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さっきまでの笑い声が、空気に少しだけ残っている。
「おめでたいですね」
キッチンから声をかけると
リビングから悠の短い返事が返る。
「だな」
「お祝い、何にしましょうか」
「……あー、聞けば良かったな」
珍しく抜けたことを言うから、少しおかしくなる。
遥花さんのお腹に手を当てていた湊さんの顔を思い出す。
あんな顔、今まで見たことがなかった。
嬉しくて、でも少し怖くて、守るものができた人の顔。
「遥花さんと湊さん、幸せそうでした」
自然と口に出る。
「……私たちもいつか、ああなれますかね」
言ってから、少しだけ照れくさい。
焦っているわけじゃない。
ただ、なんとなく未来を想像しただけ。
少し間があって、
「俺たちは俺たちだろ」
悠の声は変わらない。
「比べなくていい」
淡々としているけれど、否定ではない。
「幸せの形、決まってないだろ」
そう言われて、ああ、この人らしいなと思う。
ちゃんと順番を大事にして、土台を崩さない人。
「そうですね」
素直に頷ける。
今だって十分、幸せだ。
新しい生活はまだ慣れないことも多いけれど
夜にこうして同じ部屋にいて、
他愛ない話をして、それだけで落ち着く。
それでも。
遥花さんのお腹にそっと触れていた手を
少しだけ思い出す。
ああいう未来も、悪くないな、と。
いつか。
急がなくていいけれど、ああなれたら。
悠はまだ、きっと具体的には考えていない。
でもそれでいい。
俺たちは俺たち。
その言葉は、安心する響きだった。
比べなくていい。
焦らなくていい。
けれど、もし並んで歩いた先に、あんな景色があったら。
それはきっと、素敵だと思う。
朱里はグラスを重ねながら、小さく息を吐く。
未来の形はまだ何も決まっていない。
でも、ほんの少しだけ。
そこに、自分の願いを重ねてみたくなった。




