形の力であることに変わりはない。もともとは大昔に魔術師、哲学者や神学者、自然科学者まで議論してつけた学名じゃ、一般的には単に魔力、ともいう」
それにしても多少の手ほどきを受けた事があったのじゃな、といわれるが、他の習い事に比べると、わたしはお姉様達から手ほどきといえるようなものは受けていない。
「マナの形を変える時は人の生来に属性に合わせるのが一番変換効率が良い。これでお嬢ちゃんの属性を確認してみようか」
お爺さんは革袋から小瓶とじゃらじゃらと無色透明の石を取り出した。
まず小瓶の薬を飲み、それから手の平に石をおいて何も考えずにゆっくり周囲のマナをそこに集めてみろという。薬はマナをより鮮明に知覚する為のものだ、とまずお爺さんが飲んでみせた。
せっかくなので試しに飲んでみたけど、さほど変化は感じられなかった。
無心でというのが難しかったけど先日のことで感覚を掴んでいたのでマナ自体は割と簡単に集められた。急いではいけないというのでゆっくりと知覚できた範囲のマナを手の平に押し込んでいく。
すると無色だった石にそれぞれ色が灯って定着する。
お爺さんはその様子を観察して属性の判断がついたらしい。
「お嬢ちゃんの属性は火じゃな、そして風の適性もある。これは効果が高まるが暴走もしやすい厄介な組み合わせじゃな。あとはどうも青というより緑色というべきかの・・・・・・この色の灯り方は」
なんだか難しい顔をしている。どうしたのだろうか。
「以前話した通り、神話では五柱の大神が世界を構成する五大元素を象徴しているが、その一柱が樹木の神から風の神へと置き換わった説がある。各神殿が受け継いでいる樹木の神々を象徴する色は緑、風は青。この魔力判別式は色で属性を、濃さで適性を、周囲のマナを取り込める範囲は術者自身の内なるマナの大きさが現れる。時間をかければより広く、より濃くすることはできるので判断基準のひとつに過ぎんがの」
魔術は何も五大元素がすべてというわけではないらしいので、他にも適正はあるかもしれないけれど、そちらは簡単な判別方法が無いのでおいおいらしい。
「木性?に適性があるなら植物の成長を促したりできるのかな?」
「そういう魔術を開発した人間の話を聞いたことはないのう、可能だったとしてもお嬢ちゃんは止めておいた方がいいの。お嬢ちゃんの生来の属性は間違いなく火じゃ。濃度、塗り替わる速さからも間違いない。あの時お嬢ちゃんが魔術を行使した時、自身のマナまで投入してしまった為、自身が操れる以上のものを発現させておった。内なるマナまでも魔術の行使につぎ込めば術者の命が危険になる。魔術を制御する為には自身の魔力は残しておかねばならぬ。そして火と風の相乗効果で暴走したかに見えたが・・・・・・、もし風だけでなく木性に反応してしまったのなら火に薪をくべるようなものじゃ、下手に魔術を使えば自身を火にくべるように今度こそ死んでしまうかもしれぬ」
結論としては魔力総量が普通のわたしには魔術で大成しようとするのは危険だから諦めて、マナを火の魔術として誤って行使しないように、暴走させないように、それでも発現させてしまった場合の打ち消し方を学ぶ方向で今後は魔術講義をすることになった。




