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「梱包は、あなたというショップの品格を最後に決める儀式である」と書かれている。真理子は、新品の緩衝材を用意し、万年筆を傷つけないよう優しく包んだ。さらに、母が大切にしていた端切れの中から、一番美しい小花柄の布を選び、小箱を包むリボン代わりにした。
そして最後の一仕上げに、彼女は小さなメッセージカードを添えた。
『このペンは、嬉しい時には軽やかに、悲しい時には共に寄り添うように文字を書いてくれました。あなたの物語が、世界を照らすものになりますように』
郵便局へ向かう道すがら、真理子は、母の遺品という「重り」を抱えて歩いていた昨日までの自分とは、足取りが全く違うことに気づいた。
窓口で小包を預けた時、彼女は心の中で呟いた。
(お母さん、いってらっしゃい。あなたのペンは、これから新しい冒険を始めるみたいよ)
数日後、真理子のアカウントに「評価」が届いた。
そこには、万年筆を握り、真新しい原稿用紙に向かっていると思われる若者の感謝の言葉が、溢れんばかりに綴られていた。最高ランクの評価と共に届いたそのレビューは、真理子にとって、どんな勲章よりも誇らしいものだった。
夕暮れ時。真理子は実家の居間に座り、再びスマートフォンを開いた。
画面には、先ほど完了した取引の売上金が反映されている。手数料と送料を引いたその金額は、ただの数字以上の重みを持っていた。
「これは、私が自分一人の力で、価値を繋いで生み出した報酬なんだわ」
真理子は、残された段ボール箱の山を見渡した。
昨日まで「ゴミの山」に見えていたそれらは、今や「まだ見ぬ誰かの宝物」が眠る、広大なフロンティアに見えていた。
彼女は、次なるリサーチのために、本書を再び開き、付箋を貼った箇所を読み返した。
『50代からの物販は、知性の冒険である。あなたの人生経験は、市場における最強のフィルター(審美眼)になるのだから。』
真理子は立ち上がり、お気に入りの地ビールを冷蔵庫から取り出した。
一仕事を終えた後のビールは、驚くほど甘美だった。
彼女はもう、定年後の夫との生活や、老後の資金不足に怯えるだけの主婦ではない。
自宅のリビングを「プライベート・オフィス」に変え、自分の感性一つで世界と渡り合う、自由で自立した「大人のビジネスオーナー」への第一歩を踏み出したのだ。
窓の外には、雨上がりの美しい夕焼けが広がっていた。
真理子は、新しい出品のためにスマートフォンのカメラを起動した。
レンズが捉えたのは、かつて母が大切にしていた、けれど今の時代には忘れられかけている、一客の美しいティーカップだった。
その価値を、真理子だけは知っている。
そして今夜、彼女はその価値を、また世界へと発信していくのだ。
彼女の指先が、新しい「商い」の扉を軽やかに叩いた。
(完)




