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真説・うらしまの太郎  作者: 川端 茂
一
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75/86

八

七-八

「今度(こんど)はこの浜で、五十年(ごじゅうねん)もおるんか。それは絶対(ぜったい)にいやじゃ。」

「いいえ、二時(にとき)(約二十五分)です。お話しする時を五倍(ごばい)に伸ばすだけです。」

「わかった。じゃがオラが憎(にく)い漁師のうえに、倒(たお)した龍(りゅう)の仇(かたき)じゃ。海の中で、いつでもオラを殺(ころ)せたはずじゃのに、何で生かして帰(かえ)したのかも話してくれ。」

「承知(しょうち)しました。それも含(ふく)めて、音根(おとね)さんとの航行(こうこう)中(ちゅう)に龍と戦った時から、お話しいたします。」


「海底は太古(たいこ)に隕石(いんせき)が落下(らっか)してできた丸い窪地(くぼち)で、砂も岩も隕石(いんせき)の不思議(ふしぎ)な作用(さよう)で光を発(はっ)し、地上と同じくらい明るいのです。」

「それで光(ひかり)が下から噴(ふ)き出して、明るかったんじゃな。」

 そこは直径(ちょっけい)が二里(にり)(約八km)ある砂の平原で、所々に大小の岩が重(かさ)なり合い、海藻(かいそう)や海木が群生(ぐんせい)する森もあって、魚達の快適(かいてき)な礁(しょう)になっていると言う。

「海藻(かいそう)の森は、海底へ行く途中(とちゅう)に、ショウさんの甲羅に乗って見た。物凄(ものすご)い景色じゃった。」

 大小の魚が無数(むすう)に群(む)れを成(な)し、キラキラと輝(かがや)きながら交差(こうさ)したり離(はな)れたりしていた。まさに色とりどりの魚が演じる、万華(まんげ)鏡(きょう)の世界だった。


 平原の片隅(かたすみ)に、ひときわ大きな岩がそびえ、その下に一頭(いっとう)の龍(りゅう)が横たわっている。その周りには鯛やヒラメ、タコなどが群(む)れて騒(さわ)がしい。

 その龍のアゴの下に、一本の槍(やり)が刺(さ)り、タコが抜(ぬ)き取る作業(さぎょう)中(ちゅう)だ。耳の横には弾丸(だんがん)が貫通(かんつう)した傷(きず)もあり、アンコウが治療(ちりょう)している。

 じっと横たわっている龍は、眼を時々開いて鯛や大(おお)海亀(うみがめ)と会話(かいわ)している。

「この槍(やり)の穂(ほ)が抜けるまで、まだ少しのご辛抱(しんぼう)が必要です、リュウビ様。」

「ああ、面倒(めんどう)をかけます。」

「リュウ様ビって、オラを二回(にかい)も襲(おそ)うた龍(りゅう)の名前か。死(し)んでなかったんじゃな。」

「そうです。傷(きず)ついた龍(りゅう)としてお聞きください。ここからは、海底(かいてい)でのお話になります。」


 リュウビは、この地に落下(らっか)した隕石(いんせき)の影響(えいきょう)で不死(ふし)の身となり、時を経て化身(けしん)や透視(とうし)など多数の術(じゅつ)を身に付けた魚(さかな)達(たち)の主(ぬし)である。

 五(ご)百年(ひゃくねん)ほど前、猿(さる)に似た二足(にそく)歩行(ほこう)の奇怪(きっかい)な動物が、海峡(かいきょう)の地上(ちじょう)で暮らし始め、どんどん増殖(ぞうしょく)した。

 その動物は地上の動物・植物から、川の魚まで食(しょく)する著(いちじる)しい雑食(ざっしょく)で、広く恐(おそ)れられる存在になっている。

 それが人間(にんげん)で、最近は舟(ふね)という乗り物で海まで操(く)り出(だ)し、海(うみ)の魚まで狙(ねら)うようになってきた。


 人間による魚族(ぎょぞく)の乱獲(らんかく)を阻止(そし)するため、リュウビは龍(りゅう)や大イカに化身(けしん)して、過去に何度(なんど)も漁師を驚(おどろ)かせたり、こらしめたりしてきた。以前は姿(すがた)を見るだけで恐(おそ)れ、多くが漁を断念(だんねん)したが、最近は様々な道具(どうぐ)や武器(びき)を手にし、抵抗(ていこう)まで始めている。

