#23
ようやく…羅刹との長い戦いにも終止符が打たれたかに思われたのだった。
………しかし、鮮血に染まる月がひっそりと静かに灯る闇夜に不気味な笑い声が響き渡る。
「フフフフフフフフッ!」
いつの間にか…楓の背後から、スーッと現われた声の主。
彼の視線は美しい楓の長い髪へと向けられていたのである。
先程まで…楓が戦闘の最中に束ねてアップにしてあった髪の毛もいつの間にか可愛らしいヘアバンドごと吹き飛ばされて…ハラリと解けてしまっていたのであった。
彼は楓の恋人のような振る舞いで…背中に届くくらいに丈の長い髪の毛を優しく指先にクルクルと絡めて…キザったらしく、こう言ったのだった。
「フフッ………
美しいお嬢さん…
髪の毛の手入れはキチンとした方が良いぞ………
ほら…こんなにキューティクルが傷んでいるでは無いか」
……………………バッ!!…
「い、いやァ、誰…ッ!!」
まるで幽霊のように気配すら感じさせない…キザったらしい声の主に、楓は大嫌いな黒光りする害虫でも見たように驚いて悲鳴を上げると…すぐさま仰け反って振り返ったのだった。
「………ッンフフフフ
これは…これは…実に申し訳無い
私としては驚かせるつもりは無かったのですがね…
お詫びと言ってはなんですが些細なモノです
気に入って貰えたら嬉しいのだが…あなたのように可憐な花をどうぞ!!」
声の主は乙女の繊細な指を傷つけないようにとフェミニストらしい配慮して、全ての刺を削ぎ落としてある薔薇を取り出した。
その薔薇は美しく可憐であった。
澄み切った青空よりも…サファイヤよりも…美しく鮮烈な青い薔薇を楓に差し出した。
「…………………エッ!?」
受け取る…受け取らないの意志に関わらず、楓の手の中に…そっと渡された、一輪の薔薇を見つけた時には、声の主の姿は露と消えていたのである。
再び…現われた影は光透波の真正面にいたのであった。
有無を言わさせずに口説く謎の変態なイケメン。
「あなたも…まだ蕾とは言えども美しい花の一人ですから受け取ってくれますね」
声の主は答えを聞かぬまま…光透波にも同じく、青い薔薇を渡すのであった。
「…エッ、え…えッ!!」
なんだか…よく理解できないままに光透波は素っ頓狂な声を上げて驚いているのである。
思えば…彼女は登場以来、常に何かしらに驚いているのである。
そのクルクルと表情豊かに百面相みたいな彼女の顔を見ているだけで…とても愛らしく感じられるのが光透波の魅力のひとつでもあるのであった。
「テェェェェェェッ…!!」
影人は姿を現した怪しげな変態キザ男に…先制攻撃とばかりに烈火の如く燃え盛る炎の剣で、一撃必殺の気合いを込めて素早く斬りかかるのである。
…ッ………バ、バチチッ!!
殺気に気付いた声の主から放たれた激しい閃光と衝撃波で影人は…いとも簡単に吹き飛ばされてしまったのであった。
「フフフ、すまないねぇ、生憎…私は男と言う生物には手加減が出来ない体質でね…
ハハハ…ケガは無いかね、黒鋼影人くん!
今日は…君達と争うつもりは微塵も無いのでね…」
そう言うと…吹き飛ばされて地面に叩きつけられた影人の手を取り、乱暴で無造作にグイッと勢い良く、強引に引っ張って起き上がらせたのであった。
………すると、倒れている羅刹の傍に…いつの間にか移動していたのだった。
「フフフフ…今日、出会った花達は、皆それぞれに美しかった………
とても…美しかった………
………チッ…なのに…それなのにィ~!!
それに比べて…キサマはどうだッ!!
不様だ…醜い、醜いよ!…キサマはァァッッ!!
美しさのカケラすらも無いッ!!」
イタリア製のカジュアルなブランド物の革靴を履いた脚で…サッカーボールみたいに思いっ切り、羅刹の横っ腹を鈍く響く音と共に蹴り上げたのである。
蹴り上げられた瀕死の羅刹は…痛みでパッと意識を取り戻すと、新たに喰らったダメージで苦痛に耐え兼ね…ろくに動けぬ身体でゴロゴロと転がり、のたうち回るのであった。
その衝撃で…彼が装備していた三国志の武将のような東洋的な独特のデザインの甲冑が…ガシャリと揺れた。
「あ、あ…阿修羅ァァ~~ッ、す………すまねぇ、やられちまったァァ」
息も絶え絶えに…弱々しく羅刹が話すのである。
「フフフフフフフフッ…見れば解りますよッ!
そんな事ォォッッ…!!!!!!
本来なら…今、この場で、私が直接…トドメをさしてやりたいトコなんだが…カグヤ様が手塩にかけて造り出した……
単細胞の出来損ないと言えど…貴重な実験体、能力強化兵の適合体の一人なのですから…残念ですが、そうおいそれと殺す訳にはいかないのですよ」
その言葉と共に…細身の優男とは到底思えない怪力で巨大な体躯の羅刹をヒョイッと、いとも軽々しく…簡単に肩に担ぐのであった。
阿修羅は後ろ髪を引かれながら…楓と光透波にウインクと投げキッスをプレゼントすると、天にかざすように右腕を振り上げたのである。
振り上げた右手の薬指に、はめられた指輪………
その指輪にはめこまれている透明感のある黄金色の宝石が…パッとカメラのフラッシュみたいに刹那的に輝いたのだった。
即座にドンッと…規模の小さな爆発が起こる。
辺りは立ち上る土煙と巻き上げられた粉塵で煙幕となり…視界は皆無、何も見えなくなってしまっていた。




