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真説・うらしまの太郎  作者: 川端 茂
51/86

五-五

「サメが来んように農園(のうえん)全体(ぜんたい)を屋根で(おお)ったらええ。お天道(てんとう)(さま)は下から()らしとるし。あんだけ立派(りっぱ)屋敷(やしき)が建てられるなら、農園に屋根(やね)くらい()るのは、()もないじゃろう。」

 一太夫はポンと手を打ち、その案を賞賛(しょうさん)した。

「それはいい考えです。早いうちに乙姫様の(しょう)(だく)(いただ)いて、工事(こうじ)を始めましょう。これでこの国は安泰(あんたい)ですな。」

 思い付きなのに、一太夫は大げさに感心(かんしん)している。あと二日で地上へ帰るので、適当(てきとう)()めているのだろう。


 加奈が地下道(ちかどう)の入口から顔を出し、外の様子(ようす)確認(かくにん)している。サメの攻撃は執拗(しつよう)に続き、上空で()れる(くろ)(かげ)は、さらに()えている。ゼクスのいない無防備(むぼうび)なこの地を、一気に()めようとしている。

「何とか出来んか。そのうち拝塔(はいとう)屋敷(やしき)まで(こわ)されそうじゃ。」

 漁でサメの襲撃(しゅうげき)を受けたことはないが、父に対策(たいさく)を教わっていたので、多少の知識(ちしき)はある。サメは視力(しりょく)が弱く、(およ)ぎを止めると呼吸(こきゅう)ができなくなると聞いた。

「一太夫さん、あのサメの視力(しりょく)は弱いか。」


「暗い深海(しんかい)()らしていますから、ほとんど見えないでしょう。」

 (ふる)くから、相手の弱点(じゃくてん)()くという兵法(ひょうほう)がある。サメの弱い視力(しりょく)利用(りよう)する方法がひらめいた。

(やり)をいっぱい(あつ)めてくれんか、それを道の(りょう)(がわ)()しておく。視力(しりょく)の弱い(やつ)らに(やり)は見えんじゃろうから、()りてきたらグサリ。どうじゃ。」

「いい方法です。でもこの国には(いく)さがないので、(やり)は多くありません。でもハクビの支柱(しちゅう)なら沢山(たくさん)あります。長さは(なな)(しゃく)ほどで、細いですが()がりにくく、先はとがっています。(やり)よりも、都合(つごう)がいいのでは。」


 いつ来たのか、地下道に三十(さんじゅう)(にん)ほどの農夫(のうふ)が集まっていて、一太夫の号令(ごうれい)(すう)十本の長い(やり)と、ハクビの支柱(しちゅう)(すう)(ひゃっ)(ぽん)(あつ)まった。

 すでに準備(じゅんび)していたかのような手際のよさに(おどろ)いたが、これでサメの攻撃(こうげき)を防げる。

 皆が(やり)と支柱を(かか)え、農園(のうえん)に飛び()した。(おそ)ってくるサメをかわしながら、道の両側(りょうがわ)二間(にけん)ずつ(はな)して()していく。


 加奈も農夫(のうふ)(くわ)わって、懸命(けんめい)作業(さぎょう)が行われた。

 やがて農園(のうえん)中央(ちゅうおう)(つらぬ)く道に、(するど)()(さき)を上に向けた、高さ三尺(さんじゃく)の細い支柱が二列(にれつ)(なら)んだ。

「大丈夫かのう。」

 その時、頭上(ずじょう)にシューという音が聞こえ、数頭(すうとう)のサメが前後(ぜんご)左右(さゆう)から降下(こうか)してきた。皆が一斉(いっせい)に、二本並んだ支柱(しちゅう)(あいだ)()を伏せる。

