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真説・うらしまの太郎  作者: 川端 茂
一
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九

七-九

「もう龍(りゅう)や大イカに化身(けしん)して驚(おどろ)かせたり、こらしめたりする時代ではなくなりました。」

「人間には新手(あらて)を打たねばなりません。これから魚族(ぎょぞく)の議会(ぎかい)を開き、議題(ぎだい)に乗せましょう。」

 ショウは魚族(ぎょぞく)を招(しょう)集(しゅう)し、シオンや霊感師(れいかんし)のミンクを交えた議会(ぎかい)が開かれた。議題(ぎだい)は他(ほか)にもあったが、人間による魚の乱獲(らんかく)をどう防ぐかの議題(ぎだい)に移行(いこう)した。

「早いうちに人間の漁を止(と)めねばならない。舟(ふね)や道具(どうぐ)が改良(かいりょう)され、漁師の数(かず)も増(ふ)えているので、犠牲(ぎせい)になる魚が増(ま)す一方(いっぽう)だ。これを阻止(そし)する策(さく)を考えよう。」


「龍(りゅう)の姿が大きかったので、それに対抗する武器(ぶき)を作らせたことが逆(ぎゃく)効果(こうか)になったのだ。サメならどうだ。」

 多くの魚(さかな)達は賛成(さんせい)したが、人間がサメを敵(てき)と見なして、虐(ぎゃく)殺(さつ)や捕獲(ほかく)に躍起(やっき)になるだろうと、ショウはこの意見を退(しりぞ)けた。

「リュウビ様は全てのサメを悪者(わるもの)にしないでしょうし、戦いでは解決(かいけつ)できないと言われています。」

 議長のショウは威力(いりょく)や脅(おど)しではなく、戦わない手立(てだ)てを探(さぐ)るべきだと、きっぱり言った。

「人間と仲良(なかよ)くせよとでも言うのか、そりゃ無理(むり)だ。あの理不尽(りふじん)で凶(きょう)暴(ぼう)な動物は、倒(たお)すしかない。」

 ヒラメの長老(ちょうろう)、シオンがあきれ顔でつぶやいた。


 平原の片隅(かたすみ)にそびえる大きな岩を囲み、魚達の議論(ぎろん)は続いたが、決定(けってい)的な案が出ない。そろそろ閉会(へいかい)せねばと、ショウが考えた時、タコのトポスがひとつの提案(ていあん)を出した。

「この懸案(けんあん)は漁の阻止(そし)だが、まず優先は鯛(たい)漁(りょう)阻止(そし)じゃないか。問題の鯛(たい)漁師(りょうし)を特定(とくてい)して考えたら、何か方法が見つかるかもしれないぞ。」

「そうだ、鯛(たい)漁師(りょうし)に絞(しぼ)って考えよう。」

 魚の中から、次々に絶賛(ぜっさん)の声が挙(あ)がる。

「だとすると、標的(ひょうてき)になる漁師は。」

 ようやく意見がひとつになった。この海峡(かいきょう)で暁(あかつき)鯛(だい)を執拗(しつよう)に釣り上げ、漁師(りょうし)仲間(なかま)をさらに増やそうとしている人間がいる。

「ショウさん、標的(ひょうてき)は太郎(たろう)でしょう。リュウビ様も太郎を警戒(けいかい)していますし、この前は酷(ひど)い目に合わされていますから。」

「もちろん、そうです。」


 カニのシンカは、人間に命(いのち)を助けられたことがある。不注意(ふちゅうい)で浜に干してあった漁網(ぎょあみ)に足が絡(から)まり、夏の熱(あつ)い浜で死ぬ寸前(すんぜん)だったが、網から外して海へ戻してくれた。それが標的(ひょうてき)になる太郎なのだ。

「もう大丈夫。気をつけろよ。」

 太郎の優しい一言(ひとこと)が忘れられないシンカは、大きな魚が小さな魚を食するように、人間の漁も悪意(あくい)ではないと思っている。

「太郎が漁をやめるか、鯛(たい)釣(つ)り塾(じゅく)を断念(だんねん)するか、あの浜から消(き)えるかの、どれかの策を考えればいいと思います。太郎の優しさを利用(りよう)してみては。」