 太郎を襲(おそ)った二度目(にどめ)は、槍(やり)と鉄砲(てっぽう)で深い傷を負(お)わされた。さらに追い打ちを掛けて、海底に爆雷(ばくらい)を投げ込(こ)まれ、ますます手に負(お)えなくなってきた。いずれは海の中まで潜(もぐ)り、攻撃(こうげき)を仕掛(しか)けるだろう。

「もう私の化身(けしん)では、人間の漁を抑(おさ)えることが困難(こんなん)になっています。でも、このまま野放(のば)しにしていると、鯛族(たいぞく)どころか全ての魚族(ぎょぞく)の未来(みらい)はないでしょう。」


 リュウビの側近(そっきん)でショウという大(おお)海亀(うみがめ)は、地上を観察(かんさつ)する役目(やくめ)を受け持ち、その中で、裏島(うらしま)に住む太郎という若い漁師(りょうし)がいて、しつように暁鯛(あかつきだい)を獲(と)り続けているため、鯛の未来(みらい)を不安に思っていた。

 この海域(かいいき)を回遊(かいゆう)している暁(あかつき)鯛(だい)は、紅(べに)がかった黄金の輝(かがや)きを放ち、人間はこの鯛(たい)を吉兆(きっちょう)魚(ぎょ)として珍重(ちんちょう)している。

「太郎は出漁だけであき足らず、鯛釣(たいつ)り塾(じゅく)というものを開(ひら)いて鯛(たい)漁師(りょうし)を育て、もっと漁獲(ぎょかく)量(りょう)を増やそうと考えています。これは何としても阻止(そし)しなければなりません。」

「そうですね。優秀な鯛漁師が多く育ったら、鯛にとっては大問題です。」


 空(そら)からの偵察隊(ていさつたい)、カモメのジョイから受けた最新(さいしん)情報(じょうほう)では、塾(じゅく)の準備(じゅんび)は着々と進んでいるという。

「一回目で太郎を見逃(みのが)したのが、私の失策(しっさく)だったのです。」

 リュウビのため息に、側近(そっきん)であるヒラメの長老(ちょうろう)シオンが、やんわりと否定した。

「いいえ、あの時のリュウビ様は正しかったのです。龍(りゅう)に直面(ちょくめん)した幼い少年は、漁師になる道を閉(と)ざすだけでなく、他(ほか)の漁師(りょうし)にも海の恐怖(きょうふ)を伝えます。リュウビ様でなくても見逃(みのが)すでしょう。」

 太郎が至近(しきん)距離(きょり)で見た龍(りゅう)の恐怖(きょうふ)を、他(ほか)の漁師に話せば多くの漁師が漁を断念(だんねん)すると考え、気(き)を失った太郎と舟(ふね)を浜まで戻した。しかし子供(こども)だった太郎の話は、誰(だれ)も信じなかった。


 そこで十日後(とおかご)、湾(わん)の中央に姿を見せたので、裏島(うらしま)の人々は龍の存在を認(みと)めた。だが漁を断念(だんねん)しても一時的(いちじてき)で、復活(ふっかつ)する者が多かったため、二回目は太郎(たろう)自身(じしん)を襲った。

 二度目は音根(おとね)という女が同乗(どうじょう)していたので、音根(おとね)を使って龍(りゅう)の恐怖を流布(るふ)させる計画だったが、意外にも臆病(おくびょう)と思っていた太郎に抵抗(ていこう)され、深い傷(きず)を負ったのだ。

 太郎が差江(さえ)から鯛(たい)百尾(ひゃくび)の注文を受(う)けた時も、海を大荒(おおあ)れにして出漁(しゅつりょう)を妨害(ぼうがい)したが、まんまと出し抜(ぬ)かれた。人間は道具(どうぐ)だけでなく知恵(ちえ)もあり、巧(たく)みに予想(よそう)を裏切(うらぎ)るようになっている。

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