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3-2

 降り続く雨の音に混じって、スマートフォンのバイブレーションが卓上で震えた。


 真理子は震える指先で、一通のメッセージを開いた。それは、これまで受け取った定型文のような問い合わせとは、明らかに熱量が違っていた。


《はじめまして。真理子様が綴られたお母様との物語を読み、胸が熱くなりました。実は私は、現在大学で文学を専攻しており、将来は作家になりたいという夢を持っています。ですが、最近は自分の才能に自信が持てず、ペンを置こうかと悩んでいました。そんな時、このバーガンディ色の万年筆に出会いました。お母様が毎晩、家族を想って言葉を紡いできたというそのペンなら、迷っている私の背中を優しく押してくれるような気がしたのです。もしお許しいただけるなら、このペンを私の生涯の相棒としてお譲りいただけないでしょうか》


 真理子は、雨の音を忘れてメッセージを何度も読み返した。


 母が愛用していた一本のペンが、遠く離れた場所にいる、見知らぬ若者の「夢」を繋ぎ止めようとしている。これは単なる物の売買ではない。母が大切にしていた「日常を丁寧に生きる」という精神が、デジタルの海を越え、次世代の魂に触れた瞬間だった。


 真理子は、本書の第3章で学んだ「誠実な接客」を思い出した。彼女は即座に返信を綴った。

「あなたの夢を聞かせてくださり、ありがとうございます。母もきっと、自分の愛したペンが、これから新しい物語を紡ぐ方の手に渡ることを、何よりの喜びとするはずです。喜んで、あなたにお譲りいたします。このペンが、あなたの素晴らしい未来の第一歩を記すことを願っています」


 価格交渉は一切なかった。むしろ、相手からは「これほど素晴らしい物語のあるお品を、このお値段でいただけることに感謝します」という丁寧な言葉が返ってきた。


 取引が成立した瞬間、真理子の胸には、かつて味わったことのない清々しい風が吹き抜けた。それは、不用品を処分できた安堵感ではない。自分の言葉と、自分の「目」で選んだ価値が、正当に評価されたという、圧倒的な自己肯定感だった。


 翌日、真理子は梱包の作業に入った。

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