 バシュ、バシュ……(するど)い音がして支柱がきしむ。支柱の先に目をやると、サメの()らしい(にご)りが、太い(すじ)になって(ただよ)っている。

「やった、成功(せいこう)じゃ。」


 上空では(はら)()かれたサメが、仲間に攻撃(こうげき)を受けているようで、(はげ)しい()み合いが見える。

「サメは目が()えないので、血の(にお)いを()げば仲間(なかま)でも、(なん)でも(おそ)います。これは(やく)に立ちますな。」

 一太夫は、全部の道の両側(りょうがわ)にハクビの支柱を立てるよう、農夫に指示(しじ)した。

「さあ、タッピを()りに行きましょう。」

 (なん)回避(かいひ)できたので、もう安心(あんしん)と一太夫がクワを(かつ)いで、タッピ(ばたけ)へ歩こうとしたが、加奈が止めた。

「サメが退散(たいさん)するまで、様子(ようす)を見ましょう。」

「そうですな。ひとまず地下道(ちかどう)に入りましょうか。」

 三人が支柱の(あいだ)を、大手(おおて)()って地下道へ(もど)る。


 するとピク畑の方から、ひときわ大きなサメが地面(じめん)()うように、ゆっくり近付(ちかづ)いてくるのが見えた。

 上方(じょうほう)から攻撃(こうげき)していたサメの、二倍(にばい)はあろう図体(ずうたい)で、身震(みぶる)いするほどの殺気(さっき)(つた)わる。

「うわわ、あれがサメの親分(おやぶん)か。」

 地面(じめん)()うように近付(ちかづ)くので、立てた(やり)支柱(しちゅう)(やく)に立たない。

 しかも、手にしているのは二本(くわ)のクワだけで、地下道まで一丁(いっちょう)(はん)はある。走っても()()れない距離(きょり)だ。


「どうしよう……。」

 ()()めた緊張(きんちょう)(あた)一帯(いったい)(ただよ)う。

 加奈が道に立てた(やり)一本(いっぽん)抜き、自分と一太夫はクワを()って(むな)しく身構(みがま)える。

 ここでジャクが(おそ)って来れば、一撃(いちげき)決着(けっちゃく)が付くことは(あき)らかだ。射程(しゃてい)圏内(けんない)に入れば、一気に(おそ)算段(さんだん)か。

 ジャクは五丈(ごじょう)(約十五m)ほど先まで接近して来た。(くろ)身体(からだ)のあちこちに無数(むすう)傷跡(きずあと)が見え、幾多(いくた)(たたか)いを()()いてきた様子(ようす)垣間(かいま)見える。


 まともに(たたか)って、到底(とうてい)かなう相手ではない。

「ジャクは、もう上からの攻撃(こうげき)ができないと判断(はんだん)したのでしょう。(かしこ)いとは聞いておったのですが、知恵(ちえ)もありますな。」

 一太夫の声が(ふる)え、加奈の顔も蒼白(そうはく)だ。いよいよ射程(しゃてい)に入ったのか、ジャクが頭部(とうぶ)(ひく)くして攻撃の姿勢(しせい)をとった。

 絶体(ぜったい)絶命(ぜつめい)とはこのことだ。言いしれない恐怖(きょうふ)緊張(きんちょう)が走り、(ひたい)首筋(くびすじ)から冷たい(あせ)()き出す。


---ああ、ここで()わりか。

 (あきら)めに()心境(しんきょう)になったとき、サメは(およ)ぎを止めると、呼吸(こきゅう)(くる)しくなることを思い出した。

 また深海(しんかい)ザメは、尾びれが海底(かいてい)()れないよう水平(すいへい)に付いていると、一太夫から()いている。

 ジャクの()を見ると水平(すいへい)だ、これでの対策(たいさく)がひらめいた。

「うまく行くかもしれん。」

 うつろな目で、立ったまま(かた)まっている一太夫と加奈の(かた)()り、気付(きづ)かせようとするが反応(はんのう)しない。

(はよ)()きてくれー。(たす)かるかもしれんのじゃ。」

 すると、二人は同時(どうじ)にハッと気付(きづ)いて(なに)やらつぶやいた。

「リュウビ様。」

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