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9/11

かなしばり

 そろそろ話せるエピソードも少なくなって来たので、ここらで心霊体験らしきものを投入。



 みなさんは金縛りになったことはあるだろうか?

 自分もそれまでは人生の中で一回か二回あったかどうか、というほどに少なかった。

 しかしある時を境に、それは急増した。何故なのか? それはどんな金縛りだったのか?

 それを話していこうと思う。



 ある年、GWに連休が貰えるということで秋葉原などを巡って、ついに念願の大型フィギュアケースを購入した。

 値段などや大きさを考慮し、あみあみの6万円台で買える縦が自分の身長超え、幅も1Mはあろうかという代物だ。

 背面は鏡面ガラスになっており、見栄えが良いので気に入った。

 ただ、その大きさと部屋の広さ的に置ける場所が一か所しか見当たらない。

 故に設置したのは、いつも寝るスペースの真ん前、である。



 古い時代から、姿見には布を被せるという風潮があった。

 それは夜に剥き出しなのはよくないから、という理由もある。

 そして怪談に置いても、鏡に姿が映ったまま寝るのはよくないと言われている。

 この配置、ばっちりと寝姿がフィギュアケースの背面である鏡に映り込む。

 とはいえ、最初は気にしていなかった。

 が、これが良くなかったのかもしれない。



 ケースを設置してから五年ほどだろうか。

 この間に、金縛りに五回近くはあった。

 平均して年1ほどか。偶然かも知れない。

 ……かも知れないが、それまで殆ど金縛りにあったことがなかったことを考えるに、頻度が多い気がする。

 金縛りといっても、科学的な説明があったりするので、一概に心霊現象だ!と言い切ることはできない。

 だが、金縛りになったことは事実だし、ケースの前で寝るようになってから、明らかに金縛りが増えたこともまた事実。

 では実際、どんなことが起きたのか。




 金縛りでよく聞くのは、体が動かない、ということである。

 それはそうなのだが、実際になった経験から言わせてもらうと、ちょっと違うかな、といった感想。

 例えば水が入ったバケツを振り回すと、遠心力で水が押さえつけられて零れないのと同じように、よみうりランドだったか、物凄い勢いで回転するアトラクションに乗ったとき、遠心力によって首が押さえつけられて、全く持ち上がらない……といったことがある。

 動くには動くが、全力で力を入れても1cmも持ち上がるかどうか、といったレベル。

 その時の状況に似ている。

 体全体にとても重いものを乗せて、押さえつけられてるような感覚とでも言おうか。



 そして、耳を抑えたり、耳の中に指を突っ込んだ時のような、血流の音が聞こえる。

 あれをもっと大きくした感じ。

 目を閉じて目の周りに上手い具合に力を込めると、耳を抑えたのと同じ仕組みで流れる音が聞こえるらしい。

 少しコツがいるが感覚的なもので、普通に力を入れるのでは聞こえないが。

 金縛りの時も、血流が聞こえてくるような肉体的条件下に置かれているだろうことは分かる。



 そして何より一番嫌なのが、物凄い恐怖を感じるということ。

 何に? 分からない。

 何が怖いのか分からないが、一番近い表現を上げるなら、根源的恐怖とでもいおうか。

 金縛りになったから怖いとか、幽霊を見たから怖いと思うのとは違う。

 とにかく怖い。わけが分からないほど怖いし、何に恐怖を感じてるのかも分からない。

 ただただ、怖さだけが取り留めもなく湧いてくるという感じ。

 だからその場は怖いのだけど、思い返してみても、何がそんなに怖かったんだ?という具合で、後を引かない怖さである。

 だから、金縛りになっても余り気にすることはなかった。

 ただ、また金縛りにあったなぁ、嫌だ嫌だ、で済んでいた。




 ケースの前で寝るようになってから、明らかに違った時が一度だけあった。

 これも科学的に言えば幻覚を見た、で済まされるのかもしれないが。

 その時も金縛りになったのだが、頭の中に女の姿が強く思い浮かんだ。

 そしてすぐに理解した。


『ああ、この女の仕業だ』と。


 どういう感じだったかは殆ど覚えていないが、女だったのだけは覚えている。

 少なくとも、そいつが原因で今日の金縛りは起きているんだということだけは、あっさりと腑に落ちた。

 怖かった。物凄く。

 普段の金縛りもそうだが、その時は今までの金縛りの中でも一番恐怖が全身に飽和していたと思う。

 余りにも恐ろしい気持ちで満たされていて、もはや何が何だか分からないような面持ちだった。

 金縛りで怖いのか、この女が恐ろしいのか、とにかく、





 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い………





 こんな気持ちで脳内が塗りつぶされたまま、どれくらいの時間が経ったのだろうか。

 果てしないような気もしたし、数分だったとしても恐ろしく長かっただろう。





 いつの間にか金縛りが解けたのか、それとも金縛りの状態から眠りに落ちたのか。

 忘れてしまったが、とにかく朝起きた時には、凄く嫌な体験をしてしまった……とさすがに凹んだ。

 例えこれが科学的なもので、心霊現象ではなかったとしても、自分からしてみれば実際に恐ろしい体験をした以上、これは体験として本物であることは間違いない。

 科学的だろうが心霊だろうが関係ない。起こったことだけは事実である。



 ちなみにではあるが、現在このフィギュアケースはどうしているかというと、引っ越した時に分解されたまま、放置されている。

 これは別に金縛りだとか、この体験があったから、放置しているのではない。

 ただ単純に、また組み立てするの面倒だなとか、置く場所がなぁといった事情からである。

 だがもし組み立てることがあれば、その時は寝姿が映る場所には設置しないようにしようと思っている。



 余談ではあるが、引っ越してから5年ほど経つものの、それから一切の金縛りには合っていない。

 ぴたりと無くなった。

 これもまた、事実である。

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