#19
あの瞬間に何が起こっていたのかというと………
羅刹には…まるで何も見えていなかったのである。
自らの左腕でがっしり掴まえていたハズの光透波もろともに上空高く舞い上がり、星々と鮮血に滲む月光に明々と照らし出されるまでは…
羅刹は腕を斬り落とされた事にすら気付かなかったのである。
痛覚さえも知覚出来てはいなかったのである。
それ故に…羅刹が光透波だと思って貫いたのは影人だったのである。
しかし…それは残念ながら影人の残像らしき揺らめいた影。
さらに炎の翼が舞いあげた火の粉とハラハラ落ちてくる炎の羽が…数枚ひらひらと漂うだけの空間だった!
……………………んむッ!?
羅刹は何か違和感を覚えて夜の星空をバッと見上げてみるのだった。
すると…記憶に新しい自らの左腕と光透波が紅い月に照らされていたのである。
「な…何ィィィィ~ッ!」
その瞬間に初めて…羅刹は左腕を斬り落とされた事実に気付かされ、まさかとばかりに疑いながらも左肩の方向を見下ろして確認してみるのだった。
「…嘘だ………ろ……ッ!?
ッ………う、う…う、う、腕がァァァ…~~~~ッ!!
オレ様の腕がァァ~ッ!!」
ザックリと斬り落とされた左肩からは黒煙がブスブスと上がっていて切断面は…まるで木炭のような黒くザラザラとした岩のようであった。
そうでなければ…斬り落とされた左腕と左肩からは間違いなく、ドバドバと大量の鮮血が溢れるように流れ出し、足元に真っ赤な血の池を作り上げていたことであろうと思われるのであった。
「ウワァァァァ~ッッ!!!!
う、う、腕がァァァ~!!
オレ様の腕がァァ~ッ!!」
羅刹が…そう叫ぶのと同時に影人は光透波をキュッと抱き締めていた。
羅刹の斬り落とされた左腕は無残にも彼の目の前に転げ落とされ…翡翠色の宝石が輝くブレスレットは粉々に砕けていったのであった。
羅刹の放っていた禍々しい邪悪な風神のソウルズに似た翡翠色のオーラは…ス~ッと消えていくのであった。
「うああ、なんてことだ…大切なクローンソウルが~……ァッ!!!!」
羅刹は…今だに残る左腕の感覚と虚無感と、そして喪失感に苛まれながら、斬り落とされた左腕と心許なくパラパラと儚く砕け散るクローンソウルを眺め、悲嘆に暮れるばかりであった。
先程の柔和な笑みから…キリリとした真剣な眼差しで影人は光透波に向けて、こう言った。
「なぁ…光透波………
悪いが…少し離れていろッ!」
影人は抱きかかえていた光透波を優しく地面に下ろすと…そっと頬を濡らす、涙の雫を顔の輪郭を指でなぞるようにして拭ってやると離れるように促したのであった。
「うん、わかったよ。
頑張ってね…影人ッ!!」
彼女は素直に返事をしてから…パタパタと早足で影人から離れ、楓達の待つ方向へと避難するのだった。
光透波は…今もドクンドクンと胸を波打つ心臓の鼓動が、影人を好きな気持ちのドキドキなのではと勘違いしそうで心地良い影人の温もりに、もう少しだけ、あのままでいられたら………
…なんて風にも思ってしまうが、今はそんな場合じゃないと首をふるふると小さく振って離れていくのだった。
……………………………
「な、何が、始まるのでしょうか?
………会長ッ!」
竹りんは…何かしら影人のオーラに良い意味で劇的な変化を感じて、影蔵に声を掛けたのである。
「………ふむ、案ずるな!
朱雀様が覚醒められたのじゃよッ!!
ようやく…念神体も姿を現わすようじゃな」
影蔵は…竹りんや皆に安心するようにと、冷静に見守ってやれと声を掛けるのであった。
影人は…ついに朱雀の名を呼ぶのであった。




