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体育館の後ろの方で、静かに立つ。


壇上に上がる朱里は

小さくて、でも背筋が伸びていて。


名前を呼ばれた瞬間、ほんの少しだけ緊張した顔をして、


それでもちゃんと、前を向いていた。


ああ。


ちゃんと四年やったんだな、と思う。


終わったあと、外はやけに明るかった。


桜はまだ少し早い。

でも春の匂いがする。


袴姿の朱里は、友達に囲まれて写真を撮っていた。


「朱里ー!こっち!」


「はーい!」


笑っている。


いつもより少し大人びて見える。


でも、俺の視線に気づいた瞬間、


ぱっと表情が変わった。


「悠さん」


小走りで近づいてくる。


「おめでとう」


そう言うと、朱里は一瞬きょとんとしてから

ふわっと笑った。


「ありがとうございます」


「今日で学生終わりか」


「まだ、です。三月いっぱいです」


「もう俺の中では終わってる」


そう言うと、少しだけ目を丸くする。


「え?」


「次に進む準備、できてるだろ」


朱里は少し考えてから、小さく頷いた。


「……はい」


その顔が、もう学生じゃなかった。


「写真、撮るか」


朱里が遠慮がちに聞く。


「一緒にですか?」


「当たり前だろ」


友達に頼んで、並んで立つ。


距離は、自然と近い。


シャッター音が鳴る。


その一枚に、学生最後の朱里と

これから一緒に歩く俺が写る。


それが、妙にしっくりきた。


帰り道。


袴の裾を気にしながら歩く朱里を見てふと思う。


今日で一区切り。


でも終わりじゃない。


始まりだ。


「朱里」


「はい?」


「卒業おめでとう」


今度は、ちゃんと目を見て言う。


朱里は少し照れて、それでもはっきり答えた。


「悠さんと出会えた大学でした」


その言葉に、一瞬だけ言葉を失う。


ずるいな。


「……じゃあ、無駄じゃなかったな」


「無駄な四年なんてありません」


「強くなったな」


「誰の影響だと思ってるんですか」


少しだけ得意げな顔。


ああ、本当に。


ちゃんと大人になった。


でも。


俺の前では、まだ少しだけ甘い顔をする。


それでいい。


「帰るか」


「はい」


手を伸ばす。


迷わず、握り返してくる。


その手の温度が、


もう未来の温度だった。




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