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森の娘と最後の騎士  作者: OWL
第一章 森の獣
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第33話 約束

老人とのいざこざのあと高熱が出て一週間以上も寝込み続けた。気力体力尽き果てて熱に対する抵抗力が落ちてしまい、久しぶりに長期間寝台から離れられなくなったのだ。

まだ起き上がれない間に8歳の誕生日を迎え、ここに来てからもう3年が経った。

・・・思うんだけど以前5歳だったのには無理あるよね、ここに来た時があまりにも小さすぎたせいだ。

動けるようになってからは体もぐんぐん大きくなってきてたんだけど、去年の秋くらいからまた成長が止まってしまってレベッカ先生や料理長が首をかしげている。


それはともかく、誕生祝いとして『大陸植物大全』という図鑑セットを父さんから貰った。これがわたしでは持てないくらい大きくて重く、ばらばらにならないよう頑丈に綴じられ革で補強された豪華な本だ。しかも10巻構成。

ギィエッヒンゲンから馬車に乗って届いた時は予想以上の品に父さんも吃驚したらしい。わたしには少し高価過ぎないだろうか、いくらするんだろう。


子供には過ぎた品に思えて父さんに無理はしていないか聞いてみた。


「思ったより立派なものが届いたが、これも君自身の正当な報酬だ。去年から西方で売り出した医薬品類が大分売れているらしくてね、知己にあちらでの販売を頼んでみたら随分な評判らしい。その知人にお勧めの本はないかと聞いてみたら是非受け取って欲しいと、これを送ってきたのだよ」


節目の年ほど8歳は盛大に祝ったりはしないけど、わたしが去年から森や草原に採取や遊びにいけず塞ぎ込んでいるので植物関連の本を贈ろうと手配してくれていたのだった。

ありがたや。


「せっかく良い伝手が出来たので次はそろそろ染料の販売も調整しよう。あちらは鉱物由来の染料で市場を独占しているから東方で新規参入すると西方系商人に恨まれてしまうからね。価格破壊で市場に混乱を起こさないよう十分注意して販売を頼むつもりだ」


商人としては引退した筈の父さんも、知人の方と本業そっちのけで随分楽しんでいるらしい、最近忙しい筈なのに年をとってもまだまだ精力的に活動している。

まったく同じものは手に入らないけど、調査や分析手法から教え込んでくれたお姉様達のおかげで似たようなものが作れる。父さんの役に立つならわたしも嬉しい。


母さんも自作の衣装とギィエッヒンゲンで購入してきた小物類をたくさん贈ってくれた。もっとも母さんとハンネからは毎日贈り物を貰っているようなものなんだよね。

母さんが実家からお針子さんや職人さん達を呼び寄せて、ハンネの実家の綿花農場からは素材を貰って体を冷やして寝込みやすいわたしの為に体にフィットして熱を逃がさず、温まりやすい服をいろんな編み方で試してくれている。

ハンネもいい手触りです、と満足げにわたしの脚やお腹にフィットしたタイツや肌着をしきりに撫でている。今回の仕上がりもばっちりのようだ。


今年は理想的な染料が出来そうなので、母娘でいろいろ試作してみたい。

母さんにもとてもお世話になっているのに、何も返せるものがなくて心苦しい。せめて同じ時間を過ごせる何かが欲しいのだ。


それから数日間はハンネやレベッカ先生に本をめくってもらって植物図鑑を読んで大人しく過ごした。挿絵も説明書きも学者さんが書いた精緻なもので、大陸各地の珍しいものが体系的に整理されている。

東方の花々について書かれた第3巻は母さんもこの地方にこんなにたくさんの種類があったなんて、うちの菜園でも育てられないかしら、と珍しくうきうきしていた。

植物の神様が多く信仰されていて伝承が多い東方はやはり重点的に特集されている構成になっている。植物の種類だけ神様の数もいるような土地柄なのだ。


10日ほどで快癒して日常を取り戻したところで、母さんが今回の事で大事な話がある、と持ち出してきた。老人に対して怒りをむき出しに暴走してしまった件だ。

うう、気が重い。


「やっぱり、まだ故郷が恋しい?どうしても帰りたい?」

「・・・そうじゃないの、あんまり物知りだっていうから試しに聞いてみただけで、からかわれたからつい怒っちゃったけど。お姉様達とお別れの挨拶できなかったのが心苦しいだけで故郷はなんとも思っていないの、前に話した時と変わってないよ」


ずっと前にも二人で話し込んだのだけど、政変などで地位の高い人の連座で一族にも累が及んで女性や子供も処刑されてしまうことがある、運よく慈悲が得られれば神職についたり幽閉されて命を助けられることもあるけど、社会に戻ろうとすれば殺される、女性だけがいる神殿といえば昔からよくあることなので故郷の話は慎重に、と母さんに注意されていた。

もしわたしがそういう家の子だったら抜け出した事がわかったら殺されてしまうかもしれないって・・・。


だからわたしも奥宮での出来事を皆には近所の物知りお姉さん達に教わったとしかいっていない。老人にも故郷の詳しいことを話せなかった、世の中似たような場所は他にもたくさんあるよね、で終わってしまって誰と話してもこれじゃわかるわけないのだ。

本気で誰かに聞いて故郷を探そうとすればわたしだけでなくお姉様達は殺されてしまうかもしれない、といわれたらわたしにはもう成す術がない。

でもいつまでも何もせずにはいられない。


「そう、ならいいの。いつか私達の所から旅立ってしまう日が来るとしてもまだ早いわ、もう少しだけ付き合って、ね?」


それがわたしと母さんの約束。

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2022/2/1
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