表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真説・うらしまの太郎  作者: 川端 茂
30/86

三-九

「私の甲羅(こうら)のフチに小さな丸い(つぶ)があります。これは海の中でも()きていける体質(たいいつ)にする丸薬(がんやく)で、人間の姿のままで安全(あんぜん)に海へ(はい)れます。お(うたが)いなら全員(ぜんいん)の方が、お(ため)しいただいてもいいのです。」

 こういうことは弥助(やすけ)興味(きょうみ)を持ち、身を()り出す。

 それは(どく)ではないかと()くと、命の恩人(おんじん)薬殺(やくさつ)する理由(りゆう)はございませんと、きっぱり言い(はな)った。

(しん)じられんが、ワシが()んでも海に入れるんか。」

「もちろんです、一粒(ひとつぶ)十分(じゅうぶん)です。」

「よし、ワシが(ため)そう。」

「どうぞ。チャコが案内(あんない)いたします。」

 弥助(やすけ)が案内された甲羅(こうら)のフチへ行く。(たし)かに(むく)の実ほどの丸薬(がんやく)らしきものが、一列(いちれつ)(なら)んでいる。それを一粒(ひとつぶ)つまんで(くち)に入れ、()み込むとピョンピョン()び上がり、腹を(たた)いて(どく)でないことを確認(かくにん)した。


「さあ()んだぞ。これからどうする。」

「チャコに(つか)まって海にお(はい)りください。(あぶ)ないと思ったら、引き(かえ)せばいいのです。」

 弥助は(むね)(ふか)さまで歩いて海に(はい)ると、チャコの甲羅(こうら)(つか)まって海に(もぐ)ったようだ。()(くら)な浜で六人(ろくにん)固唾(かたず)()んで見入(みい)る。

 どのくらい経過(けいか)しただろうか。万作(まんさく)が心配そうに、提灯(ちょうちん)を高くかざして海を(うかが)うが、(もど)って来る気配(けはい)がない。

「どうしたじゃ。(もど)らんぞ。」

 浜は異様(いよう)な空気に(つつ)まれた。(おぼ)れたのか、(ころ)されたのか……。誰の指図(さしず)でもないのに、全員(ぜんいん)がショウを囲んだ。(いし)(ぼう)を手にし、戦闘(せんとう)態勢(たいせい)になっている。

 仲良(なかよ)くしたいのは山々だが、もし弥助(やすけ)(もど)らなかったら、絶対(ぜったい)にショウを(ゆる)さない。


「ご心配なく。あのお(かた)(たの)しんでおられるのでしょう、もう(もど)られますよ。」

 半刻(はんこく)(約一時間)ほどすると、ザブザブと海水を()き分ける(おと)がして、弥助(やすけ)(もど)った。

「いやぁ(おどろ)いた。海の中は()(くら)じゃったが、息ができたぞい。それに(つめ)たい(かん)じもなかったし、ほれ、着物(きもの)(かみ)()れとらん。こりゃあ、摩訶(まか)不思議(ふしぎ)じゃぁー。」

 興奮(こうふん)して、身振(みぶり)り手ぶりで話す弥助(やすけ)。ショウの言うことが(うそ)ではなかったと、誰にともなく(ため)すよう(すす)める。すると勘次(かんじ)(つづ)いて海に(はい)り、また半刻(はんこく)ほどで(もど)ってきた。

「すんごいぞ、海の中でも(いき)ができるんじゃ。もういっぺん()ってくる。」

 ショウが「一粒(ひとつぶ)で一回しか海に(はい)れない。」と勘次を(せい)したので、それじゃもう一粒(ひとつぶ)くれとせがむが、一人(ひとり)に二回は()かないと言って、()()けない。


