表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/157

77




朱里が寝た後、


リビングでスマホをいじる。


仕事のメールでもなく、

調べ物でもない。


ただ、ぼんやり。


朱里はちゃんと段階を踏んでる。


出会って、

付き合って、

プロポーズして、

入籍して、

社会人になって。


順番は間違ってない。


早すぎることもない。


むしろ、慎重なくらいだ。


それでも、胸の奥にひっかかる。


「……早えのは、俺のほうか」


声に出してみる。


俺は安定してる。

収入もある。

環境も悪くない。

未来を考える土台はある。


でもそれは、“俺の基準”だ。


朱里はどうだ。


学生を終えたばかり。

社会人一ヶ月目。

環境が全部変わった。


なのに、文句ひとつ言わない。


「妻なんだから」とか言い出す。


それを止めたのは俺だ。


でも。


本当に止められてるか?


寝室のドアを少し開ける。


朱里は丸まって寝ている。


まだ小さい。


俺より、ずっと。


守るとか支えるとか、

そういうことばっかり考えて。


でも、逆は?


「……俺はちゃんと、待ててるか?」


焦ってはいない。


急かしてもいない。


はずだ。


でも、入籍を決めたのは俺だ。


夜間受付にしたのも俺だ。


“段階を踏んでる”と思ってるのは、

全部俺の尺度じゃないのか。


ベッドの端に腰掛ける。


少しだけ動いた朱里が、目を開ける。


「……悠さん?」


「起こしたか」


「いえ……どうしました?」


ぼんやりした声。


一瞬、迷う。


でも聞く。


「後悔してねえか」


空気が止まる。


「……何をですか?」


「俺と結婚したこと」


静かになる。


朱里はゆっくり起き上がる。


「どうしてですか」


「全部早えだろ」


「早くないです」


「私が選びました」


目が、はっきりしている。


「悠さんが決めたんじゃありません」


「でも――」


「社会人も、結婚も、私が決めました」


布団の上で、こちらに向き直る。


「悠さんは、選択肢をくれただけです」


言葉に詰まる。


「段階、踏んでますよ」


少しだけ笑う。


「だから、心配しないでください」


守ることばかり考えて、

並ぶことを忘れていた。


「……悪い」


「謝らないでください」


朱里が小さく手を伸ばす。


「私が大人になるの、待ってくれてるじゃないですか」


その言い方が、少し悔しい。


「俺が待ってるんじゃねえ」


「一緒に歩いてるだけだ」


朱里は少しだけ笑った。


「それなら、安心です」


灯りを消す。


暗闇の中で、朱里の手を握る。


段階は踏んでいる。


間違ってはいない。


でも。


“正しさ”じゃなくて、

“同じ歩幅”でいること。


それが今の俺たちだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