「優しさを利用(りよう)するというのですか、さてどうやって……。」

 リュウビの言う戦わない対策(たいさく)が出たことで、議長のショウは大きな前進(ぜんしん)だと満足(まんぞく)し、これからは太郎をよく調査(ちょうさ)・研究(けんきゅう)して、トポスとシンカの言う提案の具体(ぐたい)策を出すよう指示(しじ)して閉会した。

「いい提案ですね。皆さんで意見(いけん)を出し合い、まずは鯛(たい)族の未来(みらい)から救(すく)ってください。」


 寝処(ねぐら)でショウが目覚(めざ)めると、息子のチャコがいない。海草(かいそう)が群生(ぐんせい)する岩場(いわば)へ入ったのかと大急(おおいそ)ぎで向かうと、そこからチャコらしい声が聞(き)こえた。

 チャコが岩に挟(はさ)まれて身動(みうご)きできなくなっているところを、通りかかったトポスが岩を除(のぞ)いてくれたらしい。成亀(なりかめ)にとっては何(なん)でもない岩だが、挟(はさ)まれた子亀(こがめ)の力では脱出(だっしゅつ)できない状態(じょうたい)だったと言う。

「動(うご)けなくて、恐(こわ)かった。」

 ショウが礼を言おうと振(ふ)り向(む)くと、すでにトポスは泳(およ)ぎ去った後(あと)で、災難(さいなん)を救(すく)ってくれたトポスに礼を言いそびれたことが心に残(のこ)った。

 次に会った時は寝処()に招いて貝を振舞(ふるま)おう。そうでもしないと感謝(かんしゃ)の気持ちが収(おさ)まらない。ショウはトポスが好む貝を集(あつ)め始(はじ)めた。

 しばらくしてトポスに会った時、チャコを助(たす)けてくれた礼(れい)に、貝を馳走(ちそう)すると伝えると「礼には及(およ)ばない。」と招待を辞退(じたい)した。

「あなたは、そう言うと思っていました。でも貝を懸命(けんめい)に集めたのは、息子のチャコです。息子の気持(きも)ちを受(う)けてくれませんか。」

 いつになく真剣(しんけん)なショウの頼(たの)みに、トポスも断(ことわ)れない。

「じゃあ、チャコの気持(きも)ちを受(う)けて、馳走(ちそう)になるとするか。」

 かなり強引(ごういん)ではあるが、ショウはトポスを寝処(ねぐら)に招いて貝を振舞(ふるま)った。


 今回の会議は、リュウビも龍(りゅう)の姿であるが参加(さんか)した。議長のショウは、真(ま)っ先(さき)に鯛漁を防ぐ手段(しゅだん)として、考えてきた案(あん)を出した。

「太郎の鯛漁を阻止(そし)する方法ですが、太郎があの地から消(き)えるのが最良(さいりょう)です。そうすれば同時(どうじ)に鯛釣(たいつ)り塾(じゅく)も消滅(しょうめつ)します。」

 そんなことは先刻(せんこく)承知(しょうち)。どうすればいいのかで悩(なや)んでいるのだと、シオンが不快感(ふかいかん)を露(あら)わにした。

「結論(けつろん)として海の中に誘(さそ)い込(こ)むのが良いと思います。私はその方法を考え、実際(じっさい)に試(ため)しています。」

 魚族(ぎょぞく)は、色めきたって身を乗(の)り出(だ)し、ショウは考えてきた海への誘(さそ)い込(こ)み案(あん)の詳細(しょうさい)と、必要な準備(じゅんび)を説明した。

「ショウさんの提案は誰(だれ)も傷付(きずつ)かずに、鯛漁の阻止(そし)が実現(じつげん)します。もう時がありませんので、皆さんの協力(きょうりょく)を頼(たの)み、成功(せいこう)させましょう。」

 リュウビは賛成(さんせい)し、さまざまな手配(てはい)を了解(りょうかい)した。

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