「さあ太郎様。(まい)りましょう。」

 すると音根(おとね)が、悲鳴(ひめい)()た声で(さけ)んだ。

()っちゃいけん。太郎さん、()っちゃいけん。」

音根(おとね)さん、ご心配(しんぱい)でしょうが豊作(ほうさく)(さい)五日(いつか)(かん)だけです。お気に()さなければ、すぐにでも(かえ)っていただきますし、お土産(みやげ)をいっぱい持って(かえ)りますから。」

 おりんが(つと)めて優しい声を(よそお)い、ショウの前に()た。

(かめ)さんよ。まだ太郎もワシ()も、(だれ)も行くとは()うとらんぞ。もし行くにしても、準備(じゅんび)必要(ひつよう)じゃ。明日(あした)にしてくれ。」

 弥助や勘次の感動(かんどう)した姿(すがた)を見て、ショウは(うそ)を言っていないが、でもそれは近場(ちかば)(もぐ)った半刻(はんこく)(約一時間)だけで、深い海の底で五日(いつか)(かん)()らせるのか。

 やっぱり(こわ)い、海に入るなんてオラには無理(むり)だ。その反面(はんめん)海の中を見たい気持(きも)ちも、頭をもたげる。


 ()っちゃんの言う(とお)り、皆の意見(いけん)を聞けば、海に入らない正当(せいとう)理由(りゆう)が出るかもしれない。

「人間がおらず豊作(ほうさく)(さい)もなかったら、すぐ(もど)れるんじゃな。そうなら招待(しょうたい)を受けてもええが、今はだめじゃ。明日の(あさ)にしてくれんか。」

 ショウは夜明(よあ)け前に(むか)えに来ると言って、海に()えた。

 弥助と勘次は海に入った興奮(こうふん)が、まだ()めない様子(ようす)だ。万作が二人に、海の中で半刻(はんこく)(なに)をしていたと()うと、弥助はチャコと一丁(いっちょう)ばかりグルッと(まわ)って出てきたと言う。

 勘次も頭が()かる場所(ばしょ)まで(ある)いて行ったが、()(くら)で何も見えないので(もぐ)って、不思議(ふしぎ)感覚(かんかく)だけを楽しみ、()(かえ)したと言った。

 万作は(なに)(へん)だと、アゴに()を当てて(かんが)()む。七人は夜明(よあ)け前に集まろうと言い()わし、それぞれの家に()った。


 いつしか夜も()け、夜空には無数(むすう)の星が、明日の好天(こうてん)を教えるかのように(またた)いている。

 家に(もど)って勘次(かんじ)音根(おとね)も加わり、(おそ)い夕食を()りながらの(はな)()いが(はじ)まった。

「やっぱ、海の中なんぞへ(はい)るのはやめとけ。どうも()せんのじゃ。」

 おりんが思案(しあん)(ぶか)げな(ひょう)(じょう)で、(おも)そうに(くち)(ひら)く。

「あたい、太郎さんが(もど)って来んような()がして……。」

 音根は()()かるものがあるようで、行くのには反対(はんたい)だ。(あずさ)遠慮(えんりょ)がちに進言(しんげん)する。

「あの海亀(うみがめ)、何か(たくら)んどるように思うたっちゃ。豊作(ほうさく)(さい)とか、海の中は(あか)るうて人間(にんげん)がおるとか、()(どころ)裏付(うらづ)けを見せんと、海に入りたくなる(はなし)ばっかり出しとった。」


 勘次(かんじ)は思いもかけない経験(けいけん)をしたので、判断(はんだん)に迷っているようで(なにも)も言わない。

 おりんが(くび)(かたむ)けながら、オラに()うてきた。

(ふか)い海の中に()()さんで、()(くら)じゃ。(かめ)の目には、明るう見えるかもしれんが人間の目には、(なん)にも()えんぞ。太郎はそう(おも)わんか。」

 すると勘次(かんじ)も、断念(だんねん)(すす)める(くち)ぶりになった。

弥助(やすけ)はんが言うとったな。海は三丁(さんちょう)ほど(もぐ)ると()(くら)じゃて、(いき)ができたって、(なに)も見えんじゃ()ってもなあ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